十人十色(旧題:短編集)

星野 夜空

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変わらぬものはそこに

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 昔の腐れ縁と再度出会う、なんてことがあるのは同窓会だけだと思ってた。それが街中の酒場で、店員と客として再会するだなんて誰が思い浮かぶのだろうか。そんなチープな物語が世には起きるのだから人生分からないものだ。
 それも夫婦で営んでるその店、つまり主人と女将にあたる二人ともが俺の友人であれば尚更奇縁と言わざるを得ない。

「いや、まさか二人が結婚してるなんてな。それも居酒屋を経営するなんて」
「昔から何かに属して生きるってのが苦手で、だから脱サラして始めただけなんだけどな」

 花金とはいえ夜も頃合いだというのに小さい店内は騒めきに埋まっている。カウンターとキッチンが間近にある為に会話がしやすく、それ故に多少周りが騒がしくとも受け答えが聞きやすい。
 元からあった、要するに潰れた店を買い取ってやり始めたというから、前の店主は部屋の大きさや構造を分かって店づくりしたのだろう。運が良かったと笑う友人にまったくだなと同意した。

「それにしても、反対とかしなかったの? こういう飲み屋の経営に不安とかあったでしょ」

 今は妻となった彼女へ話を振れば、接客に一区切り着いたようで話に乗ってくれた。曰く、不安はあったけどやるしかないと思ったそうだ。

「元々この人が働いてた場所が場所でね、体か心を壊すんじゃないかってヒヤヒヤしてたの。それなら好きにやれる個人経営の方がこの人の為になると思ったのよ」

 お陰で苦労は絶えないけどと笑う彼女は、それでも後悔はないと分かるそれで、過去にほんの少しだけ憧れのあった彼女に変わらない眩しさを感じた。
 その隣で照れくさそうにそっぽを向いた友人は、この話はやめだと手を振ってきた。

「それよか何飲むんだよ、グラスが空いてるぞ」
「あ、そうやって飲まして金取る気だな⁉︎ 昔のよしみだからって!」
「人聞き悪いな! うちは真っ当な店だよ!」

 言い合う中にも笑いは絶えず、昔のような空気が俺達にはあり。ここに来ればまたこの感情を味わえるのだろう。旧懐きゅうかいとも郷愁ともいえるこの気持ちを。
 ここに長く通う自分と、その先の未来に想いを馳せて俺は次の一杯を頼んだ。
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