アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

文字の大きさ
上 下
108 / 139
11話 アルケミストの長い1日

05.山賊リターンズ

しおりを挟む
「何だか、機嫌が悪いように見える」

 魔石狩りを再開した直後、アロイスが目を伏せてそう言った。特に彼は悪く無いのだが、さっきの言葉がリフレインして気に掛かっているのは事実だろう。あんな言葉、ギルドに居た時はあまり掛けられた事も無かった。
 苦笑したメイヴィスは首を横に振る。そう、誰も悪い人などいないのだ。強いて言うのならあの山賊共が悪かっただけで。

「いえ、別に機嫌は……ただちょっと、そう、疲れただけで」
「お前は怪我をしていた。疲れるのも無理は無いさ」
「あのホント、例の件については恥ずかし過ぎるので触れない方向で行きましょう、アロイスさん」

 まさか装飾品の取り外しで怪我をするとは。最早、錬金術と何にも関係が無くて自分自身に呆れてしまう程だ。もしかして、最近はアロイスに頼り切りで気が抜けているのかもしれない。これだから甘えたな性質は。

「メヴィ? これはどうだ? そこそこに美しく見える」
「あ、その魔石良いですね。質も良さそうですし。じゃあ、これを回収して――」

「おうおうおう! 何を仲睦まじく石ころ掘り返してんだッ!!」

 酷いデジャブを覚えながらも、響いた男性の声に顔を上げる。そこには分かりやすく刃物を持った、先程、女性からコートを強奪しようとしていた男達に似た風体の男達が立っていた。
 酷い小物臭と、チンピラじみた言動。間違いない、彼等はさっきの山賊の仲間だろう。3人組はアロイスが伸したので現れるはずもないし、大方仇討ちにでも来たに違いない。

 ちら、とアロイスを窺う。
 一つ頷いた騎士は当然の如く背の大剣を構える。交戦する腹積もりのようだ。異様に大きな得物を見て、山賊一味がややたじろぐ。

「ちょ、センパーイ。あいつ、マジ強そうじゃね? 俺等じゃ無理じゃね? ねっ?」
「待てよ、こんだけ人数いんだぞ。負ける訳ねぇだろ。相手も人間なんだ」
「マジでフラグじゃん、ウケる!」

 ――頭、悪そうだなあ……。
 何というか随分と頭が軽そうな口調というか、真実何も考えていないのでは無いかと勘繰りたくなる。利口な人間なら、アロイスのような戦闘慣れしていそうな人物に真っ向から挑んだりはしないはずだが、アホと言うのは戦況を見極める力も無いのか。
 無知とは罪である、誰かの言葉を思い出しながら静かに戦慄した。彼等に、アロイスが負けるビジョンが全く湧かない。

 そっと身を屈めたアロイスが小さく呟く。それは留守番をしている小さな子供に言い聞かせるような響きがあった。

「メヴィ、俺が相手をしてくるが、あの頭の弱さでは行動が予測出来ない。お前の方に向かって来た場合、対処は出来るな?」
「はい、問題ありません」
「ああ。なるべく取りこぼさないようにはするが、十分に気を付けろ」
「了解です」

 メイヴィスの返事を聞くや否や、アロイスは身を翻した。本日は既に2戦目なのだが、本当に元気だ。体力が有り余っていると言える。

 ――アロイスさん頑張れー。
 と、気合いの無い応援を心中でしている時だった。騎士の推進力にただならぬ気迫でも感じたのか、山賊の一人がアロイスの横を通り抜け、真っ直ぐにメイヴィスを見やる。完全に非力な魔道士風の女をターゲットにした瞬間だった。

 応戦すべく、メイヴィスは腰のロッドを引き抜く。相手はナイフを持っているが、あの程度の刃渡りとただ振り回すだけの動きでは、魔石の結界を通過する事は出来ないだろう。結界に阻まれて、足を止めた瞬間に凍り付けにしてやる。
 そう心に決め、身を固くしながらも構えた。基本的にギルドに居た時もあまり戦闘には従事して居なかったが、ここ最近は更に腕が鈍った気がする。ここいらで、留守番程度なら出来る子である事をアピールしておきたい。

「オラオラ、余裕ぶっこいてんじゃねぇぞ!」

 女が相手を見るや、急に強気になる。小物の権化のような人物だな、と半ば呆れながら一瞬の隙を待った――

「――えっ? いや、ちょ、まっ……!?」

 結界範囲内に男が足を踏み入れる。あまり近づきたくなかったので、多めに範囲を取っておいて正解だった。そうでなければ、逃げるという発想が無いまま得物を持った相手とゼロ距離で対峙する事になっていただろう。
 原因は分からないが、明らかに結界が作動していない。
 そんな事あるのか、と疑問が脳内を占めるがそれこそ、そんな事を考えている場合ではなかった。

 慌てて滅茶苦茶にナイフを振り回しながら迫って来る男から距離を取る。が、結界が無ければただの幼気な雑魚であるメイヴィスの腕を、刃が引き裂いた。まさか、1日の内に洒落にならない怪我を2回もする羽目になるとは。
 慌てて片手のロッドを振るう。水を得た魚のように迫って来ていた山賊を一瞬で凍り付けにした。

 一つの魔法しか使えない代わりに、一振りで常にその一つの魔法を即発動させる魔法武器。まさかこんな所で役立つとは思わなかった。

「メヴィ!? 何をやっているんだ……?」

 カテゴリ的には魔道士なのに、何故近接戦に持ち込んだのか、と聞きたいのだろう。アロイスに悪気は無いのだが、今から話す間抜けすぎる事の顛末に対する彼の反応を想像すると苦い気持ちにしかならなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...