24 / 46
その他
ありがとう、そして
しおりを挟む
確かに最初は遊びだった。もちろん最後まで遊びだった。向こうもそれは同じ、だったと思う。
それでも変わらないものがある。私達の繋がりは、大事なもので、だからこそ刹那の夢であったと思わずにはいられない──。
☆
ネットで出会いを求めるのが普通となった今。ツールとして廃れた掲示板サイトは、その寂れ具合を利用して人には言えない性癖を持つ人々の集まりに打ってつけとなった。私もその一人で、よく掲示板を見ては予定を合わせて性欲の発散をしてた。
だって誰にも、恋人にも言えない。痛みや服従感。それらが私の生きる証になってるだなんて。まして自傷癖を治さねばならない社会人という立場になれば尚更、別の方法で自分を痛めつけてくれるモノが欲しくなってしまうのは必然といえたんじゃないかって今でも思う。
だから恋人がいようがいまいが、私はその世界に居続けた。普通の人は理解できないだろうけど、そこでは恋人と性癖パートナーは別ものとして考えるのが普通で、恋人がいても構わないと言ってくれる人が多かった。その言葉に、そしてその世界の常識に私は甘えてしまった。
──甘えたその先に覚悟を求められる日がくるだなんて思いもしなかった。
ある日の昼下がり。軽い電子音が流れて、たまたまそのメッセージを返している途中、彼氏に見られてしまうなんてことが起きる、それまでは。
「お前、何だ今のやり取り……てかそいつ何だよ……⁉︎」
その反応は最もだと思う。私が逆の立場だったとしてもそう口走るだろうから。反面、私の反応はいたく冷静に相手には見えたのかもしれない。セフレだと話せば顔を歪ませて、俺じゃ物足りないのかと問い出された。
足りる、足りないの話でいえば十分なくらいに足りてる。愛に溢れ、優しくされた先に交わる。甘く蕩けるような行為を嫌うわけじゃない。
でも、それとこれとは別に、私にとって生きて良い証──痛みが必要なことを話せば、きっと心優しい彼のことだ、苦しむだろう。案の定、その一部分を話しただけで泣きそうな表情をされてしまったのだから。
もうこれは別れることになると思っていたのに、神様はどうやら、時に優しく笑みを浮かべながら酷なことを求めてくるようだ。
「それでも俺は、お前と一緒に居たいんだよ。そりゃ、他の男に抱かれるなんて嫌だけどさ。……俺じゃ無理なんだろ? だからそいつらに頼るんだろ? だったらお前が求められるように俺が努力すれば良いだけの話じゃんか」
そう言って無理に笑う彼を見て、私の何かが壊れた。
もうこれ以上、彼を騙したくない。嘘を吐き続けたくない。彼を、裏切りたくない。苦しめたくない。──解放してあげたいのに、離したくない。
矛盾した想いが体中を駆け巡り、いつしか熱い雫となって頰を伝った。
慰めてくれる彼の手を頭に感じながら、手に握っていた携帯を握りしめる。明日、ケリをつけようと。
☆
「そっか。残念だな、相性が良かったのに」
実にあっさりと、ある意味当たり前な反応に強張っていた体の力が抜ける。カフェで一服した後はラブホの流れ。それがもうない。今日以降、会うことはない。
変な言い方をすれば足を洗うような感覚にむず痒くなる。同時に、何だか不安定な気持ちにも襲われる。今の今まで安定をはかっていた居場所がなくなる、その感覚は初めて。だからだろうか、目の前の人物と繋がるのある連絡アプリを入れたままにしているのは。
それは向こうも気づいている。そして私の意志の弱さも短い関係ながらに知っている。
それゆえに、最後の命令だ、と彼は告げた。
「今ここで、俺の目の前であのアプリを消せ」
「っ、それは……」
もう二度と、私達は会えなくなる。たとえアプリを入れ直したとして、連絡が取り合える確証なんてなくなってしまう。だってこれ以外の連絡手段を持っていない上に、普段の生活で関わるなんてこともない。
つまり彼との繋がりだけでなく、完全にあの世界の住民達と離れろと──離れて彼と進む道を行けと、目の前の人は言い放ったのだ。
何も言わない彼の目は、けれどいつもホテルで私を抱いている時と同じ光を宿していて、逃してもらえないことを本能ともいうべき部分が悟る。
震えそうになりながら携帯を取り出して、アプリを消す直前で、つい言葉が漏れた。
本当に、良いんですか、と。
返答はなく、俯いていたからどんな表情をしていたのかは分からない。それでも私はその意味を感じ取れた気がした。
「削除」の文字をタップして、私達の関係は終わりを告げた。
