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3話:都での流行病

16.都戦のチュートリアル

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 ***

 黄色組の執務室もとい作業部屋を追い出された花実達は、最初の部屋に戻ってきていた。
 今までの情報を元に思考を巡らせる。
 まず第一に裏切り者捜しに関するアレコレに対して、山吹と藤黄は招集に応じない。話してみた感覚で言うと彼女等は裏切り者では無さそうだから、無理矢理呼び出す必要は無いだろう。多分あの2人は病に関するイベントで活躍するのだと思われる。

 そうなってくると、余所の都から派遣されている3人の神使に話を聞く必要がありそうだ。何やかんや全員怪しそうでトキメキが止まらない。今回はどういった内訳なのだろうか。

「何か考えられているようですねえ、召喚士殿。ええ、ええ。この烏羽にも推測をお聞かせ下さいませ」
「推測……。黄色2人は、いっそ放置して話を聞かなくても大丈夫だと思うんだけど、その辺どうかな? 見た感じ、裏切り者イベントについては関わりが一切無さそう」
「そうですね。ええ、都と同色の神使は恐らくさほど疑って掛からずとも良いかと。何せ黄都における執務は当然の事ながら黄が中心! ええ、そこが潰されていては、黄都は既に無事ではありますまい」
「確かに」

 都守・黄檗が全てを請け負っている訳ではないのは少し考えれば分かる事だ。むしろ、彼がいないのに都の運営が完全に潰えていないのは彼女等の働きによる所が大きいだろう。他色の神使達も働いてはいるだろうが、具体的な指示などは現地にいる神使の役目であるのは想像に難くない。
 ならばやはり、部外者3人の中から今回の黒幕を選定する必要があるようだ。

 ただ――ここで一抹の不安が脳裏を過ぎる。
 3人を並べた時、最も敵対して恐そうなのは白菫だった。見た目的にかなりがっちりしているし、何かに焦ってはいるものの言動はハッキリしていたと言える。
 白花には黒幕特有の恐ろしさを感じなかった。紫黒も同じく。メタ的な話になってしまうが、余程演技が上手ではない限り女2人に黄都編のボスを担う風格はないと思える。

 でも今までの経験上、狼と羊ゲームみたいな一面がある。クロの人数がシロの人数より多くなったり同数になれば詰むというシステムだ。最初の阿久根村はチュートリアルだったし、本気で殺し合いをしていた訳ではないので除外する。
 月城町での黒幕は褐返で、シロが1人にグレーが1人という構成だった。あの時に薄群青か灰梅を刎ねていればゲームオーバーだったのだ。

 今回の人数は黄色も含むならば5人。1~2人の黒幕が存在している可能性があり、一人でもシロが死亡した場合はクロとシロの数が同数になって、終わるのではないだろうか。

「召喚士殿」
「え? なに、烏羽」
「難しい顔をしている所、申し訳ございません。ええ、この烏羽、貴方様にお伝えしなければならない事があります。ふふ……」
「どうしたの?」
「いえいえ、黄都にいる神使と会いましたので人数と人柄が明白になった事でしょうとも。ええ、前回とはすてーじが違いますので、今までのるーるは一旦忘れた方がよろしいですよ」
「……?」
「裏切り側が制圧を完了したと見なす条件が、都と町村では異なります故。ええ」
「は?」

 ――まさか、別のチュートリアル始まった?
 思えば都は合計5つある。もう都でのステージが始まったのかと思ったが、続く4都の為に新しいルールとやらを説明する為に、序盤で都ステージが始まったのかもしれない。
 思考を全て停止させ、烏羽の言葉に耳を傾ける。可笑しそうに嗤って見せた初期神使は言葉を続けた。

「よろしいですか? 町村での汚泥勝利条件は従えている神使と通常神使の数が同数、または上回る事です。ええ、何故なら結界の破壊を止める神使がいなくなれば汚泥は町村へ入り込み、住民を捕食して更に成長。やがて生命体を1体残らず食らい尽くすでしょう」
「うんうん」
「一方で、都には『都守』という特殊な役職を持つ神使が必ず1人います。ええ、黄都で言うならば黄檗の事ですね。それを踏まえた上で、都での汚泥勝利にはぱたーんが2つあります」
「2つ? 出来る方を選べって事?」
「ええ。まず1つ目。都守を撃破し、且つ手中にある神使の数が都の神使の数を上回る事。都を落とすのであれば、都守の殺害は必須条件です、ええ」
「いやでも、黄檗はいないんでしょ?」
「そう! ヤツは幸か不幸か、この大事に姿を眩ませてしまった! ……故に、1つ目の汚泥勝利ぱたーんは実質不可能です」
「そんな事なくない?」
「何故? 外に援護を呼びに、黄檗は姿を眩ませたのかもしれませんよ。不安因子を排除出来ていない時点で、都を制圧とは片腹痛い。よって、1つ目の方法は無効とみなしてよいでしょう、ええ」
「……それじゃあ、2つ目は?」
「都守など関係無く、修復不可能な程に結界内に汚泥を呼び込むぱたーんですね。ええ。如何に都守が生存していようと、一度汚泥の海に沈んだ都市を引き上げる能力はありません」
「そっちなら、都守はいない訳だし、出来そうな気がするね」
「ええ、お分かり頂けましたか? そう! 黄都での汚泥の狙いは都市沈没でございますとも! ええ、心躍る響きですねぇ」
「は? いや別に何も踊らないけど」
「おや、手厳しい」

 しかし、このルール変更によって何が変わった? プレイヤー側のゴール条件は恐らく変わっていない。
 悶々と考えていると、黙って説明を聞いていた薄群青が小さな声で的確なアドバイスをくれた。やはり彼は出来る男だ。

「主サン、つまり烏羽サンが何を言いたかったかって言うと――今回の黒幕、3人以上いる可能性があるって事ッス」
「……あ、マジ?」
「はい、マジッスね」

 やはりチュートリアルだったようだ。都守を敢えて退場させる事で、難易度を緩和したのだろう。お試し黄都と言った所か。
 ならば肩の力を抜き、派遣神使3人を呼び出すとしよう。花実は2人に指示を出した。

「話を聞いてみない事には始まらないね。黄色以外の神使をこの部屋に集めよう」
「ええ、承知致しましたぁ……。ふふ」
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