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38〔理想と現実〕
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「見ていたらお揃いが欲しくなってきました。でもそれ人気デザインだからなぁ。まだ残ってたっけ……今日もいくつか出ましたから、二人だけのお揃いじゃないんですけどね。やっぱりオリジナルデザインしかないか……」
「今は何か着けてるのか?」
そういえばアクセサリーを装着しているところを見たことがない。ネクタイピンや、カフスには派手な宝石を付けているのをたまに見るけど、自身への装飾はしていない。
「あーこんなこと言うと失格かもしれないんですけど、つい着けていることを忘れてしまうんですよね。置き忘れならまだマシで、過去には焦がしたり、船から海の中へ落っことしたり、修復不可能なことも多くて困りましたよ。誕生日に両親からのメッセージが入った、オリジナルのやつとかだったのに。あはは」
「向いてなさすぎる……」
「だから貴方へは沢山送りたいですね。飾ってもいいですし。全て僕が携わるので、売れないようにします。売ったとしても価値が出ないでしょう。有名なデザイナーじゃないんだし、わざと傷を付けてもらうことも可能ですから。死んだら貴方の骨と共に埋めましょう。金や銀は長く持ちますから、永久に一緒です」
「それジョーク? 本気?」
「本気中のマジですが。もちろん僕も同じ事をしますよ。死んでもお揃いですね」
「だから俺の妄想を超える発想やめてくれよ……」
こんな事を華やかな背景が広がる中で言うので、恐怖心が薄れる。あまりにも爽やかなので、またこいつの存在自体がジョークなんじゃないかと笑ってしまった。
「クリスマスは楽しんで頂けましたか?」
「ああ、おかげさまで」
「でもまだ終わりじゃありません。本当は二十四日の夜から二十五日にかけてがメインなんですけど……まぁ楽しい時間はいくらあってもいいですから。早く帰りましょうか。ああでも、また貴方を酔わせるのもいいかもしれない。貴方は酔うと面白いですからね。どこか寄りますか?」
「勘弁してくれ。いや、勘弁してください」
昨日と前の失敗が蘇る。いくらでも介抱するのにという声を押し退けて、先にタクシーを呼んだ。
俺だけなら混雑している電車でも構わないが、こいつは慣れていないだろう。そもそも乗る発想もないかもしれない。
「シャンパンだけじゃないんですよ。貴方と楽しみたくて、色々用意してしまいました。一日、二日じゃ消費しきれないものがまだまだ……」
「脅すなって」
車に乗る直前に遠くを見ながら、ぼそりと呟いた。
「僕の目標は一秒でも長く、貴方が彼の事を想う時間を消すことです」
脅しか冗談か分からない事をまた言いつつ、笑顔を浮かべた。
「ここにも雪が降るといいですねー」
わざとらしく呟くと先程のことは聞こえていなかったのか、こちらの話題には運転手が反応し始めた。雪の日は面倒だけど、交通機関を諦めた人々がよく来るらしい。そんな話には混ざらずに、通り過ぎる街並みを見つめていた。
妄想の中の、理想のクリスマス。そしてこうして現実で過ごしたクリスマス……どちらの方がよりロマンティックだったのか。君ならどう判断する? ふふ、嘘だよ。そんな意地悪な事は聞かない。でもね、一つだけ伝えたいことがあるんだ。
ジンは俺にとって、ずっと大切な存在には違いないから。何があろうと大好きだから。永遠に君のことは忘れない。
好きの形や二人の関係性が変化しても、愛しているのには変わりない。離れても触れられなくても、存在しなくても大事だ。
だから……。
「ありがとう」
車を降りてから、夜空に向かって呟いた。聞こえていないぐらいの声量だったはずなのに、静かな道だったからバレた。
「お礼なんてお互い様でしょう。僕も貴方と過ごせて良かったですし。さぁ早く入りましょう。あ、先にアプリで暖房入れておきますね」
「……異次元」
「貴方にとってもすぐに日常になりますよ。ほら、仲良く手を繋いで帰りましょ」
寒がりなのか、外にいる時はよく手袋を着けている。仕事でも使うだろうから、着けている時間の方が多いのだろう。
でも俺と居る時は、素手の状態をよく見る。こうしてすぐに繋ぎたがるからだ。
「お前手繋ぐの好きな」
「本当は手じゃなくても、どこでもいいんですけど。別のとこにしますか?」
「……手にしようか、捕まりたくないし」
「何を想像したんですか」
「あ、そうだ。お前にプレゼントがあるんだった。期待しないでくれ」
「唐突ですね、どういうことですか」
鞄に無理やり突っ込んで、潰れていたぬいぐるみを取り出す。もちもち系だったからか、形は意外と崩れていない。
「さっき取った。やる」
「好きなんですか、こういうの」
「……好きじゃない。こんなシンプルな顔で儲けてんの腹立つ」
「でもわざわざ……ん、取った? 買ったんじゃなくて」
「そう。ゲーセンで」
「へぇ、そういうのやるんですね。それにしても、この子達抱き合ってますよ。これってそういうメッセージだと受け取っていいんですか」
「曲解しすぎだろそれ」
「まぁ何にせよ貴方からのプレゼントなので大事にします。二人の寝室に飾りましょうね」
「え?」
「ベッドの上でもいいですよ」
「な、何だよそれ。同棲でもあるまいし」
「貴方ならいつでも来ていいですよ。もう場所も覚えたでしょう?」
「まぁーな……考えておく」
「ほら、ちゃんと見てください。ここから入るんですよ」
「そんなの見なくても分かるっ」
わーわー冗談を言いながら歩く俺達を、たまに通り過ぎる住人の方々は厄介そうな目で見ている。でもこんな日だし、ただの酔っ払いか何かだと思っているのか、直接注意されることはなかった。
あいつはまだクマを持ったままだし、仕事帰りとは思えないスーツを着ているし、俺でも話しかけたくない。
馬鹿な話をしつつも、なんとなくここに住んだらと考えてしまう。俺でも化けられるだろうか、この世界の住人に。
まぁ怒られたとしても、あいつが笑っているならそれでいい。
今一番近くで見ているこの顔が、消えなければ。
「今は何か着けてるのか?」
そういえばアクセサリーを装着しているところを見たことがない。ネクタイピンや、カフスには派手な宝石を付けているのをたまに見るけど、自身への装飾はしていない。
「あーこんなこと言うと失格かもしれないんですけど、つい着けていることを忘れてしまうんですよね。置き忘れならまだマシで、過去には焦がしたり、船から海の中へ落っことしたり、修復不可能なことも多くて困りましたよ。誕生日に両親からのメッセージが入った、オリジナルのやつとかだったのに。あはは」
「向いてなさすぎる……」
「だから貴方へは沢山送りたいですね。飾ってもいいですし。全て僕が携わるので、売れないようにします。売ったとしても価値が出ないでしょう。有名なデザイナーじゃないんだし、わざと傷を付けてもらうことも可能ですから。死んだら貴方の骨と共に埋めましょう。金や銀は長く持ちますから、永久に一緒です」
「それジョーク? 本気?」
「本気中のマジですが。もちろん僕も同じ事をしますよ。死んでもお揃いですね」
「だから俺の妄想を超える発想やめてくれよ……」
こんな事を華やかな背景が広がる中で言うので、恐怖心が薄れる。あまりにも爽やかなので、またこいつの存在自体がジョークなんじゃないかと笑ってしまった。
「クリスマスは楽しんで頂けましたか?」
「ああ、おかげさまで」
「でもまだ終わりじゃありません。本当は二十四日の夜から二十五日にかけてがメインなんですけど……まぁ楽しい時間はいくらあってもいいですから。早く帰りましょうか。ああでも、また貴方を酔わせるのもいいかもしれない。貴方は酔うと面白いですからね。どこか寄りますか?」
「勘弁してくれ。いや、勘弁してください」
昨日と前の失敗が蘇る。いくらでも介抱するのにという声を押し退けて、先にタクシーを呼んだ。
俺だけなら混雑している電車でも構わないが、こいつは慣れていないだろう。そもそも乗る発想もないかもしれない。
「シャンパンだけじゃないんですよ。貴方と楽しみたくて、色々用意してしまいました。一日、二日じゃ消費しきれないものがまだまだ……」
「脅すなって」
車に乗る直前に遠くを見ながら、ぼそりと呟いた。
「僕の目標は一秒でも長く、貴方が彼の事を想う時間を消すことです」
脅しか冗談か分からない事をまた言いつつ、笑顔を浮かべた。
「ここにも雪が降るといいですねー」
わざとらしく呟くと先程のことは聞こえていなかったのか、こちらの話題には運転手が反応し始めた。雪の日は面倒だけど、交通機関を諦めた人々がよく来るらしい。そんな話には混ざらずに、通り過ぎる街並みを見つめていた。
妄想の中の、理想のクリスマス。そしてこうして現実で過ごしたクリスマス……どちらの方がよりロマンティックだったのか。君ならどう判断する? ふふ、嘘だよ。そんな意地悪な事は聞かない。でもね、一つだけ伝えたいことがあるんだ。
ジンは俺にとって、ずっと大切な存在には違いないから。何があろうと大好きだから。永遠に君のことは忘れない。
好きの形や二人の関係性が変化しても、愛しているのには変わりない。離れても触れられなくても、存在しなくても大事だ。
だから……。
「ありがとう」
車を降りてから、夜空に向かって呟いた。聞こえていないぐらいの声量だったはずなのに、静かな道だったからバレた。
「お礼なんてお互い様でしょう。僕も貴方と過ごせて良かったですし。さぁ早く入りましょう。あ、先にアプリで暖房入れておきますね」
「……異次元」
「貴方にとってもすぐに日常になりますよ。ほら、仲良く手を繋いで帰りましょ」
寒がりなのか、外にいる時はよく手袋を着けている。仕事でも使うだろうから、着けている時間の方が多いのだろう。
でも俺と居る時は、素手の状態をよく見る。こうしてすぐに繋ぎたがるからだ。
「お前手繋ぐの好きな」
「本当は手じゃなくても、どこでもいいんですけど。別のとこにしますか?」
「……手にしようか、捕まりたくないし」
「何を想像したんですか」
「あ、そうだ。お前にプレゼントがあるんだった。期待しないでくれ」
「唐突ですね、どういうことですか」
鞄に無理やり突っ込んで、潰れていたぬいぐるみを取り出す。もちもち系だったからか、形は意外と崩れていない。
「さっき取った。やる」
「好きなんですか、こういうの」
「……好きじゃない。こんなシンプルな顔で儲けてんの腹立つ」
「でもわざわざ……ん、取った? 買ったんじゃなくて」
「そう。ゲーセンで」
「へぇ、そういうのやるんですね。それにしても、この子達抱き合ってますよ。これってそういうメッセージだと受け取っていいんですか」
「曲解しすぎだろそれ」
「まぁ何にせよ貴方からのプレゼントなので大事にします。二人の寝室に飾りましょうね」
「え?」
「ベッドの上でもいいですよ」
「な、何だよそれ。同棲でもあるまいし」
「貴方ならいつでも来ていいですよ。もう場所も覚えたでしょう?」
「まぁーな……考えておく」
「ほら、ちゃんと見てください。ここから入るんですよ」
「そんなの見なくても分かるっ」
わーわー冗談を言いながら歩く俺達を、たまに通り過ぎる住人の方々は厄介そうな目で見ている。でもこんな日だし、ただの酔っ払いか何かだと思っているのか、直接注意されることはなかった。
あいつはまだクマを持ったままだし、仕事帰りとは思えないスーツを着ているし、俺でも話しかけたくない。
馬鹿な話をしつつも、なんとなくここに住んだらと考えてしまう。俺でも化けられるだろうか、この世界の住人に。
まぁ怒られたとしても、あいつが笑っているならそれでいい。
今一番近くで見ているこの顔が、消えなければ。
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