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3話:都での流行病
15.挨拶回り(5)
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言葉通り、本当に面倒臭そうな顔をした山吹が、藤黄に目配せする。お前が説明しろよ、と流石の花実でも言いたい事は分かった。しかし、分かりやすい視線に対し藤黄は肩を竦めて首を横に振る。
「僕、人と接するの苦手だから……。あとはよろしく、山吹さん」
「ああー……」
スッと藤黄は業務へ戻って行った。成程確かに、人と接するのに問題がありそうな振舞いである。
溜息を吐いた山吹が説明をしてくれるようだ。
「それが、最近……都の一部地域で流行病が蔓延しててー……。正直、結界の横腹に穴とか、裏切者がどうとか言ってる場合じゃ無いっていうか……。原因は解明中だけど、外に出る事の出来ない人間が数を減らしててー……ちょっと手が回らないんですよねぇ」
「病気……!?」
古き良き和風RPG味があるし、特効薬なども無さそうで絶望感が凄い。そんなの、プレイヤーに出来る事はないだろ、と思っていると業務中だったはずの藤黄が「そうなんですよ」と追従する。
「汚泥より、そっちの方がマズい状況というか。汚泥は目に見えるし駆除できるけど、病は……目には見えないからさ……。召喚士さんも、外には出ない方がいいですよ、本当。だってアンタ、一応分類的には人間なんでしょ」
――えっ、まさか……都マップはない!?
とんだ肩透かしに愕然とする。この美麗グラフィックで立派な都を歩き回るのを楽しみにしていたと言うのに。それとも、リリース版では外を出歩けるのだろうか。
呆然としながらも、一縷の望みを胸に質問する。
「神使は感染しないの?」
「そうみたいですね……。とはいっても、長時間、外気に晒されれば分からないので何とも言えないけどさ。まあ、結界張っとけば大丈夫でしょ」
何とも煮え切らない返事。都マップは無い体でいた方が健全な精神でいられそうだ。凄く楽しみにしていたが、精巧な物を作るのには時間が掛かる。β版ではここが限界なのかもしれない。
内心で密かにショックを受けていると、何かを思い出したように山吹が手を打った。
「そういえばー……。病の流行地域で不思議な噂が流れてるよねー」
「どんな噂が?」
「流行病の特効薬を持っている薬師がいるらしくてー……。でも、民衆が心の安寧を求めるが故の幻想っぽー……。別の情報が混乱して別の話になってると思うんですけどね」
「特効薬……」
「召喚士さんも、鵜呑みにしちゃ駄目ですよぅ。多分、夢物語とかそんな話ですからー……。現に様子を見に行った白菫も見つけられなかったって言ってるしー……」
――重要な情報なのかもしれない。覚えておこう。
花実は心のメモに薬師の事を書き加えた。
そのタイミングで、それまで少し考え込むように黙っていた烏羽が発言する。今まで静かだった分の反動が来なければいいが、密かにそう思った。
「それで? この大事に黄檗はどこへ行ったのです? ええ、都守なのだから都にいないのは不自然では?」
それも確かに何かのフラグみたいだな、と烏羽に心中でエールを送る。問い掛けられた黄色の神使2人は首を横に振った。
「そんな事言われてもー……。私も知らないんだよね。藤黄は? 何か知ってる?」
「知らないよ。あの人、超が付く変人だし……。というか、普通に都守の仕事より主神の命令が優先だから、そっちに従ったんじゃないの」
そうだとして、部下的な立ち位置になる神使に何も告げず、ふらっと姿を消すのはどうなのだろうか。世界観的にはオッケーなのか?
そんな気持ちを汲み取ったのか、すかさず薄群青が補足説明をしてくれる。
「普通は誰にも何も告げず、本来のお役目を放棄して主神に従う事はほぼ無いッスね。ただそれは黄都を除く4都だけで、黄都は例外だったりするんだけど」
「どうして黄都は例外なの?」
「黄都、というか黄檗サンが例外なんスよね。あの人、ちょっと特殊な神使で。都守より大事で機密性の高い任務を割り振られる事がままあるんスよ」
「ええ? どういう特殊な感じのアレなの?」
難しい事を聞いてしまったのだろうか。薄群青は少し悩む素振りを見せると、ややあって口を開いた。
「そうッスね、例えば神使を召喚する召喚士……システムの最終調整をしたのは黄檗サンです。だってほら、まずは召喚士をこの世界に召喚しなきゃいけないでしょ?」
「それはそうだね」
「そ。で、召喚術を転用して『召喚士を召喚出来る』ようにしたのも黄檗サンッス。つまり何が言いたいかっていうと、あの人は主神が作ったシステムの土台を運用可能に調整する事って訳」
「え、烏羽より強そうで笑う」
「あー、やってる事は莫大な輪力を必要とするんスけど、その輪力は主神のお膝元から引っ張ってきてるから、黄檗サンがやるのは輪力を通す前段階。まあ準備ッスね」
であれば、黄檗が不在である事はよろしくない事でもあるが、不自然過ぎる程に不自然という訳でもなさそうだ。現地神使達が慌てている様子を見せないのも、その推測に拍車を掛ける。
ところで、と珍しく山吹の方から口を開いた。
「見ての通りー……。こっちも忙しいので、招集されても応じられないから、よろしくー……。それにまあ、黄の中に裏切者はいないでしょ……。私じゃ無いしー……」
「僕でもないけど」
山吹に藤黄。2人の言葉に嘘偽りは無いし、状況的に見てこの二人が裏切者案件に関わっているとは考え辛い。積極的にプレイヤーに関わってこようとしないあたり、グレーの神使でも無さそうだ。
2人の言う通り、裏切者の件では彼等と話をする事は無さそうである。花実はその申し出をあっさり了承した。
「僕、人と接するの苦手だから……。あとはよろしく、山吹さん」
「ああー……」
スッと藤黄は業務へ戻って行った。成程確かに、人と接するのに問題がありそうな振舞いである。
溜息を吐いた山吹が説明をしてくれるようだ。
「それが、最近……都の一部地域で流行病が蔓延しててー……。正直、結界の横腹に穴とか、裏切者がどうとか言ってる場合じゃ無いっていうか……。原因は解明中だけど、外に出る事の出来ない人間が数を減らしててー……ちょっと手が回らないんですよねぇ」
「病気……!?」
古き良き和風RPG味があるし、特効薬なども無さそうで絶望感が凄い。そんなの、プレイヤーに出来る事はないだろ、と思っていると業務中だったはずの藤黄が「そうなんですよ」と追従する。
「汚泥より、そっちの方がマズい状況というか。汚泥は目に見えるし駆除できるけど、病は……目には見えないからさ……。召喚士さんも、外には出ない方がいいですよ、本当。だってアンタ、一応分類的には人間なんでしょ」
――えっ、まさか……都マップはない!?
