俺はフローズンで、アイツはアイスで

星野 夜空

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 いや、気のせいじゃない。そう気づいたのはお試し期間をし始めてすぐだった。
 ふとした時に見せる影のある笑顔。それは決まって会話が長くなり始める時に見せる。

「あーなるほど。そこの公式ってそうなるのか。サンキュー」
「……どう、いたしまして。僕の話、聞きにくい、のに」
「慣れたらそうでもないぞ。むしろ俺、頭良くはないからさ。区切ってもらうと助かるんだ」
「そ、か。それ、なら……よかった……」

 ああ、ほらまただ。またその顔を見せる。ただ頭の悪い俺に合わせて話してくれてるだけじゃねえの?
 バカな俺にはそっちが何考えてるか分かんねえんだよ。教えてくれよ、頼むから。俺は──俺たちは仮とはいえ、パートナーになり得る存在になるってのに。
 モヤモヤ、モヤモヤ。言葉に出来ない気持ちは症状になって出てきた。

「ちょっと健! アンタ、もしかして」

 家に着くなり母さんが驚いた顔で俺を見たかと思えば、すぐどこかに電話をかけ始めた。相手は漏れ出てる声を聞くに、みぎりおじさん。父さんの従兄で──アイスの人。
 その人に電話をかけてるってことは、もしかしたら凍結症が出てきてしまったのかもしれない。目に分かるほどってことは、初期症状にしてはもしかしたら重たく出てるのかも、正直今の俺には分からない。
 今のハルは、俺のこと何も思ってない、かもしれないのに。自分のことすら分からないなんておかしな話だ。
 砌おじさんは母さんの電話が終わって、割とすぐに来てくれた。それもパートナーの透さんも連れて駆けつけてくれた。
 すぐにおじさんは俺の手をそっと握ってくれる。それだけでかじかみ始めていた手がじんわりと温まってきて、知らずに詰めていた息を吐いた。
 息はまだ、温かい。
 おじさんもそれは感じたらしくて、安心した息を出したのが分かった。

「健。お前今、試し期間ってやつなのか。それとも別の人を好きになったのか」

 部屋には俺と透さんと、砌おじさんしかいない。そして俺は、申し訳ないがおじさんみたいに頭が良くない。ド直球に言われたくらいが、丁度良いくらいには。

「……お試し期間だよ。相手はソイツ。だから、何とかなる」
「相手はお前のこと、どのくらい知ってるんだ。お前は相手のことを……どれくらい、知ってる」

 いつもクールなおじさんが、何となく緊張してるような顔で聞いてくる。──そのくらい、フローズンとアイスの関係は大事にしなきゃいけないことなんだと、直感が伝えてきた。

「お前にはまだ話してなかったな。俺と透の馴れ初め」
「へ? 砌おじさんと透さんの? ええーと……ドナー制度? ってやつじゃないんか?」
「きっかけはそれで合っているさ。でもな、最初は透の一目惚れから始まってたんだ」
「透さんの!?」

 意外すぎて思わず本人を見ると、苦笑いのような顔をしていた。あながち間違いじゃないらしい。
 砌おじさん、今でも透さんにぞっこんだからてっきりおじさんからかと思ってたのに、超がつくほどびっくりだ。控えめっての? あんまり話したことないけど、案外透さんもスミニオケナイ男、ってやつ?

「ガンガン俺から迫って迫って、告白して今こうして一緒になった理由も俺からだ。ただな、アイスは相手を想えば想うほど溶けそうになるのに対して、フローズンは冷えてく。その冷える早さが透は分かりやすかったから、俺は迫ることが出来たんだ」
「え、と? つまりおじさん、意外とヘタレ?」
「計算高いっていうんだよそういう時は」

 今時デコピンされながら言われることじゃねえっての。つか俺の恋愛? 相談はどこいった。

「話を戻すと、お前はお前が考えてる以上に、お見合い相手を大事にしてるってこった。俺みたいにガンガン押してけ」
「はあ? 無理無理、相手の高校、おじさんの出身校だよ! 俺と頭の出来が違いすぎるし、アイツ、俺に合わせて勉強教えてくれるくらいでむしろ足引っ張ってるんだけど!?」
「そんなお前に付き合ってくれる奇特なヤツも中々いないぞ」
「砌……それは流石に俺の心もエグるからやめて……」

 あ、透さんも俺と同じでやられてる。……そういや透さんも俺と成績が似たり寄ったりだったって、ずっと昔に聞いたような……。
 つか、そっか。頭の良さとかなんだとかは、未来に必要だけど必要じゃないんだ。この二人がそう証明してんじゃん。そうじゃん。何ビビってんだ俺。

「おじさんサンキュー。ちょっと頑張ってみるわ」
「おう。ダメな時は助けてやる。ぶつかってこい」

 ヒールのような笑みでカッコ良いセリフを言うおじさんは、やっぱり俺の中では憧れの存在そのままだ。
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