35 / 139
4話 アルケミストと女子会
04.買い物
しおりを挟む
アイテムショップが2軒並んでいる通り。片方は万人向けアイテム売り場、もう片方は魔道職向けアイテム売り場だ。
迷い無く後者のショップへ入って行ったメイヴィスは、店長に片手を挙げて挨拶する。彼にはよく魔石の取り置きなんかを頼んでおり、知らない仲ではなかったりするのだ。
しかし、唐突なメイヴィスの訪問に新聞を読んでいた店主は訝しげな顔をした。取り置き商品は無かったはずだが、と言わんばかりだ。
「どうした、メヴィ。今日は目星い物は何も入ってねぇぞ」
「こんにちは、店主さん。あの、魔道ローブを作ろうと思ってるんですけど、良い布とかありませんか?」
「加工される前のローブ用生地か? 悪いな、そういう未加工品は取り扱ってねぇんだ。錬金術師なんざ、わざわざ商店街にまで買い物には来ねぇからな。あー、何だ、絶対に使うってんならいつになるか分からんが取り寄せも出来るぞ」
「それってどのくらい掛かるとか、具体的には分からないんですか?」
「分からんなあ。というかお前、錬金術師ならローブ用の布でも作ればいいんじゃねぇのか? 魔石なら今日入荷したばっかりだぞ」
「あ! 魔石仕入れてるんですか!?」
「おうとも、買って行くかい。つっても、お前ジリ貧生活なんだっけ?」
ふふ、とメイヴィスは不敵な笑みを漏らした。
「全部買って行きます! 何と言っても、前金で大量の金銭を入手しましたからね!」
「お、おおっ! そりゃ俺的にも助かるが……え、大丈夫か? 即金以外受け付けねぇぞ」
「流石にそんな大量のお金は持ち運んでいないので、ツケで!」
「ええ……明日払いに来いよ、ホント」
「勿論ですとも!」
心配そうな顔をしつつも、店主は立ち上がり魔石が飾ってある棚へと移動する。その際、物珍しげに棚の商品を見ている騎士2人を視界に入れた彼は目を白黒させ、彼等に声を掛けた。
「あ、あんたら客か? 一般商品なら隣の店だぞ」
「いや、俺達は彼女の荷物持ちだ。気にする事は無い」
「え? いや、ちがっ――」
メヴィ、と店主が呆れた顔をする。
「幾ら金が入ったか知らねぇが、そういう使い方は良くないんじゃないのか?」
この後、店主の誤解を解くのに10分を有したが、魔石を大量に入手した。具体的に言うと、袋に全て詰めた重量が5キログラムになるくらいだ。後悔はしている。
***
続いて、布を買う為に手芸用店を訪れた。魔石は心底重かったし、アロイスやヒルデには無理するな持つからと言われたが、最早意地の境地で荷物を持っている。こんな重い物、人様に持たせられるはずがない。
しかし、ここまで来てしまえば後は早い。買う布は黒で決まっているからだ。
早々に店員を捕まえたメイヴィスは必死な形相でオーダーした。
「すいません。黒い布を1ロール下さい」
「……え? あ、え? 巻いてある布、全てですか?」
「はい。大丈夫です、その内使い切るんで」
店員が2人掛かりで布を1ロール持って来た。
流石にこれを運ぶのは物理的に骨が折れかねないので、所持していた術式を翳す。もうこれ、直接地下の工房に飛ばしてしまおう。何か押し潰して壊してしまうかもしれないが、自身の人体が破壊されるよりマシである。
会計を済ませ、移動術式を起動させた。
ふっと一瞬のうちに布が消え、ついでに紙に書かれていた術式が解け消える。これで買った布は地下の工房に放り出されているはずだ。
「メヴィ殿、その魔石も移動させてしまえばいいのでは?」
「や、今日は本当は買い物に行く予定なんて無くて……術式、1枚しか持ってなかったんですよ」
「成る程。例のローブが完成した暁には、持ち運びが便利になりそうですね」
「た、確かに……」
話ながら店を出る。
そこで、もう一度メイヴィスは彼等の荷物をまじまじと観察した。
「あの、ところで、その荷物はどうしたんですか?」
「ああ、これはシノからのお遣いだ。届いた玉鋼を引き取りに行かねばならないらしいが、手違いでクエストへ行く事になったそうだ。流石にギルドのマスターに荷物持ちをさせる訳にはいかないからな。我々がその役目を買って出た」
自分がいない間に、何かしらのトラブルがあったようだ。しかし、玉鋼か。大変重そうだ。
