聖女である私を追放した王国は魔物に蹂躙されましたが、私は流刑地でイケメン暗黒騎士様に溺愛される日々を送っています。

ZERO ー叛逆のカリスマー

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第1章『厄災の前兆』

「西へ―――。」①

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 バロンから西方へ数十里―――、肥沃な土壌と豊かな水資源で活気溢れるダメルアン―――。その集落をビアンカの乗る馬車が闊歩していた。

「聖女様ぁ!ダメルアンの茶葉は有名でバロン城にも納品されてるぐらいなんですわぁ!ちょっと休憩していきますかい?」

 馬車の荷台で膝を抱えてうずくまるビアンカに御者のボブは好意で声をかけたが、ビアンカは返事をするでもなく、虚ろな目で空を見つめていた。

”出過ぎた真似をしてしまったかなぁ…。まだ遊びたい盛りの歳だろうに…”

 事実、ビアンカの歳は17歳。透き通るような肌と淡く紫がかった銀髪、端正な顔立ちはスミレのような可憐さを醸し出していた。バロンでも随一の美貌といって差し支えないだろう。聖女という役職を与えられていなければバロンで輝かしい青春を送っていたに違いない。酒で出た腹をさすりながら陰キャな青春を送ってきたボブはそう思った。
 ボブの思いなどつゆ知らず、ビアンカはこれから起こるであろうバロンの惨劇に思いを巡らせていた。先代から教えられた祈りを断つ事による魔窟の活性化は約一ヵ月で完了し、以下の順で起こっていくという。

 祈りを断って一週間で『魔物が増加する』
 祈りを断って二週間で『魔物が強化される』
 祈りを断って三週間で『魔物が進化する』
 祈りを断って一ヵ月―――、『大いなる厄災の襲来』

 一ヵ月も経てばバロン滅亡どころの話ではなく人類滅亡まで波及しかねない―――。その前に何か策を講じて何としてもバロンに戻り、祈りを再開せねば。バロンの魔窟の活性化を抑えるにはバロンの神殿から祈りを捧げなければならない。だが一~二週間は放っておいてあのもやしのようなスネ王子とバロンの上層部にお灸をすえるのもいいだろう、と聖女にあるまじき腹黒さを持っている自分に僅かばかり口角が上がった。

「ちょっとおいどんはそこの茶屋でお手洗いを借りてきやす。聖女様は大丈夫ですかい?」

 ビアンカはこくんと頷いた。「ほいじゃあ!」と言いながら恰幅の良い体躯のわりにひょいと馬車から飛び降り、ボブは小走りでお手洗いへ向かった。ボブさんは教主様がせめてもの餞別と直々に選んでくださった御者だ。そして柔和な人柄であると同時に元王族直属の騎士で武芸にも長けており、私をニシナーリへ送る人材としてはもったいないほどである。

「聖女様ぁ!これがダメルアンの淹れたての紅茶とダメルパイでさぁ!おあがりよ!」

 お手洗いに行ったはずのボブが何故か満面の笑みで紅茶とダメルパイを持ってかけよってくる。ぶっちゃけ要らなかったのだがこういう気遣いまで出来るボブさんの優秀さに驚きながらも私はご高名なダメルアンの紅茶とやらをすすってみた。

「美味しい…。」

「でしょでしょ!ほらダメルパイも遠慮なさらず!先は長いけえ!おあがりよ!」

 美味しい紅茶を飲みながらボブさんの底抜けに明るい笑顔を見ていると今まで張りつめていた糸のようなものが緩んだ気がした。

「あの…ボブさん…。私もちょっとお手洗いに…。」

「いってらっしゃいやし!」

 あのもやし王子とは明らかに一線を画している。神殿にほとんど引きこもっている私は人とこんな風に会話をする事がなかったけど色んな人が居るんだ。何か昔の実家のような安心感を感じつつも私はお手洗いへ向かった。

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