とんだ肩透かしに愕然とする。この美麗グラフィックで立派な都を歩き回るのを楽しみにしていたと言うのに。それとも、リリース版では外を出歩けるのだろうか。
呆然としながらも、一縷の望みを胸に質問する。
「神使は感染しないの?」
「そうみたいですね……。とはいっても、長時間、外気に晒されれば分からないので何とも言えないけどさ。まあ、結界張っとけば大丈夫でしょ」
何とも煮え切らない返事。都マップは無い体でいた方が健全な精神でいられそうだ。凄く楽しみにしていたが、精巧な物を作るのには時間が掛かる。β版ではここが限界なのかもしれない。
内心で密かにショックを受けていると、何かを思い出したように山吹が手を打った。
「そういえばー……。病の流行地域で不思議な噂が流れてるよねー」
「どんな噂が?」
「流行病の特効薬を持っている薬師がいるらしくてー……。でも、民衆が心の安寧を求めるが故の幻想っぽー……。別の情報が混乱して別の話になってると思うんですけどね」
「特効薬……」
「召喚士さんも、鵜呑みにしちゃ駄目ですよぅ。多分、夢物語とかそんな話ですからー……。現に様子を見に行った白菫も見つけられなかったって言ってるしー……」
――重要な情報なのかもしれない。覚えておこう。
花実は心のメモに薬師の事を書き加えた。
そのタイミングで、それまで少し考え込むように黙っていた烏羽が発言する。今まで静かだった分の反動が来なければいいが、密かにそう思った。
「それで? この大事に黄檗はどこへ行ったのです? ええ、都守なのだから都にいないのは不自然では?」
それも確かに何かのフラグみたいだな、と烏羽に心中でエールを送る。問い掛けられた黄色の神使2人は首を横に振った。
「そんな事言われてもー……。私も知らないんだよね。藤黄は? 何か知ってる?」
「知らないよ。あの人、超が付く変人だし……。というか、普通に都守の仕事より主神の命令が優先だから、そっちに従ったんじゃないの」
そうだとして、部下的な立ち位置になる神使に何も告げず、ふらっと姿を消すのはどうなのだろうか。世界観的にはオッケーなのか?
そんな気持ちを汲み取ったのか、すかさず薄群青が補足説明をしてくれる。
「普通は誰にも何も告げず、本来のお役目を放棄して主神に従う事はほぼ無いッスね。ただそれは黄都を除く4都だけで、黄都は例外だったりするんだけど」
「どうして黄都は例外なの?」
「黄都、というか黄檗サンが例外なんスよね。あの人、ちょっと特殊な神使で。都守より大事で機密性の高い任務を割り振られる事がままあるんスよ」
「ええ? どういう特殊な感じのアレなの?」
難しい事を聞いてしまったのだろうか。薄群青は少し悩む素振りを見せると、ややあって口を開いた。
「そうッスね、例えば神使を召喚する召喚士……システムの最終調整をしたのは黄檗サンです。だってほら、まずは召喚士をこの世界に召喚しなきゃいけないでしょ?」
「それはそうだね」
「そ。で、召喚術を転用して『召喚士を召喚出来る』ようにしたのも黄檗サンッス。つまり何が言いたいかっていうと、あの人は主神が作ったシステムの土台を運用可能に調整する事って訳」
「え、烏羽より強そうで笑う」
「あー、やってる事は莫大な輪力を必要とするんスけど、その輪力は主神のお膝元から引っ張ってきてるから、黄檗サンがやるのは輪力を通す前段階。まあ準備ッスね」
であれば、黄檗が不在である事はよろしくない事でもあるが、不自然過ぎる程に不自然という訳でもなさそうだ。現地神使達が慌てている様子を見せないのも、その推測に拍車を掛ける。
ところで、と珍しく山吹の方から口を開いた。
「見ての通りー……。こっちも忙しいので、招集されても応じられないから、よろしくー……。それにまあ、黄の中に裏切者はいないでしょ……。私じゃ無いしー……」
「僕でもないけど」
山吹に藤黄。2人の言葉に嘘偽りは無いし、状況的に見てこの二人が裏切者案件に関わっているとは考え辛い。積極的にプレイヤーに関わってこようとしないあたり、グレーの神使でも無さそうだ。
2人の言う通り、裏切者の件では彼等と話をする事は無さそうである。花実はその申し出をあっさり了承した。
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