俺はフローズンで、アイツはアイスで

星野 夜空

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 俺の名前は神谷 たける。青春真っ只中の高校2年生なフローズンだ。つっても俺は、本気の初恋をまだ知らない。だから凍結症の発症がまだなくて『お見合い』をゆっくりやってる最中だ。

「それで、ええと……」

 アイスの相手は同年代、てか、進学校で超有名なあの実修学園に通ってる。名前は花園 ハル。
 向こうもまだ、アイスの症状はきていないそうだけれども、まあこの調子だといつ発症してもおかしくなさそうな感じがする。
 緊張からか頬を軽く染めてる様子や、細フレームの丸メガネが似合う顔立ち。俺と違って遊ばせたことのなさそうな黒髪。こういうタイプって俺の周りだとすーぐ恋愛にやいのやいのしてるから、純粋培養だったんかってくらいウブな反応がいっそ珍しく感じる。

「僕はその、緑町のこの辺に、住んでて…… 神谷君がお見合い対象、ってことは家、近い?」
「近いってか、同じマンションっぽいな。俺の家、ココ」

 携帯のピン留め機能で示したら目をまんまるにさせてる。ビンゴっぽいな、こりゃ。階数を伝えたら、何とまあ向こうは最上階。見た目が階段のようなマンション特有の、上に行けば行くほど部屋数が少なくなる代わりに家賃も高いってのに。
 しかも最上階はワンフロアと同義じゃなかったか? もしかしなくても、やっぱりこいつ、御坊ちゃまじゃね?

「そんならとりあえず『お試し期間』に入ってみるか? もしどっちかが発症したら、まあ、そん時の俺らが決める形でもいいしさ」

 医学、遺伝子学の相互研究によってそれぞれの症状は恋愛感情が高まるにつれて発症率が上がることが、俺らがガキの頃に分かった。更にいうなら小さな子どもがするような「ママと結婚する!」「○○ちゃん好き」的なやつじゃなくて、ええと、なんつうだ。
 相手の幸せを願うような、〝愛〟を抱くと俺らフローズンは凍結症が始まる。そして、アイスは指先から溶けていく融解症が起こる。
 だから第二次成長期までにパートナーになり得るようなやつを見つけるのが近年は更に推奨されるようになった、んだっけか? 前はドナー制度って呼ばれてたのが今のお見合い制度に変わっていったんだっておじさんが言ってたし、うん、間違いないはずだ。

「それは、僕としては、構わないけど。そっちはその、大丈夫なの?」
「万が一破局しても、同じ町におじさん達がいるから俺の方はヘーキヘーキ。そっちは? サポートしてもらえそうなヤツいる?」
「……僕は……いない、かな。最悪、応急要員さんを、頼ることに、なるかも」
「あー。リスクあるなそりゃ……」

 最悪おじさんカップル? 夫夫ふうふ? に頼んでもいいんだろうけど、向こうが気まずいだろうしなぁ。

「で、でも! お試し期間までいきたいって、言ってくれたの、君が初めてなんだ。だからえっと、僕としては、嬉しいというか、このまま進めてもらえると、ありがたいというか」
「へ? マジで?」

 しどろもどろの早口で話す内容に思わず間抜けな声が出る。コイツのこの容姿ならいけるだろ、そこまで。別に性格も捻くれてる訳じゃねえし、むしろ真っ直ぐな性格っぽいし。
 一体今までのヤツら、どこまで高望みしてるんだよ。

「……僕、うまく話せない、から。緊張もあるけど、元々、言葉が、上手く出せなくて。それが初対面だと、会話、難しく感じる、みたいで」
「あー。そうか。今までの年齢だとそうかもなー」

 確かにこの話し方にまどろっこしいと感じるヤツは多いだろうな。特に子どもであればあるほど。お見合い制度は年一回の、定められた時期でしか使えないから余計。

「……詮索して、こないの?」
「何を?」

 意味が分かんなくて首を傾けると薄く笑いを乗せて、何でもないと言われた。
 その笑顔にどこか影を感じたのは気のせい、だろうか。
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