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19〔寂しい〕
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ざばっと上半身だけ出ると、そのまま縁に腰をかけた。ちょうど目線と同じぐらいの高さに見える。恥ずかしげもなく足を軽く広げて、余裕そうに笑っていた。
「……っ」
目を背けようと思うのに、どうしても見てしまう。横を見ても、閉じても、無意識に開いているのか目に入ってくる。
「……うぅ、くそっ」
確かにそんなに大きくはない。それでも濡れて艶めいている表面が照明に当たって、そこだけ妙に演出がかっているように見える。スポットライトで照らされている主役のように魅力的だ。
少しだけ反応してぴんと真っ直ぐ伸びた棒が、ここだよと示しているみたいに見えてくる。
「あ、あぁっ……」
抗えない。何本も玩具を買ったのに、やはり本物には勝てないのか。あれだって素晴らしい働きをして、今まで俺を癒してくれていたというのに。
「そんなにじっくり見られると、さすがに恥ずかしいですね。貴方の方はそんな余裕がないのかもしれませんが……あの、ちょっと息荒くないですか。大丈夫ですか?」
いつの間にか、顔が触れそうな距離まで近づいていた。いや、導かれたのだ。この聖なる棒に。俺はこの剣を求めし勇者なのだ。つまり必然ということだ。
「はぁ……っ、さわって、いい?」
「はい。あんまり乱暴にしないでくださいね? ……ちょっと怖くなってきた」
「……あぁっ!」
軽く触れただけなのに、皮膚に脈打つ感覚が伝わってくる。生だ。本物だ。生きている。なんということだ……ああ奇跡だ。これが人間という動物の肉なんだなぁ。
「んんぅ……っちゅ、ぱっ……んぅ……っは、はぁ……ぁ、んん」
「まさか躊躇ゼロで舐めてくるとは予想外でしたね」
舌を這わせて、先っぽを吸って、口の中へ押し進める。だんだん硬度を増していくのが伝わってきて、体が熱くなってくる。
「……はぁ、やっば。すご、かたく……なってきて、っはぁ、ぴくぴく動いてんの、えっろ……こういうさ、リアルなの作るべきじゃない? もっと研究して……っ、動くやつ作ってくれたら、金貯めて買っちゃうのにぃ……絶対需要あるぅ」
夢中で動いていたら、更に熱が上がってきた。なんだか頭がぼうっとする。
「……え? ん、なんら、これぇ……は」
「わ、顔真っ赤。このままじゃのぼせちゃいます。お酒も飲んでいるんだから、あまり熱いお湯に浸かってちゃダメですよ」
ずるずると強制的に引っ張られて、温度を下げたシャワーを頭からぶっかけられた。少しはマシになったけど、この急に強引になるのやめてほしい。
「えっと、体は洗い終わったんですよね」
「まぁ……出来る範囲は」
「じゃあそろそろ出ましょうか」
「くそー……さっきから全部中途半端じゃねーかー。俺の人生か? いや中途半端なことすらなかったわー」
また肩を借りて、裸足でぺたぺた歩く。タオルで雑に頭を拭かれると、何かを着せてきた。
「え、これバスローブじゃん。この世に存在するんだー」
「この世じゃなかったら、他のどこにあるんですか」
「……」
庶民とは感覚が違うんだ。ロマンというものを分かっていない。
「頭乾かしましょうか?」
「いいよ。すぐ乾くし。あ、そっちはドライヤー使わなきゃなのか」
ところで、どうして伸ばしているんだろう。
綺麗なシルバーヘアに指をかける。すっと、なんの引っかかりもなく指は通り過ぎていく。
ジンは腰より長かったけど、こっちは肩下辺りだ。正直今となっては、なぜ見間違えたか疑問だ。どっちも浮世離れした容姿をしているから、目が追いつかなかったんだろう。
「上手いですね。結構気持ちいいですよ」
やってみたかったこと。あの長い髪にこうして優しく触れて……ジンの体のスキンケアを毎日、お世話させてほしかった。
「……なんで伸ばしてるの」
「うーん、気分ですかね」
「……あっそ」
「はは、何かそれっぽい理由があった方が好みでしたか」
「別に。知ってんだよ、現実なんて、対して意味がないことばっかで構成されてるなんて」
だからこそ作り物のドラマが受けるのだ。それを俺が夢見てしまうのだ。
「僕ね、これでも結構反抗してるんですよ、世の中に。馬鹿馬鹿しいルールばっかりじゃないですか。本当は髪の色も長さも、スーツも、服なんてどうでもいいことのはずなのに。体を保護する目的さえあればいいでしょう。そういうのをガチガチに縛ってるくせに、見た目が外国人だから例外って。変なところであっさり折れたりするし。誰の、何の為のルールか知らないまま生まれて、分からないからそれに従ったまま生きていく。誰しもがそうするから、無くなることはない。もちろん今まで生きてきた人達の積み重ねによって、こうして便利に暮らしているけど、たまに思うんです。自分の顔も知らないまま、生きてみたかったなって」
ドライヤーの音が、半分ぐらい声量を掻き消している。それでも茶化すように話した中のどこかに、彼自身を見た気がした。
「……なんて、こういうことを考えている方が好みですか。ふふ、僕の周りはこんなことを言うと、幼稚な考えは卒業して大人になれ、黙って従っていろと返すんです。僕もそう思います。だって永遠に解決できない悩みを持っていたって、仕方ないですからね。怒りを抱えても、しまい込むのが大人なんです」
大体乾いただろうか。毛先を取って確認する。
ふぅと息を吐いて、後ろから腕を回した。慣れないことをしている、というか初めてか、こんなことは。
「そういうことを考える時はな……結局、寂しいんだ」
鏡に映っているところだけ見ると、まるで恋人同士のようだ。それが恥ずかしくて、相手の肩に埋めた。
「僕、寂しかったんですか? まぁ……そうじゃなきゃ、あんなヤバい人に声かけなかったかも」
「なんであんなとこにいたんだ。住宅街だろ」
「迷っていたんですよ。それでちょっと心細くなっていたら、僕の何倍も窮地に立たされていそうな顔色の人を見たから、不安なんてどっかに飛んでいってた」
長い髪が頬に当たってくすぐったい。シャンプーの匂いがする。どうしてこんなに甘い匂いなんだ。
「簡単な慰めはムカつく。でも大人だから、全てを分かり合えないことを知っている。問題が大き過ぎて、手に負えないことを知っている。だから簡単な言葉で慰め合うんだ。諦めた大人らしく、近くのものだけは守れるように……」
「……っ」
相手の指先が、迷いがちに腕に触れた。その数十秒程は二人とも黙ったまま、互いの息の音を聞いていた。
「……っ」
目を背けようと思うのに、どうしても見てしまう。横を見ても、閉じても、無意識に開いているのか目に入ってくる。
「……うぅ、くそっ」
確かにそんなに大きくはない。それでも濡れて艶めいている表面が照明に当たって、そこだけ妙に演出がかっているように見える。スポットライトで照らされている主役のように魅力的だ。
少しだけ反応してぴんと真っ直ぐ伸びた棒が、ここだよと示しているみたいに見えてくる。
「あ、あぁっ……」
抗えない。何本も玩具を買ったのに、やはり本物には勝てないのか。あれだって素晴らしい働きをして、今まで俺を癒してくれていたというのに。
「そんなにじっくり見られると、さすがに恥ずかしいですね。貴方の方はそんな余裕がないのかもしれませんが……あの、ちょっと息荒くないですか。大丈夫ですか?」
いつの間にか、顔が触れそうな距離まで近づいていた。いや、導かれたのだ。この聖なる棒に。俺はこの剣を求めし勇者なのだ。つまり必然ということだ。
「はぁ……っ、さわって、いい?」
「はい。あんまり乱暴にしないでくださいね? ……ちょっと怖くなってきた」
「……あぁっ!」
軽く触れただけなのに、皮膚に脈打つ感覚が伝わってくる。生だ。本物だ。生きている。なんということだ……ああ奇跡だ。これが人間という動物の肉なんだなぁ。
「んんぅ……っちゅ、ぱっ……んぅ……っは、はぁ……ぁ、んん」
「まさか躊躇ゼロで舐めてくるとは予想外でしたね」
舌を這わせて、先っぽを吸って、口の中へ押し進める。だんだん硬度を増していくのが伝わってきて、体が熱くなってくる。
「……はぁ、やっば。すご、かたく……なってきて、っはぁ、ぴくぴく動いてんの、えっろ……こういうさ、リアルなの作るべきじゃない? もっと研究して……っ、動くやつ作ってくれたら、金貯めて買っちゃうのにぃ……絶対需要あるぅ」
夢中で動いていたら、更に熱が上がってきた。なんだか頭がぼうっとする。
「……え? ん、なんら、これぇ……は」
「わ、顔真っ赤。このままじゃのぼせちゃいます。お酒も飲んでいるんだから、あまり熱いお湯に浸かってちゃダメですよ」
ずるずると強制的に引っ張られて、温度を下げたシャワーを頭からぶっかけられた。少しはマシになったけど、この急に強引になるのやめてほしい。
「えっと、体は洗い終わったんですよね」
「まぁ……出来る範囲は」
「じゃあそろそろ出ましょうか」
「くそー……さっきから全部中途半端じゃねーかー。俺の人生か? いや中途半端なことすらなかったわー」
また肩を借りて、裸足でぺたぺた歩く。タオルで雑に頭を拭かれると、何かを着せてきた。
「え、これバスローブじゃん。この世に存在するんだー」
「この世じゃなかったら、他のどこにあるんですか」
「……」
庶民とは感覚が違うんだ。ロマンというものを分かっていない。
「頭乾かしましょうか?」
「いいよ。すぐ乾くし。あ、そっちはドライヤー使わなきゃなのか」
ところで、どうして伸ばしているんだろう。
綺麗なシルバーヘアに指をかける。すっと、なんの引っかかりもなく指は通り過ぎていく。
ジンは腰より長かったけど、こっちは肩下辺りだ。正直今となっては、なぜ見間違えたか疑問だ。どっちも浮世離れした容姿をしているから、目が追いつかなかったんだろう。
「上手いですね。結構気持ちいいですよ」
やってみたかったこと。あの長い髪にこうして優しく触れて……ジンの体のスキンケアを毎日、お世話させてほしかった。
「……なんで伸ばしてるの」
「うーん、気分ですかね」
「……あっそ」
「はは、何かそれっぽい理由があった方が好みでしたか」
「別に。知ってんだよ、現実なんて、対して意味がないことばっかで構成されてるなんて」
だからこそ作り物のドラマが受けるのだ。それを俺が夢見てしまうのだ。
「僕ね、これでも結構反抗してるんですよ、世の中に。馬鹿馬鹿しいルールばっかりじゃないですか。本当は髪の色も長さも、スーツも、服なんてどうでもいいことのはずなのに。体を保護する目的さえあればいいでしょう。そういうのをガチガチに縛ってるくせに、見た目が外国人だから例外って。変なところであっさり折れたりするし。誰の、何の為のルールか知らないまま生まれて、分からないからそれに従ったまま生きていく。誰しもがそうするから、無くなることはない。もちろん今まで生きてきた人達の積み重ねによって、こうして便利に暮らしているけど、たまに思うんです。自分の顔も知らないまま、生きてみたかったなって」
ドライヤーの音が、半分ぐらい声量を掻き消している。それでも茶化すように話した中のどこかに、彼自身を見た気がした。
「……なんて、こういうことを考えている方が好みですか。ふふ、僕の周りはこんなことを言うと、幼稚な考えは卒業して大人になれ、黙って従っていろと返すんです。僕もそう思います。だって永遠に解決できない悩みを持っていたって、仕方ないですからね。怒りを抱えても、しまい込むのが大人なんです」
大体乾いただろうか。毛先を取って確認する。
ふぅと息を吐いて、後ろから腕を回した。慣れないことをしている、というか初めてか、こんなことは。
「そういうことを考える時はな……結局、寂しいんだ」
鏡に映っているところだけ見ると、まるで恋人同士のようだ。それが恥ずかしくて、相手の肩に埋めた。
「僕、寂しかったんですか? まぁ……そうじゃなきゃ、あんなヤバい人に声かけなかったかも」
「なんであんなとこにいたんだ。住宅街だろ」
「迷っていたんですよ。それでちょっと心細くなっていたら、僕の何倍も窮地に立たされていそうな顔色の人を見たから、不安なんてどっかに飛んでいってた」
長い髪が頬に当たってくすぐったい。シャンプーの匂いがする。どうしてこんなに甘い匂いなんだ。
「簡単な慰めはムカつく。でも大人だから、全てを分かり合えないことを知っている。問題が大き過ぎて、手に負えないことを知っている。だから簡単な言葉で慰め合うんだ。諦めた大人らしく、近くのものだけは守れるように……」
「……っ」
相手の指先が、迷いがちに腕に触れた。その数十秒程は二人とも黙ったまま、互いの息の音を聞いていた。
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