俺の恋人はタルパ様

迷空哀路

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25〔パーティー〕

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シミュレーション通りに照明を暗くして、キャンドルライトを点ける。壁には玉が連なったようなデザインのライトが飾られている。一つ一つに小さいライトが入っていて、ガーランドライトって言うのかな? それぞれが仄かな明かりだけど、相手の顔が見えるぐらいの光量はあるはずだ。
この後にあっちの家に行くとなると、あまり時間はない。ゆっくりするのは向こうの方がいいかもしれないと思って、ケーキ以外は用意していない。まぁ随分前に浮かれて買ったチキンが、冷凍庫に入っているんだけど……。
「あいつの腹次第だなぁ」
グラスを軽く洗い直して、机の上にセットする。照明のおかげもあってか、なかなか映える感じになっているんじゃなかろうか。
「ふふふ、なめるなよ……俺のロマンティックを!」
基本的に何の特技もないけれど、演出力という憧れを求める能力だけはあるのかもしれない。

「よし、とりあえずこれで完成だ」
一度家を確かめる為に事前に来たから、迷うことはないと思う。その時は玄関だけで後は楽しみにとっておきます~なんて事を言っていたが、何を期待されているのか。
「……待つだけになっちゃった」
適当に検索して、オシャレジャズなクリスマスピアノを流してみる。気分は上がるけど、いらないかなぁBGMは。
今から行きますというメッセージを見てから、半分寝落ちしてた。キャンドルの揺らめきとピアノのせいだろう。
インターホンが鳴って、目を擦りながら開ける。

「ふぁーい」
「メリー……あれ、眠そうですね。遅くなっちゃいましたか」
「へーきへーき、夜はまだこれからよぉ」
欠伸をしながら廊下を進む。なんか興味深そうにキョロキョロしてたから、手を引いて誘導する。
「はは、何もない場所見てどうすんだよ」
「何もなくても貴方が過ごしている場所ですからね、そう思うと面白いです。あれ、まだスーツ着ているんですか? 着替えていても良かったのに」
「お前がスーツなら合わせたいだろ。それにジャージとかスウェットとか、雰囲気ぶち壊しだし」
「でも他の服も見てみたいなぁ。まだスーツ姿しか見てないから……あ、ボサボサ状態は見てましたね」

脱線しそうだったので、とっとと来いと部屋に入れると、思っていたよりも良い反応をくれた。
「わぁ、凄い素敵じゃないですか。落ち着きますね、このライト。とても綺麗です。確かにこれは眠くなるかも」
「ほら、荷物置けよ。疲れてんだろ。お腹は空いてるか?」
洒落た軽食を買ってきてくれたらしく、それを皿に乗せる。
生ハムとかチーズはまだ分かる。半分ぐらい分からなかったけど、それっぽく飾り付けた。こう少量を隙間多めで乗せると洒落な訳よ。この余裕さがね、優雅なのさ。俺ってば盛り付け術まで身についちゃった。
「それじゃあ、乾杯!」
美しい液体が控えめにシュワシュワと音を立てて、グラスへと流れていく。
それを口よりも先に、ライトに照らした。
「ああ……ナイスロマンティック……」
「えっ、ちょっと同じタイミングで飲んでくださいよ。変なこと言ってないで」
「は、好きに飲めよ。あ、ちなみに俺、自宅でのテーブルマナーは無法地帯なんでそこんとこよろしく」
だからオードブルより先にケーキを食べちゃう。ずっと待ちきれなかったから、箱に頬擦りをしてテーブルに置いた。
「ここで切り分けるんですか」
「違う。動画撮るんだ」
「……?」
「カメラ構えてるから、箱から出してくれないか」
「いいですけど、何の為に?」
「……記録」
箱の中から、夢にまで思い描いた美しいケーキが現れた。艶めく表面の上には、バラなどの繊細な飾りが乗っている。
「ああ、良い……完璧だ。このライトと相まって……」
上品な赤を纏い、情熱的に誘ってくるような、色気すら感じるビジュアル。美しい銀色が揺れて、こちらを優しい目で見つめる顔とのツーショット。動画だけでは飽き足らず、気がついたら連続でシャッターを押していた。
「ちょ、ちょっと……撮りすぎじゃないですか。それにその角度、もしかして僕も入ってます?」
カシャカシャカシャカシャカシャン……。
「はっ! やばい見惚れてた……あー、これ何十枚だよ。百いった? 後で厳選しないと」
「……見惚れてたんだ」
「いやー凄まじいな、高級ケーキというものは……その片鱗を味わったぜ……まだ食べてないけど」
ケーキアップも充分に撮ったので、待ちきれなくてナイフをぶっ刺した。
「あーケーキカット、一緒にやりたかったのに」
「……何の為に?」
「……初めての共同作業」
「お前よくそんな発想出てくるな」
「貴方に言われたくないです」
まぁいい。これに似合うと思って買った、先っぽに天使がついた金色のフォークを用意して、崩さないように盛り付ける。
「あぁ……お前は中もこんなに綺麗なんだなぁ」
黒いお皿とのコントラストが美しい。片手でスマホを構えながらも、我慢できずに撮りながら食べた。
「あ、チョコレートだ。ベリーも結構感じるな。スポンジは入ってない。ムースっぽいのかな、柔らかい部分と硬めのとこがある。生チョコぽいやつ、何て言うんだろ。は~良かった。ビジュアル重視で選んだけど、さすが有名ブランド。普通に美味しいわぁ」
「……貴方が一人に慣れているのは知っていたつもりでしたが、ここまで入り込めるのはなかなかだ」
「あ、お前そのちょっと横向いた角度でシャンパン飲むの似合いすぎ! 撮らしてっ」
「……お好きにどうぞ」
撮ったり飲んだり食べたりと、ほろ酔い状態の、何をやっているのか分からないまま、ただ楽しいだけが続いていた。
もはやクリスマスが何なのか忘れるほど自由だけど、きっと俺はこういうのがやりたかったんだ。

「ふー……甘党でも降参しそう」
小さいけど濃厚な味わいなので、半分で結構満足感がある。あっちは四分の一でいいと言っていたので、その残りが余った。
「今食べるか……冷凍。風味落ちるかなぁ。凍らしてアイスケーキにするの好きだけど、あれは安いからこそ遠慮なくできるやつー」
まったりモードで机に突っ伏す。シャンパンも甘くて飲みやすかったので、二人で結構飲んでしまった。普段アルコールを入れない体には、ちょっと効くかもしれない。
「冷凍にしてもらってもいいですかね。明日、貴方を家に帰す気ありませんし」
「なんでー?」
「……そんな純粋な目で言われると言いづらいですけど。まぁどうせ一人にしてしまう時間もありますし、その時は帰ってもいいですよ」
「……あー? なんだ?」
「はぁ、全然伝わってないんだから。もっとはっきり言うべきなのかな。でもこんなぽやぽやな時に言ってもなぁ」
「あは、ビジュが良いー。優勝ー」
さりげない仕草でも、この淡いキャンドルの前では美しく見えてくるものだ。壁に映る影さえ綺麗で、いつまでも見ていられる光景だった。
「今日は気分が良いので、また今度にしますかね」
「……もう一口だけいこうかなぁ。あ、飾りのチョコ食べちゃお」
「貴方は好きなものが分かりやすいので助かりますね。簡単に手懐けられそう」
「……はぁーうまー。このビターめなのがね、高級感を増すのよー」
ジンがいればもっとスマートに振る舞えていたような気もする。こんなにだらだらするつもりはなかった……はず。でもこれが許される関係も心地良い。
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