俺の恋人はタルパ様

迷空哀路

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16〔涙〕

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頭を撫でられるのは悔しいほど気持ちいい。あれほど焦がれたのだから、体は待ち望んでしまう。こんなの不可抗力だ。想像力のパラメータだけマックスにしておいて、現物を与えないなんて。
それにこんな状況になっても、助けてくれないジンが悪いんじゃないか。好きなら止めにきてくれよ。見てるだけなのか、見てすらいないのか。

「……口の中、入れないで。表面だけならいい」
「分かりました。じゃあそうしましょう」
もっと軽いものかと思ったら、唇の形がぐにゃと曲がるほど動かされた。それに驚いていると、舌が中へ入るぎりぎりまで触れる。
「……っ、こんなの、入れるのと変わんないっ」
「……ああ、なんでしょう。僕は案外、人の弱った顔が好きなのかも。初めて会った時も、今の貴方も、良い顔をしている」
「……っ、うぅ」
「あ、ほら意地悪なのが好きなんでしょう。だったらもっと困らせてみましょうかね」
首を軽く絞められて、無理矢理舌が奥まで入ってこようとする。苦しくなって口を開けると、その隙に掻き回された。もう匂いとかは気にしてる余裕がない。窒息しそうになるのを必死に耐えるだけだ。
「……っは、はぁっ、くそ」
「ふふ、悪くない顔ですね。じゃあこっちどうですか。確か、体を縛った状態で触れてほしいと書いてありましたね」
「……えー、そんなこと書いた?」
「ええ、読みましたから。まぁ今は縛る用の縄もないですし、普通に触ってみましょう」
指が胸元に近づいて、触れるか触れないかぐらいの力で周りをなぞった。先端に軽く指先が擦れて、びくっと体が揺れた。
ここは自分では届かないから、舌型の玩具を買って、舐められる感覚を楽しんでいた。振動するやつもよく使っていたので、それなりに刺激を感じるように育っている。
「……っはぁ、ああっ、う……っ、うぅん……っ」
「凄いですね。体びくびく跳ねて、押し付けてきてますよ。そんなに気持ちいいですか」
乳首だけ引っ張りだされて、舌と指でぐにぐにと擦られる。玩具では再現できなかった色々な動きを一気にされて、じんじんと痛むほど主張し始めた。
「本当に好きなんですね。ほら、ここ触ったら一気に大きくなった」
下着の上から無遠慮に触られて、一瞬息が止まる。自分でもこんなに感じやすい体になっていたとは知らなかった。
「……やめろ、やだっ……だめだっ、さわんない、で」
「触らなかったら、ずっと苦しいままですよ」
懇願しても全て無駄に終わる。一気に布を剥がされて、ついに何もつけてない状態になってしまった。相手の目の前で揺れているのが恥ずかしすぎて目を閉じたい。でも現実逃避していたら、何をされるか分からなくて怖い。

「み……あ、見ないで……っ、さわるのも、やだ」
「じゃあ自分でやりますか? あ、見るなっていうのは無理ですね。貴方の好きなところ、僕に教えてくださいよ」
「……っ」
今なら相手も来ないはずだと顔を隠して、片手で恐る恐る触る。自分で触っても刺激が強くて、息が漏れてしまう。
「あっ、音が……っ、なんで」
「そうですね。くちゅくちゅ鳴ってますよ。まだ少ししか触ってないのに」
「待って! ……あっ、触らないって、言ったのにっ」
「約束はしてませんよ」
ここはどうですかと、付け根から先っぽまで指が這いずり回った。反応を楽しむように、実験でもしているかのように指の腹で擦られる。
自分でも馬鹿らしくなるほど体が跳ねて、どうしてもその刺激を逃すことができなかった。乳首と一緒に擦られて、呆気なく出てしまう。
こっちの惨めさと、余裕そうな顔の対比に腹が立つ。

「男性が相手ということは、こっちも用意していたんですか。貴方の想定だと、彼から攻められたいようでしたから」
尻の間に手が回ってきて、初めて恐怖を感じた。今まではこちらが感じているだけだったけど、次は相手の快楽も関わってくる。
ぴたりと穴に触れた自分以外の指先に体が硬直して、無理やり高められた快感も消えていた。シーツの上を移動して、そこから離れる。
「どうしました? 慣れているはずでは。道具も持っているんでしょ」
「……っ」
言いたくない。こんな面倒臭いこと。でも……恥ずかしくて仕方ないけど、拒否反応には逆らえないのだから、どうしようもない。
「……怖い」
「えっ」
「……怖いんだよっ、初めてだから! 前も後ろもシリコン以外入れたことないんだから! くそ、分かってるよ……何をこんないい大人が……もうおっさんって呼ばれてもおかしくない男が、生娘みたいな泣き言言うなんて……っ、重いし面倒臭いし、気持ち悪いって分かってるよ……っでも、しょうがないだろ……こうなっちゃうんだから」
もう死にたい。これだから世間の人間と関係を持ちたくなかったんだ。だから妄想の恋人を作ろうとしたんじゃないか。こんな恥ずかしいチンケなプライドを、これ以上傷付けられたくないから、ずっと一人で生きていける方法を探していたんじゃないか。

「す、すみません……貴方の気持ちを考えていませんでした。そうですよね、怖いに決まってます。あの、軽く考えてしまって……」
「……そうやって気を遣われるのも、乱暴にされるのも嫌だ。精神的にも身体的にも傷付きたくない……っ、うぅ、う……だから知りたくなかったんだよ。世間の常識なんて知らずに、引きこもっていたかったんだよ! 女抱いたことない言ったら引かれるし、そいつの馬鹿な彼女が触ってきて、反応するかどうかの賭けとかされるし……っ」
息をするのが辛いぐらい勝手に涙が出てくる。泣くなよ、勝手に泣いてんじゃねえ。
「好きになっても、相手は絶対好きになってくれないし……言ったら迷惑だし、いつの間にか広がってて、知らない奴に近寄るなとか言われるし……っ、お前みたいな奴好きになるわけないだろ! ……俺はこんななのに、スペ高男しか目に入らないし、もちろん相手になんかされるわけないし。うぅ……でも本当は知りたくないだけなんだ。一度知ったら、無い状態に戻れないだろ……一人じゃ再現できないから。撫でられるとあったかいのも、気持ちいいのも知りたくないっ! 一人じゃできないから……っ」
自分でも引くほどぐちゃぐちゃになってる。合間合間に挟まる、息を無理矢理吸う音が腹立たしい。
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