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1話:対神の治める土地
14.対神(5)
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薄藍の処遇に関する決定権、それが召喚士へと集まる。神使は3人いて、その内の2人が意見を求めている時点で不利を悟ったのだろう。ニヤけ顔をほんの少しだけ引き攣らせた烏羽が薄気味の悪い猫なで声を発する。
「召喚士殿、どうか血迷われませんよう。ええ、逆賊の処遇など一つでしょう? 薄桜の言葉に耳を貸す必要はありません」
「あんたはちょっと黙ってなさいよ、烏羽! 私は召喚士様に意見を求めているの」
「だから。先程から申し上げている通り、召喚士殿の知識量は赤子のそれと同等――」
「ちょっと静かに。どうするか決めたから」
話が堂々巡りする気配を察知。花実は不意にその口を開いた。このままでは会話が延々とループするのではないか、と危惧したからだ。なんやかんやで、プレイヤーの意見をストーリー側が求めているのだろう。
ただ、これは推測になるが選択肢はどちらを選んでも辿る道筋はきっと同じだ。薄藍は言動からして今後、助っ人登場する可能性が高い。洗脳されていた善性の強いキャラクターと言うのは、後々で仲間になって活躍すると相場が決まっている。
なので、ストーリーに乗った形で問いに対する答えを示した。
「薄藍は……別に始末? とかしたりしなくていいよ。殺人未遂だって、正気じゃなさそうだったし……。私、無事だったし」
「は?」
笑顔すら消えた真顔で低い声を漏らしたのは烏羽である。心底つまらん、とでも言いたげな雰囲気を醸し出す様は普通に恐ろしい。ほんの数秒だけフリーズしていた彼は、やがてゆったりと口を開いた。
「申し訳ありません、召喚士殿。ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえたのですが……。ええ、貴方様は大層心優しい方。人の形をした人形に対して情が芽生えてしまったのでしょう、ええ」
「……」
「まだ間に合います。その発言は撤回致しましょう。大丈夫ですよ、ええ。貴方が薄藍の始末を命じれば、後は私の方で勝手にやっておきますので。ささ、発言の取り消しを」
「撤回はしないかな。うん」
優しく肩に手を置かれる。あまりにも優しげな手付きだが、それは優しさからの行動では無い。苛つきを抑え込んだ結果、変に他者に対し優しくなる現象そのものだ。その証拠に、ギリギリと肩に爪が食い込み始める。
「――よろしいですか、召喚士殿。貴方様は状況をよく分かっておられない。ええ。げぇむなどと、舐めて掛かっているのではありませんか? ええ、ええ。それはそれで結構! ですが、そうであるからこそ、最初の神使である私の進言をよくよく聞いた方が良い。奴等なぞ、所詮は他人ですから。ええ」
往生際が悪いわよ、と勝ち誇った顔の薄桜が烏羽の言葉を切り裂く。
「召喚士様はこう仰ってる。あんたが今更何を言おうと、撤回しないともね! さあ、面白がって場を引っ掻き回すのは止めなさい」
「……ふ、ふふふ」
「な、なによ」
「ふふ、ははははははは! 確かに!! ええ、確かに召喚士殿は『見逃す』と仰っています。ですが、私がそれを聞く必要があるのでしょうか? ありませんよねぇ、はい。ああ、召喚士殿! ここで見ていて下さい。今は納得出来ないでしょうが、いつかは私に感謝する日が来るでしょうとも! あっははははは!!」
――ええ!? 止めろ、つってんのに!
こんなにプレイヤーの命令を聞かない仲間キャラクターがいていいのだろうか。しかも、召喚者と被召喚者という関係性。であるにも関わらず、どうやら召喚士の命令に神使への拘束力は無いようだ。驚きである。
そして烏羽の頭がおかしい発言に対し、それまで運命に身を委ねるスタイルを貫いていた薄藍までもが臨戦態勢に入る。あまりにも急速な判断に、対神である薄桜は呆然としているようだった。
「離れて下さい、召喚士殿。あまり同僚の悪口など言うものではありませんが、やはり烏羽殿は危険です。さあ、こちらへ」
「そ、そうよ! 薄藍もこう言っているし、こっちに来て! 召喚士様!」
――え、ええ~? 何が始まってるんです、これ?
少女漫画的展開にしては、あまりにも血生臭い。いくらゲームとはいえ、流石に動揺した花実は両者を思わず凝視する。
薄色シリーズの対神は大真面目だ。必死に無力な小娘を、小娘が召喚した神使から守ろうとしている。そこに嘘は皆無であり、本当にこちらの身を案じてくれているのだろう。そしてそれはつまり、烏羽が可哀相な事に同僚からの信頼ゼロという事実まで内包しているのだが。
一方で恐いくらいに静かな烏羽はだまってこちらを見ている。どんな感情なのかは一切不明だが下手な事をしたら、大変な事になるという不吉な予感が拭えなかった。
ここで、一度ゲームを始めた時――初心に戻る。
現実世界で正しい選択はきっと、薄桜達の手を取る事だろう。明らかに安全性が桁違いである。
だけどこれはゲームで、即ち究極的に言えば現実とは一切関係の無い話、出来事。ならば現実のセオリーに従おう、従おうとする必要はないものであると考える。
加えて自分は『初期キャラ推し』勢だ。ここで最初の神使、初期神使である烏羽を放置して薄桜達の手を取るのは教義に反する行為である。それに、色々思惑はあるようだが薄藍から襲われた時に助けてくれたのは物理的な事実。
その他諸々を鑑みた結果、花実は薄桜達に向けて静かに首を横に振った。
「心配してくれて有り難う。でも、烏羽は私が最初に召喚した神使だから」
それを聞いていた烏羽が酷く呆れたような声を発する。紛れもなく本心でだ。
「――どうしてこう、げぇまあというイキモノは……。我々には理解しえぬ、謎の理論を有しているのでしょうね。はあ、毒気が抜かれてしまいました」
「召喚士殿、どうか血迷われませんよう。ええ、逆賊の処遇など一つでしょう? 薄桜の言葉に耳を貸す必要はありません」
「あんたはちょっと黙ってなさいよ、烏羽! 私は召喚士様に意見を求めているの」
「だから。先程から申し上げている通り、召喚士殿の知識量は赤子のそれと同等――」
「ちょっと静かに。どうするか決めたから」
話が堂々巡りする気配を察知。花実は不意にその口を開いた。このままでは会話が延々とループするのではないか、と危惧したからだ。なんやかんやで、プレイヤーの意見をストーリー側が求めているのだろう。
ただ、これは推測になるが選択肢はどちらを選んでも辿る道筋はきっと同じだ。薄藍は言動からして今後、助っ人登場する可能性が高い。洗脳されていた善性の強いキャラクターと言うのは、後々で仲間になって活躍すると相場が決まっている。
なので、ストーリーに乗った形で問いに対する答えを示した。
「薄藍は……別に始末? とかしたりしなくていいよ。殺人未遂だって、正気じゃなさそうだったし……。私、無事だったし」
「は?」
笑顔すら消えた真顔で低い声を漏らしたのは烏羽である。心底つまらん、とでも言いたげな雰囲気を醸し出す様は普通に恐ろしい。ほんの数秒だけフリーズしていた彼は、やがてゆったりと口を開いた。
「申し訳ありません、召喚士殿。ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえたのですが……。ええ、貴方様は大層心優しい方。人の形をした人形に対して情が芽生えてしまったのでしょう、ええ」
「……」
「まだ間に合います。その発言は撤回致しましょう。大丈夫ですよ、ええ。貴方が薄藍の始末を命じれば、後は私の方で勝手にやっておきますので。ささ、発言の取り消しを」
「撤回はしないかな。うん」
優しく肩に手を置かれる。あまりにも優しげな手付きだが、それは優しさからの行動では無い。苛つきを抑え込んだ結果、変に他者に対し優しくなる現象そのものだ。その証拠に、ギリギリと肩に爪が食い込み始める。
「――よろしいですか、召喚士殿。貴方様は状況をよく分かっておられない。ええ。げぇむなどと、舐めて掛かっているのではありませんか? ええ、ええ。それはそれで結構! ですが、そうであるからこそ、最初の神使である私の進言をよくよく聞いた方が良い。奴等なぞ、所詮は他人ですから。ええ」
往生際が悪いわよ、と勝ち誇った顔の薄桜が烏羽の言葉を切り裂く。
「召喚士様はこう仰ってる。あんたが今更何を言おうと、撤回しないともね! さあ、面白がって場を引っ掻き回すのは止めなさい」
「……ふ、ふふふ」
「な、なによ」
「ふふ、ははははははは! 確かに!! ええ、確かに召喚士殿は『見逃す』と仰っています。ですが、私がそれを聞く必要があるのでしょうか? ありませんよねぇ、はい。ああ、召喚士殿! ここで見ていて下さい。今は納得出来ないでしょうが、いつかは私に感謝する日が来るでしょうとも! あっははははは!!」
――ええ!? 止めろ、つってんのに!
こんなにプレイヤーの命令を聞かない仲間キャラクターがいていいのだろうか。しかも、召喚者と被召喚者という関係性。であるにも関わらず、どうやら召喚士の命令に神使への拘束力は無いようだ。驚きである。
そして烏羽の頭がおかしい発言に対し、それまで運命に身を委ねるスタイルを貫いていた薄藍までもが臨戦態勢に入る。あまりにも急速な判断に、対神である薄桜は呆然としているようだった。
「離れて下さい、召喚士殿。あまり同僚の悪口など言うものではありませんが、やはり烏羽殿は危険です。さあ、こちらへ」
「そ、そうよ! 薄藍もこう言っているし、こっちに来て! 召喚士様!」
――え、ええ~? 何が始まってるんです、これ?
少女漫画的展開にしては、あまりにも血生臭い。いくらゲームとはいえ、流石に動揺した花実は両者を思わず凝視する。
薄色シリーズの対神は大真面目だ。必死に無力な小娘を、小娘が召喚した神使から守ろうとしている。そこに嘘は皆無であり、本当にこちらの身を案じてくれているのだろう。そしてそれはつまり、烏羽が可哀相な事に同僚からの信頼ゼロという事実まで内包しているのだが。
一方で恐いくらいに静かな烏羽はだまってこちらを見ている。どんな感情なのかは一切不明だが下手な事をしたら、大変な事になるという不吉な予感が拭えなかった。
ここで、一度ゲームを始めた時――初心に戻る。
現実世界で正しい選択はきっと、薄桜達の手を取る事だろう。明らかに安全性が桁違いである。
だけどこれはゲームで、即ち究極的に言えば現実とは一切関係の無い話、出来事。ならば現実のセオリーに従おう、従おうとする必要はないものであると考える。
加えて自分は『初期キャラ推し』勢だ。ここで最初の神使、初期神使である烏羽を放置して薄桜達の手を取るのは教義に反する行為である。それに、色々思惑はあるようだが薄藍から襲われた時に助けてくれたのは物理的な事実。
その他諸々を鑑みた結果、花実は薄桜達に向けて静かに首を横に振った。
「心配してくれて有り難う。でも、烏羽は私が最初に召喚した神使だから」
それを聞いていた烏羽が酷く呆れたような声を発する。紛れもなく本心でだ。
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