それでも変わらないものがある。私達の繋がりは、大事なもので、だからこそ刹那の夢であったと思わずにはいられない──。
☆
ネットで出会いを求めるのが普通となった今。ツールとして廃れた掲示板サイトは、その寂れ具合を利用して人には言えない性癖を持つ人々の集まりに打ってつけとなった。私もその一人で、よく掲示板を見ては予定を合わせて性欲の発散をしてた。
だって誰にも、恋人にも言えない。痛みや服従感。それらが私の生きる証になってるだなんて。まして自傷癖を治さねばならない社会人という立場になれば尚更、別の方法で自分を痛めつけてくれるモノが欲しくなってしまうのは必然といえたんじゃないかって今でも思う。
だから恋人がいようがいまいが、私はその世界に居続けた。普通の人は理解できないだろうけど、そこでは恋人と性癖パートナーは別ものとして考えるのが普通で、恋人がいても構わないと言ってくれる人が多かった。その言葉に、そしてその世界の常識に私は甘えてしまった。
──甘えたその先に覚悟を求められる日がくるだなんて思いもしなかった。
ある日の昼下がり。軽い電子音が流れて、たまたまそのメッセージを返している途中、彼氏に見られてしまうなんてことが起きる、それまでは。
「お前、何だ今のやり取り……てかそいつ何だよ……⁉︎」
その反応は最もだと思う。私が逆の立場だったとしてもそう口走るだろうから。反面、私の反応はいたく冷静に相手には見えたのかもしれない。セフレだと話せば顔を歪ませて、俺じゃ物足りないのかと問い出された。
足りる、足りないの話でいえば十分なくらいに足りてる。愛に溢れ、優しくされた先に交わる。甘く蕩けるような行為を嫌うわけじゃない。
でも、それとこれとは別に、私にとって生きて良い証──痛みが必要なことを話せば、きっと心優しい彼のことだ、苦しむだろう。案の定、その一部分を話しただけで泣きそうな表情をされてしまったのだから。
もうこれは別れることになると思っていたのに、神様はどうやら、時に優しく笑みを浮かべながら酷なことを求めてくるようだ。
「それでも俺は、お前と一緒に居たいんだよ。そりゃ、他の男に抱かれるなんて嫌だけどさ。……俺じゃ無理なんだろ? だからそいつらに頼るんだろ? だったらお前が求められるように俺が努力すれば良いだけの話じゃんか」
そう言って無理に笑う彼を見て、私の何かが壊れた。
もうこれ以上、彼を騙したくない。嘘を吐き続けたくない。彼を、裏切りたくない。苦しめたくない。──解放してあげたいのに、離したくない。
矛盾した想いが体中を駆け巡り、いつしか熱い雫となって頰を伝った。
慰めてくれる彼の手を頭に感じながら、手に握っていた携帯を握りしめる。明日、ケリをつけようと。
☆
「そっか。残念だな、相性が良かったのに」
実にあっさりと、ある意味当たり前な反応に強張っていた体の力が抜ける。カフェで一服した後はラブホの流れ。それがもうない。今日以降、会うことはない。
変な言い方をすれば足を洗うような感覚にむず痒くなる。同時に、何だか不安定な気持ちにも襲われる。今の今まで安定をはかっていた居場所がなくなる、その感覚は初めて。だからだろうか、目の前の人物と繋がるのある連絡アプリを入れたままにしているのは。
それは向こうも気づいている。そして私の意志の弱さも短い関係ながらに知っている。
それゆえに、最後の命令だ、と彼は告げた。
「今ここで、俺の目の前であのアプリを消せ」
「っ、それは……」
もう二度と、私達は会えなくなる。たとえアプリを入れ直したとして、連絡が取り合える確証なんてなくなってしまう。だってこれ以外の連絡手段を持っていない上に、普段の生活で関わるなんてこともない。
つまり彼との繋がりだけでなく、完全にあの世界の住民達と離れろと──離れて彼と進む道を行けと、目の前の人は言い放ったのだ。
何も言わない彼の目は、けれどいつもホテルで私を抱いている時と同じ光を宿していて、逃してもらえないことを本能ともいうべき部分が悟る。
震えそうになりながら携帯を取り出して、アプリを消す直前で、つい言葉が漏れた。
本当に、良いんですか、と。
返答はなく、俯いていたからどんな表情をしていたのかは分からない。それでも私はその意味を感じ取れた気がした。
「削除」の文字をタップして、私達の関係は終わりを告げた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる