俺の恋人はタルパ様

迷空哀路

文字の大きさ
上 下
19 / 45

19〔寂しい〕

しおりを挟む
ざばっと上半身だけ出ると、そのまま縁に腰をかけた。ちょうど目線と同じぐらいの高さに見える。恥ずかしげもなく足を軽く広げて、余裕そうに笑っていた。
「……っ」
目を背けようと思うのに、どうしても見てしまう。横を見ても、閉じても、無意識に開いているのか目に入ってくる。
「……うぅ、くそっ」
確かにそんなに大きくはない。それでも濡れて艶めいている表面が照明に当たって、そこだけ妙に演出がかっているように見える。スポットライトで照らされている主役のように魅力的だ。
少しだけ反応してぴんと真っ直ぐ伸びた棒が、ここだよと示しているみたいに見えてくる。
「あ、あぁっ……」
抗えない。何本も玩具を買ったのに、やはり本物には勝てないのか。あれだって素晴らしい働きをして、今まで俺を癒してくれていたというのに。 

「そんなにじっくり見られると、さすがに恥ずかしいですね。貴方の方はそんな余裕がないのかもしれませんが……あの、ちょっと息荒くないですか。大丈夫ですか?」  
いつの間にか、顔が触れそうな距離まで近づいていた。いや、導かれたのだ。この聖なる棒に。俺はこの剣を求めし勇者なのだ。つまり必然ということだ。
「はぁ……っ、さわって、いい?」
「はい。あんまり乱暴にしないでくださいね? ……ちょっと怖くなってきた」
「……あぁっ!」
軽く触れただけなのに、皮膚に脈打つ感覚が伝わってくる。生だ。本物だ。生きている。なんということだ……ああ奇跡だ。これが人間という動物の肉なんだなぁ。
「んんぅ……っちゅ、ぱっ……んぅ……っは、はぁ……ぁ、んん」
「まさか躊躇ゼロで舐めてくるとは予想外でしたね」
舌を這わせて、先っぽを吸って、口の中へ押し進める。だんだん硬度を増していくのが伝わってきて、体が熱くなってくる。
「……はぁ、やっば。すご、かたく……なってきて、っはぁ、ぴくぴく動いてんの、えっろ……こういうさ、リアルなの作るべきじゃない? もっと研究して……っ、動くやつ作ってくれたら、金貯めて買っちゃうのにぃ……絶対需要あるぅ」
夢中で動いていたら、更に熱が上がってきた。なんだか頭がぼうっとする。
「……え? ん、なんら、これぇ……は」
「わ、顔真っ赤。このままじゃのぼせちゃいます。お酒も飲んでいるんだから、あまり熱いお湯に浸かってちゃダメですよ」

ずるずると強制的に引っ張られて、温度を下げたシャワーを頭からぶっかけられた。少しはマシになったけど、この急に強引になるのやめてほしい。
「えっと、体は洗い終わったんですよね」
「まぁ……出来る範囲は」
「じゃあそろそろ出ましょうか」
「くそー……さっきから全部中途半端じゃねーかー。俺の人生か? いや中途半端なことすらなかったわー」
また肩を借りて、裸足でぺたぺた歩く。タオルで雑に頭を拭かれると、何かを着せてきた。 

「え、これバスローブじゃん。この世に存在するんだー」
「この世じゃなかったら、他のどこにあるんですか」
「……」
庶民とは感覚が違うんだ。ロマンというものを分かっていない。
「頭乾かしましょうか?」
「いいよ。すぐ乾くし。あ、そっちはドライヤー使わなきゃなのか」
ところで、どうして伸ばしているんだろう。
綺麗なシルバーヘアに指をかける。すっと、なんの引っかかりもなく指は通り過ぎていく。
ジンは腰より長かったけど、こっちは肩下辺りだ。正直今となっては、なぜ見間違えたか疑問だ。どっちも浮世離れした容姿をしているから、目が追いつかなかったんだろう。
「上手いですね。結構気持ちいいですよ」
やってみたかったこと。あの長い髪にこうして優しく触れて……ジンの体のスキンケアを毎日、お世話させてほしかった。 

「……なんで伸ばしてるの」
「うーん、気分ですかね」
「……あっそ」
「はは、何かそれっぽい理由があった方が好みでしたか」
「別に。知ってんだよ、現実なんて、対して意味がないことばっかで構成されてるなんて」
だからこそ作り物のドラマが受けるのだ。それを俺が夢見てしまうのだ。
「僕ね、これでも結構反抗してるんですよ、世の中に。馬鹿馬鹿しいルールばっかりじゃないですか。本当は髪の色も長さも、スーツも、服なんてどうでもいいことのはずなのに。体を保護する目的さえあればいいでしょう。そういうのをガチガチに縛ってるくせに、見た目が外国人だから例外って。変なところであっさり折れたりするし。誰の、何の為のルールか知らないまま生まれて、分からないからそれに従ったまま生きていく。誰しもがそうするから、無くなることはない。もちろん今まで生きてきた人達の積み重ねによって、こうして便利に暮らしているけど、たまに思うんです。自分の顔も知らないまま、生きてみたかったなって」
ドライヤーの音が、半分ぐらい声量を掻き消している。それでも茶化すように話した中のどこかに、彼自身を見た気がした。
「……なんて、こういうことを考えている方が好みですか。ふふ、僕の周りはこんなことを言うと、幼稚な考えは卒業して大人になれ、黙って従っていろと返すんです。僕もそう思います。だって永遠に解決できない悩みを持っていたって、仕方ないですからね。怒りを抱えても、しまい込むのが大人なんです」
大体乾いただろうか。毛先を取って確認する。
ふぅと息を吐いて、後ろから腕を回した。慣れないことをしている、というか初めてか、こんなことは。
「そういうことを考える時はな……結局、寂しいんだ」
鏡に映っているところだけ見ると、まるで恋人同士のようだ。それが恥ずかしくて、相手の肩に埋めた。
「僕、寂しかったんですか? まぁ……そうじゃなきゃ、あんなヤバい人に声かけなかったかも」
「なんであんなとこにいたんだ。住宅街だろ」
「迷っていたんですよ。それでちょっと心細くなっていたら、僕の何倍も窮地に立たされていそうな顔色の人を見たから、不安なんてどっかに飛んでいってた」
長い髪が頬に当たってくすぐったい。シャンプーの匂いがする。どうしてこんなに甘い匂いなんだ。 
「簡単な慰めはムカつく。でも大人だから、全てを分かり合えないことを知っている。問題が大き過ぎて、手に負えないことを知っている。だから簡単な言葉で慰め合うんだ。諦めた大人らしく、近くのものだけは守れるように……」
「……っ」
相手の指先が、迷いがちに腕に触れた。その数十秒程は二人とも黙ったまま、互いの息の音を聞いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

当たって砕けていたら彼氏ができました

ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。 学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。 教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。 諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。 寺田絋 自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子 × 三倉莉緒 クールイケメン男子と思われているただの陰キャ そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。 お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。 お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

浮気性のクズ【完結】

REN
BL
クズで浮気性(本人は浮気と思ってない)の暁斗にブチ切れた律樹が浮気宣言するおはなしです。 暁斗(アキト/攻め) 大学2年 御曹司、子供の頃からワガママし放題のため倫理観とかそういうの全部母のお腹に置いてきた、女とSEXするのはただの性処理で愛してるのはリツキだけだから浮気と思ってないバカ。 律樹(リツキ/受け) 大学1年 一般人、暁斗に惚れて自分から告白して付き合いはじめたものの浮気性のクズだった、何度言ってもやめない彼についにブチ切れた。 綾斗(アヤト) 大学2年 暁斗の親友、一般人、律樹の浮気相手のフリをする、温厚で紳士。 3人は高校の時からの先輩後輩の間柄です。 綾斗と暁斗は幼なじみ、暁斗は無自覚ながらも本当は律樹のことが大好きという前提があります。 執筆済み、全7話、予約投稿済み

処理中です...