迷い無く後者のショップへ入って行ったメイヴィスは、店長に片手を挙げて挨拶する。彼にはよく魔石の取り置きなんかを頼んでおり、知らない仲ではなかったりするのだ。
しかし、唐突なメイヴィスの訪問に新聞を読んでいた店主は訝しげな顔をした。取り置き商品は無かったはずだが、と言わんばかりだ。
「どうした、メヴィ。今日は目星い物は何も入ってねぇぞ」
「こんにちは、店主さん。あの、魔道ローブを作ろうと思ってるんですけど、良い布とかありませんか?」
「加工される前のローブ用生地か? 悪いな、そういう未加工品は取り扱ってねぇんだ。錬金術師なんざ、わざわざ商店街にまで買い物には来ねぇからな。あー、何だ、絶対に使うってんならいつになるか分からんが取り寄せも出来るぞ」
「それってどのくらい掛かるとか、具体的には分からないんですか?」
「分からんなあ。というかお前、錬金術師ならローブ用の布でも作ればいいんじゃねぇのか? 魔石なら今日入荷したばっかりだぞ」
「あ! 魔石仕入れてるんですか!?」
「おうとも、買って行くかい。つっても、お前ジリ貧生活なんだっけ?」
ふふ、とメイヴィスは不敵な笑みを漏らした。
「全部買って行きます! 何と言っても、前金で大量の金銭を入手しましたからね!」
「お、おおっ! そりゃ俺的にも助かるが……え、大丈夫か? 即金以外受け付けねぇぞ」
「流石にそんな大量のお金は持ち運んでいないので、ツケで!」
「ええ……明日払いに来いよ、ホント」
「勿論ですとも!」
心配そうな顔をしつつも、店主は立ち上がり魔石が飾ってある棚へと移動する。その際、物珍しげに棚の商品を見ている騎士2人を視界に入れた彼は目を白黒させ、彼等に声を掛けた。
「あ、あんたら客か? 一般商品なら隣の店だぞ」
「いや、俺達は彼女の荷物持ちだ。気にする事は無い」
「え? いや、ちがっ――」
メヴィ、と店主が呆れた顔をする。
「幾ら金が入ったか知らねぇが、そういう使い方は良くないんじゃないのか?」
この後、店主の誤解を解くのに10分を有したが、魔石を大量に入手した。具体的に言うと、袋に全て詰めた重量が5キログラムになるくらいだ。後悔はしている。
***
続いて、布を買う為に手芸用店を訪れた。魔石は心底重かったし、アロイスやヒルデには無理するな持つからと言われたが、最早意地の境地で荷物を持っている。こんな重い物、人様に持たせられるはずがない。
しかし、ここまで来てしまえば後は早い。買う布は黒で決まっているからだ。
早々に店員を捕まえたメイヴィスは必死な形相でオーダーした。
「すいません。黒い布を1ロール下さい」
「……え? あ、え? 巻いてある布、全てですか?」
「はい。大丈夫です、その内使い切るんで」
店員が2人掛かりで布を1ロール持って来た。
流石にこれを運ぶのは物理的に骨が折れかねないので、所持していた術式を翳す。もうこれ、直接地下の工房に飛ばしてしまおう。何か押し潰して壊してしまうかもしれないが、自身の人体が破壊されるよりマシである。
会計を済ませ、移動術式を起動させた。
ふっと一瞬のうちに布が消え、ついでに紙に書かれていた術式が解け消える。これで買った布は地下の工房に放り出されているはずだ。
「メヴィ殿、その魔石も移動させてしまえばいいのでは?」
「や、今日は本当は買い物に行く予定なんて無くて……術式、1枚しか持ってなかったんですよ」
「成る程。例のローブが完成した暁には、持ち運びが便利になりそうですね」
「た、確かに……」
話ながら店を出る。
そこで、もう一度メイヴィスは彼等の荷物をまじまじと観察した。
「あの、ところで、その荷物はどうしたんですか?」
「ああ、これはシノからのお遣いだ。届いた玉鋼を引き取りに行かねばならないらしいが、手違いでクエストへ行く事になったそうだ。流石にギルドのマスターに荷物持ちをさせる訳にはいかないからな。我々がその役目を買って出た」
自分がいない間に、何かしらのトラブルがあったようだ。しかし、玉鋼か。大変重そうだ。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる