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11話 アルケミストの長い1日
05.山賊リターンズ
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「何だか、機嫌が悪いように見える」
魔石狩りを再開した直後、アロイスが目を伏せてそう言った。特に彼は悪く無いのだが、さっきの言葉がリフレインして気に掛かっているのは事実だろう。あんな言葉、ギルドに居た時はあまり掛けられた事も無かった。
苦笑したメイヴィスは首を横に振る。そう、誰も悪い人などいないのだ。強いて言うのならあの山賊共が悪かっただけで。
「いえ、別に機嫌は……ただちょっと、そう、疲れただけで」
「お前は怪我をしていた。疲れるのも無理は無いさ」
「あのホント、例の件については恥ずかし過ぎるので触れない方向で行きましょう、アロイスさん」
まさか装飾品の取り外しで怪我をするとは。最早、錬金術と何にも関係が無くて自分自身に呆れてしまう程だ。もしかして、最近はアロイスに頼り切りで気が抜けているのかもしれない。これだから甘えたな性質は。
「メヴィ? これはどうだ? そこそこに美しく見える」
「あ、その魔石良いですね。質も良さそうですし。じゃあ、これを回収して――」
「おうおうおう! 何を仲睦まじく石ころ掘り返してんだッ!!」
酷いデジャブを覚えながらも、響いた男性の声に顔を上げる。そこには分かりやすく刃物を持った、先程、女性からコートを強奪しようとしていた男達に似た風体の男達が立っていた。
酷い小物臭と、チンピラじみた言動。間違いない、彼等はさっきの山賊の仲間だろう。3人組はアロイスが伸したので現れるはずもないし、大方仇討ちにでも来たに違いない。
ちら、とアロイスを窺う。
一つ頷いた騎士は当然の如く背の大剣を構える。交戦する腹積もりのようだ。異様に大きな得物を見て、山賊一味がややたじろぐ。
「ちょ、センパーイ。あいつ、マジ強そうじゃね? 俺等じゃ無理じゃね? ねっ?」
「待てよ、こんだけ人数いんだぞ。負ける訳ねぇだろ。相手も人間なんだ」
「マジでフラグじゃん、ウケる!」
――頭、悪そうだなあ……。
何というか随分と頭が軽そうな口調というか、真実何も考えていないのでは無いかと勘繰りたくなる。利口な人間なら、アロイスのような戦闘慣れしていそうな人物に真っ向から挑んだりはしないはずだが、アホと言うのは戦況を見極める力も無いのか。
無知とは罪である、誰かの言葉を思い出しながら静かに戦慄した。彼等に、アロイスが負けるビジョンが全く湧かない。
そっと身を屈めたアロイスが小さく呟く。それは留守番をしている小さな子供に言い聞かせるような響きがあった。
「メヴィ、俺が相手をしてくるが、あの頭の弱さでは行動が予測出来ない。お前の方に向かって来た場合、対処は出来るな?」
「はい、問題ありません」
「ああ。なるべく取りこぼさないようにはするが、十分に気を付けろ」
「了解です」
メイヴィスの返事を聞くや否や、アロイスは身を翻した。本日は既に2戦目なのだが、本当に元気だ。体力が有り余っていると言える。
――アロイスさん頑張れー。
と、気合いの無い応援を心中でしている時だった。騎士の推進力にただならぬ気迫でも感じたのか、山賊の一人がアロイスの横を通り抜け、真っ直ぐにメイヴィスを見やる。完全に非力な魔道士風の女をターゲットにした瞬間だった。
応戦すべく、メイヴィスは腰のロッドを引き抜く。相手はナイフを持っているが、あの程度の刃渡りとただ振り回すだけの動きでは、魔石の結界を通過する事は出来ないだろう。結界に阻まれて、足を止めた瞬間に凍り付けにしてやる。
そう心に決め、身を固くしながらも構えた。基本的にギルドに居た時もあまり戦闘には従事して居なかったが、ここ最近は更に腕が鈍った気がする。ここいらで、留守番程度なら出来る子である事をアピールしておきたい。
「オラオラ、余裕ぶっこいてんじゃねぇぞ!」
女が相手を見るや、急に強気になる。小物の権化のような人物だな、と半ば呆れながら一瞬の隙を待った――
「――えっ? いや、ちょ、まっ……!?」
結界範囲内に男が足を踏み入れる。あまり近づきたくなかったので、多めに範囲を取っておいて正解だった。そうでなければ、逃げるという発想が無いまま得物を持った相手とゼロ距離で対峙する事になっていただろう。
原因は分からないが、明らかに結界が作動していない。
そんな事あるのか、と疑問が脳内を占めるがそれこそ、そんな事を考えている場合ではなかった。
慌てて滅茶苦茶にナイフを振り回しながら迫って来る男から距離を取る。が、結界が無ければただの幼気な雑魚であるメイヴィスの腕を、刃が引き裂いた。まさか、1日の内に洒落にならない怪我を2回もする羽目になるとは。
慌てて片手のロッドを振るう。水を得た魚のように迫って来ていた山賊を一瞬で凍り付けにした。
一つの魔法しか使えない代わりに、一振りで常にその一つの魔法を即発動させる魔法武器。まさかこんな所で役立つとは思わなかった。
「メヴィ!? 何をやっているんだ……?」
