2 / 4
2
しおりを挟む
いや、気のせいじゃない。そう気づいたのはお試し期間をし始めてすぐだった。
ふとした時に見せる影のある笑顔。それは決まって会話が長くなり始める時に見せる。
「あーなるほど。そこの公式ってそうなるのか。サンキュー」
「……どう、いたしまして。僕の話、聞きにくい、のに」
「慣れたらそうでもないぞ。むしろ俺、頭良くはないからさ。区切ってもらうと助かるんだ」
「そ、か。それ、なら……よかった……」
ああ、ほらまただ。またその顔を見せる。ただ頭の悪い俺に合わせて話してくれてるだけじゃねえの?
バカな俺にはそっちが何考えてるか分かんねえんだよ。教えてくれよ、頼むから。俺は──俺たちは仮とはいえ、パートナーになり得る存在になるってのに。
モヤモヤ、モヤモヤ。言葉に出来ない気持ちは症状になって出てきた。
「ちょっと健! アンタ、もしかして」
家に着くなり母さんが驚いた顔で俺を見たかと思えば、すぐどこかに電話をかけ始めた。相手は漏れ出てる声を聞くに、砌おじさん。父さんの従兄で──アイスの人。
その人に電話をかけてるってことは、もしかしたら凍結症が出てきてしまったのかもしれない。目に分かるほどってことは、初期症状にしてはもしかしたら重たく出てるのかも、正直今の俺には分からない。
今のハルは、俺のこと何も思ってない、かもしれないのに。自分のことすら分からないなんておかしな話だ。
砌おじさんは母さんの電話が終わって、割とすぐに来てくれた。それもパートナーの透さんも連れて駆けつけてくれた。
すぐにおじさんは俺の手をそっと握ってくれる。それだけでかじかみ始めていた手がじんわりと温まってきて、知らずに詰めていた息を吐いた。
息はまだ、温かい。
おじさんもそれは感じたらしくて、安心した息を出したのが分かった。
「健。お前今、試し期間ってやつなのか。それとも別の人を好きになったのか」
部屋には俺と透さんと、砌おじさんしかいない。そして俺は、申し訳ないがおじさんみたいに頭が良くない。ド直球に言われたくらいが、丁度良いくらいには。
「……お試し期間だよ。相手はソイツ。だから、何とかなる」
「相手はお前のこと、どのくらい知ってるんだ。お前は相手のことを……どれくらい、知ってる」
いつもクールなおじさんが、何となく緊張してるような顔で聞いてくる。──そのくらい、フローズンとアイスの関係は大事にしなきゃいけないことなんだと、直感が伝えてきた。
「お前にはまだ話してなかったな。俺と透の馴れ初め」
「へ? 砌おじさんと透さんの? ええーと……ドナー制度? ってやつじゃないんか?」
「きっかけはそれで合っているさ。でもな、最初は透の一目惚れから始まってたんだ」
「透さんの!?」
意外すぎて思わず本人を見ると、苦笑いのような顔をしていた。あながち間違いじゃないらしい。
砌おじさん、今でも透さんにぞっこんだからてっきりおじさんからかと思ってたのに、超がつくほどびっくりだ。控えめっての? あんまり話したことないけど、案外透さんもスミニオケナイ男、ってやつ?
「ガンガン俺から迫って迫って、告白して今こうして一緒になった理由も俺からだ。ただな、アイスは相手を想えば想うほど溶けそうになるのに対して、フローズンは冷えてく。その冷える早さが透は分かりやすかったから、俺は迫ることが出来たんだ」
「え、と? つまりおじさん、意外とヘタレ?」
「計算高いっていうんだよそういう時は」
今時デコピンされながら言われることじゃねえっての。つか俺の恋愛? 相談はどこいった。
「話を戻すと、お前はお前が考えてる以上に、お見合い相手を大事にしてるってこった。俺みたいにガンガン押してけ」
「はあ? 無理無理、相手の高校、おじさんの出身校だよ! 俺と頭の出来が違いすぎるし、アイツ、俺に合わせて勉強教えてくれるくらいでむしろ足引っ張ってるんだけど!?」
「そんなお前に付き合ってくれる奇特なヤツも中々いないぞ」
「砌……それは流石に俺の心もエグるからやめて……」
あ、透さんも俺と同じでやられてる。……そういや透さんも俺と成績が似たり寄ったりだったって、ずっと昔に聞いたような……。
つか、そっか。頭の良さとかなんだとかは、未来に必要だけど必要じゃないんだ。この二人がそう証明してんじゃん。そうじゃん。何ビビってんだ俺。
「おじさんサンキュー。ちょっと頑張ってみるわ」
「おう。ダメな時は助けてやる。ぶつかってこい」
ヒールのような笑みでカッコ良いセリフを言うおじさんは、やっぱり俺の中では憧れの存在そのままだ。
ふとした時に見せる影のある笑顔。それは決まって会話が長くなり始める時に見せる。
「あーなるほど。そこの公式ってそうなるのか。サンキュー」
「……どう、いたしまして。僕の話、聞きにくい、のに」
「慣れたらそうでもないぞ。むしろ俺、頭良くはないからさ。区切ってもらうと助かるんだ」
「そ、か。それ、なら……よかった……」
ああ、ほらまただ。またその顔を見せる。ただ頭の悪い俺に合わせて話してくれてるだけじゃねえの?
バカな俺にはそっちが何考えてるか分かんねえんだよ。教えてくれよ、頼むから。俺は──俺たちは仮とはいえ、パートナーになり得る存在になるってのに。
モヤモヤ、モヤモヤ。言葉に出来ない気持ちは症状になって出てきた。
「ちょっと健! アンタ、もしかして」
家に着くなり母さんが驚いた顔で俺を見たかと思えば、すぐどこかに電話をかけ始めた。相手は漏れ出てる声を聞くに、砌おじさん。父さんの従兄で──アイスの人。
その人に電話をかけてるってことは、もしかしたら凍結症が出てきてしまったのかもしれない。目に分かるほどってことは、初期症状にしてはもしかしたら重たく出てるのかも、正直今の俺には分からない。
今のハルは、俺のこと何も思ってない、かもしれないのに。自分のことすら分からないなんておかしな話だ。
砌おじさんは母さんの電話が終わって、割とすぐに来てくれた。それもパートナーの透さんも連れて駆けつけてくれた。
すぐにおじさんは俺の手をそっと握ってくれる。それだけでかじかみ始めていた手がじんわりと温まってきて、知らずに詰めていた息を吐いた。
息はまだ、温かい。
おじさんもそれは感じたらしくて、安心した息を出したのが分かった。
「健。お前今、試し期間ってやつなのか。それとも別の人を好きになったのか」
部屋には俺と透さんと、砌おじさんしかいない。そして俺は、申し訳ないがおじさんみたいに頭が良くない。ド直球に言われたくらいが、丁度良いくらいには。
「……お試し期間だよ。相手はソイツ。だから、何とかなる」
「相手はお前のこと、どのくらい知ってるんだ。お前は相手のことを……どれくらい、知ってる」
いつもクールなおじさんが、何となく緊張してるような顔で聞いてくる。──そのくらい、フローズンとアイスの関係は大事にしなきゃいけないことなんだと、直感が伝えてきた。
「お前にはまだ話してなかったな。俺と透の馴れ初め」
「へ? 砌おじさんと透さんの? ええーと……ドナー制度? ってやつじゃないんか?」
「きっかけはそれで合っているさ。でもな、最初は透の一目惚れから始まってたんだ」
「透さんの!?」
意外すぎて思わず本人を見ると、苦笑いのような顔をしていた。あながち間違いじゃないらしい。
砌おじさん、今でも透さんにぞっこんだからてっきりおじさんからかと思ってたのに、超がつくほどびっくりだ。控えめっての? あんまり話したことないけど、案外透さんもスミニオケナイ男、ってやつ?
「ガンガン俺から迫って迫って、告白して今こうして一緒になった理由も俺からだ。ただな、アイスは相手を想えば想うほど溶けそうになるのに対して、フローズンは冷えてく。その冷える早さが透は分かりやすかったから、俺は迫ることが出来たんだ」
「え、と? つまりおじさん、意外とヘタレ?」
「計算高いっていうんだよそういう時は」
今時デコピンされながら言われることじゃねえっての。つか俺の恋愛? 相談はどこいった。
「話を戻すと、お前はお前が考えてる以上に、お見合い相手を大事にしてるってこった。俺みたいにガンガン押してけ」
「はあ? 無理無理、相手の高校、おじさんの出身校だよ! 俺と頭の出来が違いすぎるし、アイツ、俺に合わせて勉強教えてくれるくらいでむしろ足引っ張ってるんだけど!?」
「そんなお前に付き合ってくれる奇特なヤツも中々いないぞ」
「砌……それは流石に俺の心もエグるからやめて……」
あ、透さんも俺と同じでやられてる。……そういや透さんも俺と成績が似たり寄ったりだったって、ずっと昔に聞いたような……。
つか、そっか。頭の良さとかなんだとかは、未来に必要だけど必要じゃないんだ。この二人がそう証明してんじゃん。そうじゃん。何ビビってんだ俺。
「おじさんサンキュー。ちょっと頑張ってみるわ」
「おう。ダメな時は助けてやる。ぶつかってこい」
ヒールのような笑みでカッコ良いセリフを言うおじさんは、やっぱり俺の中では憧れの存在そのままだ。
10
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

俺のアイスは、一目惚れ
星野 夜空
BL
アイスとフローズン。それは近代に発見された、遺伝子異常というなの疾患通称名だ。
彼こと日比谷 透(ひびや とおる)は「フローズン」。ドナーである「アイス」の人々に会うものの、中々人としての相性が合わずいまだに相棒的存在は居ない。
そんな中、とある日の帰り道に彼は出逢った。途端に始まった指先の冷たさに、彼は知る。
症状が、発現したのだと。
*フローズンバースの認知がされ始めた頃を想定しています

乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。

残念でした。悪役令嬢です【BL】
渡辺 佐倉
BL
転生ものBL
この世界には前世の記憶を持った人間がたまにいる。
主人公の蒼士もその一人だ。
日々愛を囁いてくる男も同じ前世の記憶があるらしい。
だけど……。
同じ記憶があると言っても蒼士の前世は悪役令嬢だった。
エブリスタにも同じ内容で掲載中です。
六日の菖蒲
あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。
落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。
▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。
▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず)
▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。
▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。
▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。
▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

ヒロインの兄は悪役令嬢推し
西楓
BL
異世界転生し、ここは前世でやっていたゲームの世界だと知る。ヒロインの兄の俺は悪役令嬢推し。妹も可愛いが悪役令嬢と王子が幸せになるようにそっと見守ろうと思っていたのに…どうして?
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる