俺の恋人はタルパ様

迷空哀路

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28〔引き返せない〕

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「お前といると心地良い、安心するのは本心だ。今の俺はジンがいなくなってから、そういう感情になることがなくなった。イケメンを見ても、いいねを押すぐらいの軽い気持ちにしかならない。前みたいに情熱的に推していた頃がもう遠くて、どうやっていたか忘れた。でもお前はそんな俺と過ごしていた訳じゃないから、そんな好かれ方はしたくないだろ? この穏やかな状態でよければ、もう少し付き合ってみてほしい」
泣きそうな顔というか、もう遅いかもしれない。そんな顔で振り返って、腕の中に入ってきた。
「……貴方がスマートで格好良い人が好きだから、そうなれるように練習したのに。イメージトレーニングしてたのに! 部屋に入ってからの流れとか考えてたのに、全部ぐちゃぐちゃだ……っ」
「それは、その、ごめん」
「……分かりました。貴方も僕も、取り繕っちゃいけない。もうダメな部分を見せ合ったんだから、無理しなくてよかったんだ」
恋人としては自信満々に頷けないかもしれないけど、人として好きなのは本当だから。他の奴よりも優しくしたいし、共に居たい気持ちは嘘じゃない。こういう分かり合える関係が貴重なことは、よく分かっている。

「……僕はずっと好きだって言い続けますよ。諦めない……貴方が素直に好きだと言ってくれるまで」
見る目がない哀れなこいつが愛おしくなって、更に引き寄せた。
そんな日は来るだろうか。俺が理想を捏ねて作り上げた、彼を超える日は。
「俺イケオジも好きだから何年でも待てるぞ。あのお爺様を見ると、お前の将来もなかなか期待できる」
「……僕奪われるより奪う方が好きですから、ずっと挑戦し続けます。貴方を超えるほど執着してみせます」
「えー? 俺のそれは筋金入りだぞ。一回出禁になったぐらいだし」
「……え、なにそれ」
「あ、やばい。墓場まで持っていく秘密だったのに」
なんですかと肩を揺さぶられたので、仕方なく封印を解いた。

「別に大したことないよ。近くのイケメンにアタックすると面倒しかないって分かったから、一回アイドルにハマってみたの。俺は普通に推してただけなのに、男だから目立ってたみたいでさ。あーでも握手会とかは結構騒いじゃったかな? まぁ割とガチめに通ってたんよ。でも本当は失恋して、それを忘れる為に自分をも騙して……って感じで全然本命とかじゃなかったんだけどさ。掲示板にもあの男が邪魔とかキモいとか書かれるし、スタッフからさりげなくアイドルが怖がっているのでやめてくださいって言われて……まぁ実質出禁みたいなもんよ」
「あーだからアイドルのノリに詳しい……」
「そこかよ、気になるとこ。はは、お前やっぱ変な奴。ま、本気じゃなかったけどノリで出待ちとかしてたのも、そこに関しては俺が悪いな。追い詰められていた時の俺だから、側から見たらよっぽど怖かったんだろうなー。あんな奴よりお前の方が全然綺麗だけど」
崩れてしまった髪を直して、頬に手を添える。大きな目が潤んだまま見つめ返してきた。
「……もう一回考え直しても良いんだぞ? なーんてな。俺でいいなら、この人生に付き合う気があるなら、よろしく」
「もう好きになっちゃったから、引き返せませんよ」
良い顔で笑う。無邪気で素直な笑み。うん、彼はこんな顔しないな。ジンでは見れない表情だ。この顔を俺が引き出しているんだよな……。
こいつがとびきり変だというのもあるけど、それが素直に嬉しい。
指を手繰り寄せて、絡めるように繋がれた。両手が塞がれてしまったので、顔を近づける。
側から見たら、この関係はどう思われるのだろう。それこそただの痴話喧嘩だと思うのか、雨降って地固まるカップルに見えるのか。

「……っ」
柔らかく、熱い感触が入り込んでくる。力が抜けて、じわりじわりと飲まれていきそうな官能が、腰の奥から引き摺り出されていく。
互いに潤んだ目で見つめ合った後、頭を寄せてしがみつくように噛みついてきた。
「……っ、はぁ。ああ、もう……っ、そんな顔するから……止められませんよ」
「……いいよ。ここ、カーペットもふかふかだし」
一瞬値段のことが過ぎったけど、こいつはそういうことを気にしなさそうだ。それよりもあの日から待ってたなんて言われちゃ、ここでお預けするのも可哀想だ。
「っなんで、こんなに……。まだ会ってから少しの時間しか経ってないのに……っ、好き」
前回よりも積極的に攻められている。こっちだけ全て脱がせて、一生懸命に胸を吸っている頭を撫でる。
こういうママ系か、もうちょい妖艶なセクシーお姉さん系かな、シチュもやってみたかったんだよな。いつもだったら甘やかされたいんだけど、こいつは可愛い後輩くん的ポジションなので、しばらくはこういうムーブになりそうだ。
「あっ……いい、ん、はぁ……っ、吸うの、気持ちいいっ」
ちょっとだけ演技を込めて甘い声を出すと、それに引きずられてか、本当に快感が強まってくる。
良い子ね、坊やと声に出してしまいそうなのを堪えて(突然言ったら理解されないだろうから)、優しく頭を撫で回した。
「ここ、舐めてみたいです」
「え、無理すんな。慣れてないとキツイだろ」
急に急所を掴まれたので、冷静になってしまった。俺の中のセクシーお姉さんが、どこかへ吹っ飛んでいく。

「……そういうことするなら、ちゃんと洗ってきた方がいいんじゃねーか?」
「先っぽ、少し濡れてる……綺麗」
「っふは、はは……ごめん。まさかそんなこと言われると思わなかった。何言ってんだよ。はー、やっぱり今度にして? 次は二人で風呂入って洗いっこしてもいいし、そうしたらお互いに舐め合ってみ……っひ、ぃ」
またもや突然急所の、更に先を舐められたので体が跳ねた。次回と言っているのに、掴んだまま離さない。やめろと言う前に、舌先で突くように触れた。
「ばかっ、つん、つんってするな」
「ねぇ……これ、されたことないでしょう。だって、一人じゃ再現、ん……っ、できないですもんね?」
その通りだ。いくらイケメンドールに謝罪しながら口の中へ突っ込んでみても、暖かくはない。舌型の玩具もあるけど、当然動くパターンが決まっているし、人間のような複雑な動きはできない。それに俺は奉仕したい側だったから、される方を考えたことがほとんどなかった。
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