アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

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5話 上位魔物の素材収拾

07.追加の人員

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「あ、お守り溶けたな」
「はいっ!?」

 事も投げに告げられたヘルフリートの終了宣告に目を剥く。溶けたな、じゃない。どうするつもりなのか、或いはどうすればいいのか分からず動向を見守っていると彼は上手い事戦線を離脱した。というか、ナターリアを盾に、毒範囲外に出たのだ。

「ちょっ! どーすんだよコラッ!!」
「口が悪いぞ……。すまん、ちょっと布とか持っていないか?」
「持ってないよ! 何に使うつもり?」
「いや、毒が回るのをせめて遅くしようかと」
「浴びたの!? さ、流石ヒューマン、貧弱ぅ!!」

 そう言いはしたが、状況は悪化の一途を辿っている。このままではコイツと仲良く全滅しかねない。かといって自分一人ではここから抜け出す事も叶わないだろう。絶望、仲良く毒沼に沈む他無いのか。
 ハンマーを振り抜く。幸い、武器のリーチが長いお陰でお守りにはあまり頼っていない。自分のアイテムはもう少し長持ちするはずだ。

 後どのくらいでヘルフリートの浴びた毒とやらは全身に回るのだろうか。メイヴィスの説明なんてよく覚えていないが、猶予はあまり無いように感じる。
 ついでにトカゲの群れの数も薄ボンヤリ数えてみた。減ってはいる。それだけだ。この数を2人――否、自分1人で処理するのはおよそ不可能。強靱と言われる獣人の体力を以てしても、全てを片付け切るには至らないだろう。

「あ!」
「今度は何かなっ! ヘルフリートさん!!」
「笛の音」
「幻聴でも聞こえてんじゃないの? あたしには聞こえないけど」
「そうか。ならきっと俺の耳は音を拾っているな。どうしてだかは分からないが、あの笛の音は動物には聞こえない」
「喧嘩売ってんのか」

 具合が悪くなってきたのだろうか。当初の元気溌剌さをどこぞへ忘れて来てしまったかのように悪い顔色でヘルフリートが苦笑した。
 群がって来る毒トカゲ達を牽制する。
 毒を浴びた個体を見分ける目でもあるのだろうか。奴等の狙いは動きが鈍くなった騎士サマらしい。元々、毒なんて身を護る為か狩りをする為に持っているのだろうし。当然と言えば当然だろうか。

「アロイス殿か……ヒルデ殿か。呼んでみる」
「救援が来てるならそれに越した事はないかなっ!」

 鎧の下に隠れていた小さな、息を吹き込むだけで音が鳴る金属製の笛。それを口に咥えたヘルフリートが明後日の方角を見ながら吹いている。目の前でそれが鳴っているにも関わらず、ナターリアの耳にその音が届く事は無かった。
 人間はこういう道具を作るという一点においては長けていると思う。この笛もその産物。仲間以外の動物をおびき寄せないようにする為の工夫だ。

 やがて、明らかに地を這う爬虫類のものとは思えないガサガサという盛大な足音が近付いて来る。しかし、こちらは数百という魔物に囲まれている状況だ。案の定、向かって来ていた足音が、止まる。

「え」
「――アロイス殿だったかな、これは」

 それはまさに圧巻だった。
 前方、凄まじい音がしたかと思えば地面とトカゲが巻き上げられ、視界の端で踊るのが見えた。血と毒の混じる臭い。飛散した混合物を踏み砕く鉄の足音。

 突如増えた危険に、爬虫類の魔物が困惑する様子が見て取れる。
 もう救援達の姿はしっかりと肉眼で捉える事が出来た。

「ナターリア! 今そちらへ行きます!」

 片っ端から魔物を蹴散らし、謎の推進力を持った騎士2人。アロイスとヒルデガルト。貧弱で脆弱な人間ではあるが、極めるところまで極めれば獣をも喰う。その事実に脱力したナターリアは足下に迫っていた毒トカゲの数匹をハンマーで押し潰した。

 程なくして助けに来たらしい騎士2人が涼しい顔で合流する。周囲にいた毒トカゲは数が半分以下になった所で撤退を開始し、今は不気味な程に静まり返っていた。

「無事ですか?」

 ヒルデガルトの問いにヘルフリートが渋い顔をする。

「ヒルデ殿、解毒剤なんか持っていませんか?」
「わ、私ですか? いえ、持っていないというか……あの、メヴィ殿はどちらに?」
「今ちょっとはぐれていてですね」

 ぎょっとしたようにアロイスとヒルデガルトが目を見合わせた。嫌な予感しかしない。
 そしてその嫌な予感というフラグはすぐ回収する事と相成った。

「落ち着いて聞いて下さい、ヘルフリート殿。我々は今回のクエストの追加人員なのですが、ギルドマスター殿の言に従い、毒対抗アイテムを持たずに来ました。メヴィ殿が同行しており、要らないとの事でしたので……」
「う……。そうですか、仕方無いですね。メヴィを捜さなければ」

 確認するが、と大剣のチェックをしていたアロイスが訊ねる。というか、この2人解毒アイテムも持たずに毒トカゲに突っ込んで行ったのか。どんな頭しているのか本当に疑問である。

「ヘルフリート、お前は毒を浴びているな?」
「ええ、お恥ずかしい限りです」
「いやいい。無茶せず、ナターリアと一緒に後から追って来い。出来うる限り、周辺魔物は掃討する。それで、まさかメヴィは一人という事は無いな?」
「エサイアス殿が一緒ですよ。彼は優秀な方です。もう、先に湿地帯を抜けているかもしれません」
「そうだな……。というか、何故はぐれた?」
「スケルトン・ロードが棲み着いています。奇襲に遭い、バラバラに」

 ええっ、と引き攣った声を上げたのはヒルデガルトだった。しかし、彼等はメイヴィスが出した救援要請に従って来てくれたのではないだろうか。

「ヒルデ、メヴィが出した救援要請で来たんだよね?」
「え? 何ですか、それ。私達は先程述べた通り、クエストの変更点があったのでギルドマスター殿に声を掛けられ、ここまで来ました。メヴィ殿が向かったとの事だったので、アイテムを持たずに、急いで」
「んん? じゃあ、救援要請とは無関係って事?」
「え、ええ。というより、スケルトン・ロードの話も今初めて聞きました」

 話し込んでいる場合じゃないな、とアロイスが踵を返す。あまりらしくない早急な行動に目を白黒させていると、苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。

「エサイアス殿とメヴィは2人きりなのだろう? 今、スケルトン・ロードに出会したら無事では済まないな。俺達がここへ来るまでに、それとは出会わなかった事だし」
「……あっ」
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