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その他
罪の子だから
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たとえ世界が否定しなくても、僕は僕を否定する。いてはならぬ存在というのは、必ず誰かの中にいるもの。たまたまそれが自分自身だった。ただそれだけの話。
だというのに、どうして彼は泣きそうな顔でそれは違うと声を荒げるのだろう。不思議で仕方ない。
「お前は、生きてて良いんだよ! 生きててほしいんだよ! お前がいなきゃ、俺は……俺は……っ!!」
それ以上は言いたくないとでもいうように口をつぐみ、僕の腕を引いて彼の胸へ閉じ込めた。まるで消えてくれるなと全身で表現するかのように。
けれど、こっちとしては冷めた中身とでも表せばいいのだろうか。どんなに向こうが嫌だと訴えてきても全く心に響かない。それどころか、それがどうしたと聞きたくなる。
僕の存在は許されるものじゃないのに。それは彼も分かっているはずなのに。何故今更言ってきているのか分からない。
第一、僕がいなくなったところで困るとは到底思えない。精神的に強くて、だからこそ人望もあり、いつも輝いてる君が、たった一人、僕が消えたところで変わるなんて考えられない。
だからというわけじゃないけど、気まぐれに聞いてみることにした。どうしてそんなに僕が必要なのか、と。
「そんなの、お前が好きだからに決まってるだろ!」
放たれた台詞は何とも陳腐なもので、どこかで聞いたことがあるもの。途端に僕の心は急激に彼から離れていくのが感覚として分かった。
それは物理的な距離も同じで、気づいた時には抱きしめられていた腕の中から彼を突き飛ばしていた。予想外の出来事だったのか、普段なら逃げられないそこからいとも簡単にいなくなることができたことに僕自身も驚いていたのは内緒だ。
「そういう言葉は、もっと早く聞きたかったよ」
口から出てきた言葉は本心からのもので、ゆえに彼のことを傷つけたと表情で察した。だからといって訂正するようなら最初から言わない。
しばしの間、何ともいえない空気が二人の間を漂う。無駄な時間だと思いつつも流れた時間はそれほど長くないと時計の針が示した頃、ようやく事態は動いた。
黙って何かを考えていた彼が、常には見せない顔を僕へ向けてきたことで。
「どうしてお前は」
続きを話そうとしたところで下校時間のお知らせがきたことを知らされた。
流れる放送に目を丸くして聞く姿を何とはなしに見ながら、近くの机に置いていた鞄を手に取る。いつもより若干重たいと感じながら帰ろうと声をかけた。
暗にこの話はもうおしまいだと告げて。
「早く帰らないと義母さんが心配するよ。義兄さん」
「──ああ」
何か苦いものを食べてしまった時によくする表情に納得いっていないことがありありと伝わる。それでも心配性なあの人のことを分かっている為に、帰る準備は手早いものだった。
まあ、不倫の子である僕は心配されたことなんて一切ないけどね。もとよりそれが普通だと歳を重ねるにつれて理解していったから今や当たり前となった。
だから僕の進路に義兄さん以外誰も反対なんてしなかった。本人も、まさか大学に合格してから知らされるなんて思ってもいなかったろうから驚いてるだけだろうし。
頭の良さだけは兄弟揃って良かったことを初めていもしないはずの神様へ感謝した。
「いつ、引っ越すんだ?」
「予定じゃ卒業式の日。向こうでの生活を早めに整えたいから」
「……そうか。んじゃ、まだ日はあるな」
そうともいえないと思うよ。出かかった言葉は告げないことにした。
だというのに、どうして彼は泣きそうな顔でそれは違うと声を荒げるのだろう。不思議で仕方ない。
「お前は、生きてて良いんだよ! 生きててほしいんだよ! お前がいなきゃ、俺は……俺は……っ!!」
それ以上は言いたくないとでもいうように口をつぐみ、僕の腕を引いて彼の胸へ閉じ込めた。まるで消えてくれるなと全身で表現するかのように。
けれど、こっちとしては冷めた中身とでも表せばいいのだろうか。どんなに向こうが嫌だと訴えてきても全く心に響かない。それどころか、それがどうしたと聞きたくなる。
僕の存在は許されるものじゃないのに。それは彼も分かっているはずなのに。何故今更言ってきているのか分からない。
第一、僕がいなくなったところで困るとは到底思えない。精神的に強くて、だからこそ人望もあり、いつも輝いてる君が、たった一人、僕が消えたところで変わるなんて考えられない。
だからというわけじゃないけど、気まぐれに聞いてみることにした。どうしてそんなに僕が必要なのか、と。
「そんなの、お前が好きだからに決まってるだろ!」
放たれた台詞は何とも陳腐なもので、どこかで聞いたことがあるもの。途端に僕の心は急激に彼から離れていくのが感覚として分かった。
それは物理的な距離も同じで、気づいた時には抱きしめられていた腕の中から彼を突き飛ばしていた。予想外の出来事だったのか、普段なら逃げられないそこからいとも簡単にいなくなることができたことに僕自身も驚いていたのは内緒だ。
「そういう言葉は、もっと早く聞きたかったよ」
口から出てきた言葉は本心からのもので、ゆえに彼のことを傷つけたと表情で察した。だからといって訂正するようなら最初から言わない。
しばしの間、何ともいえない空気が二人の間を漂う。無駄な時間だと思いつつも流れた時間はそれほど長くないと時計の針が示した頃、ようやく事態は動いた。
黙って何かを考えていた彼が、常には見せない顔を僕へ向けてきたことで。
「どうしてお前は」
続きを話そうとしたところで下校時間のお知らせがきたことを知らされた。
流れる放送に目を丸くして聞く姿を何とはなしに見ながら、近くの机に置いていた鞄を手に取る。いつもより若干重たいと感じながら帰ろうと声をかけた。
暗にこの話はもうおしまいだと告げて。
「早く帰らないと義母さんが心配するよ。義兄さん」
「──ああ」
何か苦いものを食べてしまった時によくする表情に納得いっていないことがありありと伝わる。それでも心配性なあの人のことを分かっている為に、帰る準備は手早いものだった。
まあ、不倫の子である僕は心配されたことなんて一切ないけどね。もとよりそれが普通だと歳を重ねるにつれて理解していったから今や当たり前となった。
だから僕の進路に義兄さん以外誰も反対なんてしなかった。本人も、まさか大学に合格してから知らされるなんて思ってもいなかったろうから驚いてるだけだろうし。
頭の良さだけは兄弟揃って良かったことを初めていもしないはずの神様へ感謝した。
「いつ、引っ越すんだ?」
「予定じゃ卒業式の日。向こうでの生活を早めに整えたいから」
「……そうか。んじゃ、まだ日はあるな」
そうともいえないと思うよ。出かかった言葉は告げないことにした。
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