十人十色(旧題:短編集)

星野 夜空

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その他

繋がりを得て

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 私という存在はひどく曖昧な存在だと説明したことがあったかもしれないが、今一度ここにしるしておこうと思う。というのも、最近の「私」はどうにも変な感覚であるからだ。
 まず、記憶に関して。これが最も説明しやすいものだから、先に話そう。といっても大したことはない、時々自分が自分でない行動を起こしている、そんな記憶があるだけだ。例えるなら、そう、酔った勢いで話したり行動したりしてしまうことがあるだろう。あれが日常的に起きていると考えてもらえたら分かりやすいかもしれない。
 ただ、これが日常的というのは少々厄介なもので、なんといっても仕事と私事に大変面倒なことを引き起こしかねない。いや、現に引き起こしてしまっている。しかしだからといって手立てがあるはずもなく、私は私として過ごしていたある日のことだ。どこからか──頭の中としか言いようがない場所から声が聞こえたのは。
 正直に話すと、自分がおかしくなってしまったかと思ってしまったほどだ。考えてもみてほしい、幻聴とは言いがたい明瞭な言葉、それでいて自分にはおかしいことなどしてないのだから。その時の私はお酒も、ましてや医療薬といったものでさえ飲んでいないのだから。
 そう、だから。『ああ、ようやく聞こえましたか』と聞こえた時、どうしてしまったのだろうと不安に感じたのは間違いじゃないと信じている。

『まずは自己紹介を。僕は貴方であり、貴方でありません。聡い貴方でしたらご理解されるかと』

 その説明に一瞬首を傾げたけど、「私であり私でない」ことと、「ようやく聞こえた」今の状況を組み合わせた答えを口に出す。

「貴方は、別の私で、私じゃない。……名前は?」
『ふふ。***と申します』

 その名は私の名前を入れ替えたら生まれるアナグラムとなっていて、ああそういうことかと真に受け入れた。
 記憶があやふやなことが多いし、心当たりのない出来事も多かったけど、これで話は繋がった。
 のことで、私は安心感を得た。どれだけの異常性があるかよりも、私は心の安寧を求めたのだ。
 だって当然だろう。記憶がある、ないにしても、常に襲ってくる分からないことが分かる感覚、知らないのに知っている知識があるということは存外怖くて、気持ち悪いのだから。
 そう、だから。だから私は、を受け入れた。
 他にもいる、ということを知らずに。
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