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第1章『厄災の前兆』
漆黒の騎士①
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日は落ちかけ、薄暗い森からわずかに漏れるオレンジ色が馬車の荷台を照らしていた。ギシギシと揺れる荷台には横たわる半裸の少女と、せせら笑いと共に少女を嬲り続ける複数のゴブリン。荷台の上で仰向けで手足を縛られ、舌を咬み切る事さえできなかったが、最後だけは阻止しようと必死で身をよじり抗い続けるビアンカ。その抵抗も虚しく、一匹のゴブリンが短剣の刃をビアンカの下半身を覆う下着にあてた。
”神様―――――!”
涙で既に視界は用を成さなかったが、ビアンカは目をつむり必死で祈った。シャキンと刃が裁つ音が聞こえた。恐怖と嫌悪感で意識を失いかけたその時―――、ゴトンと何かが荷台に落ちる音がした。続けてまたゴトン。この状況で聞こえるはずのない音、明らかな違和感。
ビアンカがそっと目を開けてみると、荷台にはゴブリンの首が複数転がっていた。ビアンカは何が起きているのかを把握する為に目線を少し遠くに向けた。荷台に乗っていない見張り役であろうゴブリン達はまだ生きていたが、全てのゴブリンが一点の方向を凝視していた。ビアンカもその方向に目線を移す――――。
そこは漆黒であった―――。大地を踏みしめる漆黒の長い脚、悪魔のようなフォルムで黒光りする甲冑、頭は最低限視界を確保する為だけに空いているだけの漆黒の兜で覆われていた。人かどうかすら疑わしい風貌だが、しいて言えば騎士に見えた。ゴブリン達は憤怒の表情をしながら漆黒の騎士ににじり寄っていく。すると漆黒の騎士はゴブリン達と六間はあろうかという距離で肩幅程度に足を開いた後、腰を落とし始め、刀身と柄がぶつかりあうカチィイイン!という音と共に片手突きの構えをした。
「―――――――暗……黒!!」
漆黒の騎士はそう唱えると空に向かって突きを放つ。すると刀身からドス黒いオーラのようなものが怒涛の勢いで放出され、一瞬でゴブリン達を丸飲みにした。
「ギャアアアアアアアアアア!!!」
轟音と共に怒涛の勢いで流れるオーラの中から聞こえてくるのはシャキンシャキンという肉体を切り刻む音とゴブリン達の断末魔。漆黒の騎士はその一撃だけで剣を鞘に納めた。――――ドス黒いオーラが消失した後、残ったのは地面に散らばる肉片のみだった。
× ×
あまりにも多くの事が同時に起こり、ビアンカは脳の処理が追い付かずボ~~~っとビアンカの手枷を外す漆黒の騎士を見つめていた。漆黒の騎士はそれを気にも留めず、手枷を外した後、短剣を使って幌を毛布程度の大きさに裁っていく。そして幌をビアンカに投げつけてきた。
「これでも羽織っていろ。」
「あ…、ひ…ひゃあ!?」
上半身が露わになっている事にようやく気付いたビアンカは幌の切れ端をそそくさと羽織った。
”神様―――――!”
涙で既に視界は用を成さなかったが、ビアンカは目をつむり必死で祈った。シャキンと刃が裁つ音が聞こえた。恐怖と嫌悪感で意識を失いかけたその時―――、ゴトンと何かが荷台に落ちる音がした。続けてまたゴトン。この状況で聞こえるはずのない音、明らかな違和感。
ビアンカがそっと目を開けてみると、荷台にはゴブリンの首が複数転がっていた。ビアンカは何が起きているのかを把握する為に目線を少し遠くに向けた。荷台に乗っていない見張り役であろうゴブリン達はまだ生きていたが、全てのゴブリンが一点の方向を凝視していた。ビアンカもその方向に目線を移す――――。
そこは漆黒であった―――。大地を踏みしめる漆黒の長い脚、悪魔のようなフォルムで黒光りする甲冑、頭は最低限視界を確保する為だけに空いているだけの漆黒の兜で覆われていた。人かどうかすら疑わしい風貌だが、しいて言えば騎士に見えた。ゴブリン達は憤怒の表情をしながら漆黒の騎士ににじり寄っていく。すると漆黒の騎士はゴブリン達と六間はあろうかという距離で肩幅程度に足を開いた後、腰を落とし始め、刀身と柄がぶつかりあうカチィイイン!という音と共に片手突きの構えをした。
「―――――――暗……黒!!」
漆黒の騎士はそう唱えると空に向かって突きを放つ。すると刀身からドス黒いオーラのようなものが怒涛の勢いで放出され、一瞬でゴブリン達を丸飲みにした。
「ギャアアアアアアアアアア!!!」
轟音と共に怒涛の勢いで流れるオーラの中から聞こえてくるのはシャキンシャキンという肉体を切り刻む音とゴブリン達の断末魔。漆黒の騎士はその一撃だけで剣を鞘に納めた。――――ドス黒いオーラが消失した後、残ったのは地面に散らばる肉片のみだった。
× ×
あまりにも多くの事が同時に起こり、ビアンカは脳の処理が追い付かずボ~~~っとビアンカの手枷を外す漆黒の騎士を見つめていた。漆黒の騎士はそれを気にも留めず、手枷を外した後、短剣を使って幌を毛布程度の大きさに裁っていく。そして幌をビアンカに投げつけてきた。
「これでも羽織っていろ。」
「あ…、ひ…ひゃあ!?」
上半身が露わになっている事にようやく気付いたビアンカは幌の切れ端をそそくさと羽織った。
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