135 / 139
13話 獣達の庭園
02.召喚術ド素人
しおりを挟む
ともあれ、熱心に恐らくメイヴィスには無理であろうキメラ討伐のいろはを解説してくれたアロイスは見惚れる程勇ましいものだったので、全てを水に流す。こんなの、ギルドの他の面子にやられたら途中で遮っていたところだ。
とはいえアロイスの話を聞いている間に、それなりの時間が経過したらしい。接客を終えたユリアナがひょっこりと顔を覗かせる。
「おや~、メヴィちゃん。今日は~どうしたんですかぁ?」
『フェリーチェ』店主・ユリアナ。彼女はのんびりした口調とは裏腹に機敏に動きながらそう訊ねた。
最近、出掛けている事が多いせいか店に居るだけで今日は何か用事があるものと思われて居るらしい。とはいえ、確かに今回は依頼を遂行するという用事があるのだが。
「ユリアナさん、実は召喚術の原理を超絶分かりやすく説明してくれそうな人を捜していまして……」
「とーっても限定的ですね~。でもでも~、わたしも魔道士の端くれですぅ。原理そのものは~、理解していますから~。説明だけだったら出来ますよぅ」
「えっ、本当ですか!? じゃあ、召喚術がどんな魔法なのかくらいしか分からない私にも説明お願い出来ますかね!」
「もちろん~」
――結果的に言えば。
ユリアナは説明“は”出来た。ただし彼女自身は召喚術を使用出来るレベルに達していないとの事で、使用感が伝わって来ない。教科書に載っている原理のみを、ド素人が説明したのと同じだ。
なので、残念な事に口頭での説明ではいまいち何が何だか分からなかったと言える。無論、ユリアナは全く悪く無い。悪いのは召喚術の何たるかを知らない自分自身だ。
「説明が下手でごめんね~」
「いえ……私の理解力の低さが悪いんです」
「別の方法を考える必要がありそうだな」
アロイスがそう言った瞬間、一時は引いていた客の波を再燃させるかのように、店の中に客が入って来た。しかも、非常に見覚えのある客だ。
「シオンさん、お久しぶりです!」
フィリップの館に居る侍女、シオンが買い物篭を持って現れた。明らかに買い出しをしに来たスタイルだ。
相変わらず淡泊な表情をした彼女は、ぐるりと店内を見回す。疎らに居る客達は、それぞれが好きな商品棚の前で商品を品定めしているようだった。
「買い出しに来ました。皆様、お元気そうで何よりです」
「あ、そうだ。シオンさんにも聞きたいんですけど……。召喚術ド素人の私に、召喚術の原理を説明出来たりはしませんか?」
ユリアナの説明を聞いた段階で、何一つ理解出来なかったのであまり期待はせずそう問う。恐らく足りないのは基礎知識的な部分なので、原理だったり使用をする魔道士にとってみれば、自分は教えづらい存在だろう。
案の定、シオンは静かに眉根を寄せると訊ねた。
「ド素人、と言うとどの程度を指すのですか?」
先程、ユリアナの説明を聞いた時に起こった出来事をありのままに説明する。それを聞いたシオンは首を横に振った。
「ド素人が素人に話を聞いたところで、上達は見込めないでしょう。私自身、コストが掛かるので召喚獣は使いませんし」
「そうですよねえ……」
「旦那様――フィリップ様に、直々に召喚術そのものを見せて貰うというのはどうでしょうか。ただ、その場合ですと夜にならなければ面会出来かねますが」
「フィリップさんは召喚術、使えるんですか?」
「ええ」
――確かに、あの貫禄なら召喚獣を駆使していてもおかしくないかもしれない。
ただ、フィリップは人に説明をするのは非常に苦手そうだ。現物を見せて貰って、後は独学という方法しか無いだろう。まさか、イアンの持ち込み案件がこんなに大事になるとは。
一瞬、ギルドに戻る事も考えたが、やはり召喚術の原理が分からない事には無駄足になってしまいそうだったので、すぐに諦めた。
「話はまとまったか? フィリップ殿の所へ行くのなら、俺も同行しよう」
「あ、ありがとうございます。アロイスさん」
最近、不意に頭を過ぎる。
毎回毎回、騎士サマを自分の都合に付き合わせているが、飽き飽きして来ないのだろうか。思えば、ヴァレンディアに来てアロイスは肩身が狭そうだ。何せ、見た目はどう足掻いても魔道士では無い。
本当はヴァレンディアの長期滞在など望んでいないのではないだろうか。否、用事が無ければ足など絶対に運ばない場所と言えるだろう。
「メヴィ? どうかしたのか?」
「あっ、いえ。ちょっと、考え事を……」
そうか、と微笑んだアロイスの心中は全く読み取れなかった。
とはいえアロイスの話を聞いている間に、それなりの時間が経過したらしい。接客を終えたユリアナがひょっこりと顔を覗かせる。
「おや~、メヴィちゃん。今日は~どうしたんですかぁ?」
『フェリーチェ』店主・ユリアナ。彼女はのんびりした口調とは裏腹に機敏に動きながらそう訊ねた。
最近、出掛けている事が多いせいか店に居るだけで今日は何か用事があるものと思われて居るらしい。とはいえ、確かに今回は依頼を遂行するという用事があるのだが。
「ユリアナさん、実は召喚術の原理を超絶分かりやすく説明してくれそうな人を捜していまして……」
「とーっても限定的ですね~。でもでも~、わたしも魔道士の端くれですぅ。原理そのものは~、理解していますから~。説明だけだったら出来ますよぅ」
「えっ、本当ですか!? じゃあ、召喚術がどんな魔法なのかくらいしか分からない私にも説明お願い出来ますかね!」
「もちろん~」
――結果的に言えば。
ユリアナは説明“は”出来た。ただし彼女自身は召喚術を使用出来るレベルに達していないとの事で、使用感が伝わって来ない。教科書に載っている原理のみを、ド素人が説明したのと同じだ。
なので、残念な事に口頭での説明ではいまいち何が何だか分からなかったと言える。無論、ユリアナは全く悪く無い。悪いのは召喚術の何たるかを知らない自分自身だ。
「説明が下手でごめんね~」
「いえ……私の理解力の低さが悪いんです」
「別の方法を考える必要がありそうだな」
アロイスがそう言った瞬間、一時は引いていた客の波を再燃させるかのように、店の中に客が入って来た。しかも、非常に見覚えのある客だ。
「シオンさん、お久しぶりです!」
フィリップの館に居る侍女、シオンが買い物篭を持って現れた。明らかに買い出しをしに来たスタイルだ。
相変わらず淡泊な表情をした彼女は、ぐるりと店内を見回す。疎らに居る客達は、それぞれが好きな商品棚の前で商品を品定めしているようだった。
「買い出しに来ました。皆様、お元気そうで何よりです」
「あ、そうだ。シオンさんにも聞きたいんですけど……。召喚術ド素人の私に、召喚術の原理を説明出来たりはしませんか?」
ユリアナの説明を聞いた段階で、何一つ理解出来なかったのであまり期待はせずそう問う。恐らく足りないのは基礎知識的な部分なので、原理だったり使用をする魔道士にとってみれば、自分は教えづらい存在だろう。
案の定、シオンは静かに眉根を寄せると訊ねた。
「ド素人、と言うとどの程度を指すのですか?」
先程、ユリアナの説明を聞いた時に起こった出来事をありのままに説明する。それを聞いたシオンは首を横に振った。
「ド素人が素人に話を聞いたところで、上達は見込めないでしょう。私自身、コストが掛かるので召喚獣は使いませんし」
「そうですよねえ……」
「旦那様――フィリップ様に、直々に召喚術そのものを見せて貰うというのはどうでしょうか。ただ、その場合ですと夜にならなければ面会出来かねますが」
「フィリップさんは召喚術、使えるんですか?」
「ええ」
――確かに、あの貫禄なら召喚獣を駆使していてもおかしくないかもしれない。
ただ、フィリップは人に説明をするのは非常に苦手そうだ。現物を見せて貰って、後は独学という方法しか無いだろう。まさか、イアンの持ち込み案件がこんなに大事になるとは。
一瞬、ギルドに戻る事も考えたが、やはり召喚術の原理が分からない事には無駄足になってしまいそうだったので、すぐに諦めた。
「話はまとまったか? フィリップ殿の所へ行くのなら、俺も同行しよう」
「あ、ありがとうございます。アロイスさん」
最近、不意に頭を過ぎる。
毎回毎回、騎士サマを自分の都合に付き合わせているが、飽き飽きして来ないのだろうか。思えば、ヴァレンディアに来てアロイスは肩身が狭そうだ。何せ、見た目はどう足掻いても魔道士では無い。
本当はヴァレンディアの長期滞在など望んでいないのではないだろうか。否、用事が無ければ足など絶対に運ばない場所と言えるだろう。
「メヴィ? どうかしたのか?」
「あっ、いえ。ちょっと、考え事を……」
そうか、と微笑んだアロイスの心中は全く読み取れなかった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる