俺のアイスは、一目惚れ

星野 夜空

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 ‪その日から、透は彼に会えていない。あの時間帯の電車に乗っていたのはたまたまなのだろうか。そう考えて少し時間をずらしてみたこともあったが、会えないことに変わりはなかった。‬
 ‪彼のことを考えるだけで手先が冷えて、心臓が冷たくなったような感覚に陥る。それだけならまだいい。まだ心臓は動いているのだから。‬
 このまま冷え続け、低体温症になった時。その時には何が何でも応急処置として、アイスの人が派遣されるだろう。
 フローズンの人々が冷え始め、最終的に凍ってしまう病は『凍結症』と名付けられた。対処療法としてアイスの人がその冷えを奪い延命措置は取られるものの、相性が余程良くない限り完治はされない。
 透はそれを分かっていて、両親には隠していた。フローズンが発するようになる冷気は通常、水のないドライアイスと同じで触れなければ、あるいはゼロ距離に近い場所にいなければ気づかれることはまずないと言われている。だから透はなるべく両親に近づかないようにしていたし、思春期であることからも両親はそういうものだと受け入れていた。

 ただ、彼がいつフローズンを発症するか分からないゆえに、定期的に熱を測る必要があった。高校生でありまだ未成年の透には──遺伝子保有者でもある父親と共に定期通院することを避けることだけは、どうしても出来なかった。
 未成年が凍結症を発症した場合、医療行為であるアイス性質を持つ人との触れ合いは家族の許可も必要となる為、付き添いが必須とされている。だから隠し続けることは不可能なのだ。
「低体温気味です。このままだと凍結症のリスクが高まります。早急に今から対象となるアイスを呼びますので、こちらの同意書にサインを」
 医師からそう父親に告げられてしまうのだから。
 父親もまた、息子がこんなに早く凍結症になると思わなかったのだろう。なまじ自分はピークであると言われる思春期を乗り越えて今もまだ発症していない分、まさかという気持ちが強いのかもしれない。
 震える手でサインをする父親を見て、ただただ透は申し訳なかった。故意に黙っていた分、尚更に。

 やってきたアイスの人は、いわゆる応急要員と言われる人でドナーとはまた違う。低体温が緩和するまで──ひいては凍結症のリスクが治まるまで共にいる人だ。地区によって分けられており、また規定数以内、もしくは全員応急処置中の場合はより近い別区から派遣される。いわば青年消防団といった団体のアイス・フローズン版だ。
「初めまして、私は高橋といいます。よろしく」
「日比谷です。あの、よろしくお願いします」
 そう挨拶して握手を交わす。たったそれだけで手の冷たさがゆっくり消えていくのを透は感じた。
「君みたいな若い子が発症するとはね。いや、頭では分かっているんだが。何分私にも君と同じくらいの息子がいるから複雑なんだ」
「息子さん、ですか?」
「ああ。実修学園に通っているんだ」
 実践修学学園高等学校。通称実修学園。あの制服の学校だと透は気づいた。
「あの、俺、その近くの学校なんです。英秀高校っていう」
「ああ、スポーツの部活動が盛んで有名なところじゃないか。それだとフローズンは大変じゃないのかい?」
「ええ、まあ。なのでどこにも属してないです」
 真夏だろうが発症してしまえば冷え始めるフローズンに触れるというのは、存外危険行為とされている。低体温症の彼らに触るならまだしも、それを超えた温度に触れ続ける行為は、冬場の水に触り続けるのと同義だ。医療行為も、特殊な手袋を装着されながらでないと治療を受けられない。
 つまり、今の透に素手で触れられるのは対の性質を持つアイスの人しかいないのである。
「……一つ、頼まれてはくれないだろうか」
 そしてそれは、アイスにも同じことが言える。
「明日の放課後、私の息子に会ってくれないか。あの子もまだ、相方となるフローズンがいないアイスなんだ」
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