十人十色(旧題:短編集)

星野 夜空

文字の大きさ
上 下
21 / 46
その他

罪の子だから

しおりを挟む
 たとえ世界が否定しなくても、僕は僕を否定する。いてはならぬ存在というのは、必ず誰かの中にいるもの。たまたまそれが自分自身だった。ただそれだけの話。
 だというのに、どうして彼は泣きそうな顔でそれは違うと声を荒げるのだろう。不思議で仕方ない。

「お前は、生きてて良いんだよ! 生きててほしいんだよ! お前がいなきゃ、俺は……俺は……っ!!」

 それ以上は言いたくないとでもいうように口をつぐみ、僕の腕を引いて彼の胸へ閉じ込めた。まるで消えてくれるなと全身で表現するかのように。
 けれど、こっちとしては冷めた中身とでも表せばいいのだろうか。どんなに向こうが嫌だと訴えてきても全く心に響かない。それどころか、それがどうしたと聞きたくなる。
 の存在は許されるものじゃないのに。それは彼も分かっているはずなのに。何故今更言ってきているのか分からない。
 第一、僕がいなくなったところで困るとは到底思えない。精神的に強くて、だからこそ人望もあり、いつも輝いてる君が、たった一人、僕が消えたところで変わるなんて考えられない。
 だからというわけじゃないけど、気まぐれに聞いてみることにした。どうしてそんなに僕が必要なのか、と。

「そんなの、お前が好きだからに決まってるだろ!」

 放たれた台詞は何とも陳腐なもので、どこかで聞いたことがあるもの。途端に僕の心は急激に彼から離れていくのが感覚として分かった。
 それは物理的な距離も同じで、気づいた時には抱きしめられていた腕の中から彼を突き飛ばしていた。予想外の出来事だったのか、普段なら逃げられないそこからいとも簡単にいなくなることができたことに僕自身も驚いていたのは内緒だ。

「そういう言葉は、もっと早く聞きたかったよ」

 口から出てきた言葉は本心からのもので、ゆえに彼のことを傷つけたと表情で察した。だからといって訂正するようなら最初から言わない。
 しばしの間、何ともいえない空気が二人の間を漂う。無駄な時間だと思いつつも流れた時間はそれほど長くないと時計の針が示した頃、ようやく事態は動いた。
 黙って何かを考えていた彼が、常には見せない顔を僕へ向けてきたことで。

「どうしてお前は」

 続きを話そうとしたところで下校時間のお知らせタイムリミットがきたことを知らされた。
 流れる放送に目を丸くして聞く姿を何とはなしに見ながら、近くの机に置いていた鞄を手に取る。いつもより若干重たいと感じながら帰ろうと声をかけた。
 暗にこの話はもうおしまいだと告げて。

「早く帰らないと義母かあさんが心配するよ。義兄にいさん」
「──ああ」

 何か苦いものを食べてしまった時によくする表情に納得いっていないことがありありと伝わる。それでも心配性なあの人のことを分かっている為に、帰る準備は手早いものだった。
 まあ、不倫の子である僕は心配されたことなんて一切ないけどね。もとよりそれが普通だと歳を重ねるにつれて理解していったから今や当たり前となった。
 だから僕の進路に義兄さん以外誰も反対なんてしなかった。本人も、まさか大学に合格してから知らされるなんて思ってもいなかったろうから驚いてるだけだろうし。
 頭の良さだけは兄弟揃って良かったことを初めていもしないはずの神様へ感謝した。

「いつ、引っ越すんだ?」
「予定じゃ卒業式の日。向こうでの生活を早めに整えたいから」
「……そうか。んじゃ、まだ日はあるな」

 そうともいえないと思うよ。出かかった言葉は告げないことにした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

看病ヤンデレ

名乃坂
恋愛
体調不良のヒロインがストーカーヤンデレ男に看病されるお話です。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

偶然PTAのママと

Rollman
恋愛
偶然PTAのママ友を見てしまった。

最愛の彼

詩織
恋愛
部長の愛人がバレてた。 彼の言うとおりに従ってるうちに私の中で気持ちが揺れ動く

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

処理中です...