カテゴリ的には魔道士なのに、何故近接戦に持ち込んだのか、と聞きたいのだろう。アロイスに悪気は無いのだが、今から話す間抜けすぎる事の顛末に対する彼の反応を想像すると苦い気持ちにしかならなかった。
魔石狩りを再開した直後、アロイスが目を伏せてそう言った。特に彼は悪く無いのだが、さっきの言葉がリフレインして気に掛かっているのは事実だろう。あんな言葉、ギルドに居た時はあまり掛けられた事も無かった。
苦笑したメイヴィスは首を横に振る。そう、誰も悪い人などいないのだ。強いて言うのならあの山賊共が悪かっただけで。
「いえ、別に機嫌は……ただちょっと、そう、疲れただけで」
「お前は怪我をしていた。疲れるのも無理は無いさ」
「あのホント、例の件については恥ずかし過ぎるので触れない方向で行きましょう、アロイスさん」
まさか装飾品の取り外しで怪我をするとは。最早、錬金術と何にも関係が無くて自分自身に呆れてしまう程だ。もしかして、最近はアロイスに頼り切りで気が抜けているのかもしれない。これだから甘えたな性質は。
「メヴィ? これはどうだ? そこそこに美しく見える」
「あ、その魔石良いですね。質も良さそうですし。じゃあ、これを回収して――」
「おうおうおう! 何を仲睦まじく石ころ掘り返してんだッ!!」
酷いデジャブを覚えながらも、響いた男性の声に顔を上げる。そこには分かりやすく刃物を持った、先程、女性からコートを強奪しようとしていた男達に似た風体の男達が立っていた。
酷い小物臭と、チンピラじみた言動。間違いない、彼等はさっきの山賊の仲間だろう。3人組はアロイスが伸したので現れるはずもないし、大方仇討ちにでも来たに違いない。
ちら、とアロイスを窺う。
一つ頷いた騎士は当然の如く背の大剣を構える。交戦する腹積もりのようだ。異様に大きな得物を見て、山賊一味がややたじろぐ。
「ちょ、センパーイ。あいつ、マジ強そうじゃね? 俺等じゃ無理じゃね? ねっ?」
「待てよ、こんだけ人数いんだぞ。負ける訳ねぇだろ。相手も人間なんだ」
「マジでフラグじゃん、ウケる!」
――頭、悪そうだなあ……。
何というか随分と頭が軽そうな口調というか、真実何も考えていないのでは無いかと勘繰りたくなる。利口な人間なら、アロイスのような戦闘慣れしていそうな人物に真っ向から挑んだりはしないはずだが、アホと言うのは戦況を見極める力も無いのか。
無知とは罪である、誰かの言葉を思い出しながら静かに戦慄した。彼等に、アロイスが負けるビジョンが全く湧かない。
そっと身を屈めたアロイスが小さく呟く。それは留守番をしている小さな子供に言い聞かせるような響きがあった。
「メヴィ、俺が相手をしてくるが、あの頭の弱さでは行動が予測出来ない。お前の方に向かって来た場合、対処は出来るな?」
「はい、問題ありません」
「ああ。なるべく取りこぼさないようにはするが、十分に気を付けろ」
「了解です」
メイヴィスの返事を聞くや否や、アロイスは身を翻した。本日は既に2戦目なのだが、本当に元気だ。体力が有り余っていると言える。
――アロイスさん頑張れー。
と、気合いの無い応援を心中でしている時だった。騎士の推進力にただならぬ気迫でも感じたのか、山賊の一人がアロイスの横を通り抜け、真っ直ぐにメイヴィスを見やる。完全に非力な魔道士風の女をターゲットにした瞬間だった。
応戦すべく、メイヴィスは腰のロッドを引き抜く。相手はナイフを持っているが、あの程度の刃渡りとただ振り回すだけの動きでは、魔石の結界を通過する事は出来ないだろう。結界に阻まれて、足を止めた瞬間に凍り付けにしてやる。
そう心に決め、身を固くしながらも構えた。基本的にギルドに居た時もあまり戦闘には従事して居なかったが、ここ最近は更に腕が鈍った気がする。ここいらで、留守番程度なら出来る子である事をアピールしておきたい。
「オラオラ、余裕ぶっこいてんじゃねぇぞ!」
女が相手を見るや、急に強気になる。小物の権化のような人物だな、と半ば呆れながら一瞬の隙を待った――
「――えっ? いや、ちょ、まっ……!?」
結界範囲内に男が足を踏み入れる。あまり近づきたくなかったので、多めに範囲を取っておいて正解だった。そうでなければ、逃げるという発想が無いまま得物を持った相手とゼロ距離で対峙する事になっていただろう。
原因は分からないが、明らかに結界が作動していない。
そんな事あるのか、と疑問が脳内を占めるがそれこそ、そんな事を考えている場合ではなかった。
慌てて滅茶苦茶にナイフを振り回しながら迫って来る男から距離を取る。が、結界が無ければただの幼気な雑魚であるメイヴィスの腕を、刃が引き裂いた。まさか、1日の内に洒落にならない怪我を2回もする羽目になるとは。
慌てて片手のロッドを振るう。水を得た魚のように迫って来ていた山賊を一瞬で凍り付けにした。
一つの魔法しか使えない代わりに、一振りで常にその一つの魔法を即発動させる魔法武器。まさかこんな所で役立つとは思わなかった。
「メヴィ!? 何をやっているんだ……?」
カテゴリ的には魔道士なのに、何故近接戦に持ち込んだのか、と聞きたいのだろう。アロイスに悪気は無いのだが、今から話す間抜けすぎる事の顛末に対する彼の反応を想像すると苦い気持ちにしかならなかった。
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