15 / 45
15〔ホテル〕
しおりを挟む
ふらふらで歩く目に、やけに眩しい光の大群が襲ってくる。あちらこちらが光ってて、異世界へ迷い込んでしまったみたいだ。
「恋人がサンタクロース~。背の高いスパダリ~。シチュエーションCDの世界から来た~」
街でも頭の中でも、ぐるぐるとクリスマスソングが回っている。不快なほど愉快で困っちゃう。
「クリスマスが今年もやってくる~。楽しかった妄想に捨てられて乙~。あはは、わーい今年もネットで楽しくクリスマスパーティーだー! 推しの写真飾って、一人でシャンパン開けちゃうぞー! はいシャンパンシャンパン!」
「……まぁいいか。他の人もそんな感じだし。暮れだからね」
「よっしゃいくぞー! 言いたいことがあるんだよー! なになに? お前はやっぱりカッコいいよー! 好き好き大好きやっぱ好き! 世界で一番愛してるー! やっと見つけた王子様! 俺と一緒に人生歩もーう! あはははは! 世界で一番愛してるぅ、あ、い、し、て、るぅー! いぇーい!」
「……あ、ちょっとあそこにお巡りさんいる。声抑えて、目立ち過ぎてますよ! んー……仕方ない、こっちから行くか。このテンションは声かけられてもおかしくない」
「ふぅっ! ふぅっ! 俺の未来はウォウウォウウォウウォウ~地獄が手招くイェイイェイイェイイェイ~恋をしようじゃないか、妄想の中で――でもその幻影、消えるぜ? ふははははは! バカめ、残像だッッ」
店に出てからずっと叫んでいたから知らなかったけど、突然寒くなくなった。どこかの店に入ったらしい。状況が分からないけど、うるさくしたらいけない気がして口を閉じた。
元気だから多分一人で歩けるけど、あったかいのでくっついている。多分一人になったら、寒くてバランス崩して転ぶ。
「たいがーふぁいやーさいばー……ふぁいばー……ふぁあ」
エレベーターで囁くように歌う。よくこの人ずっと一緒に居てくれるな。楽しいのだろうか。
「じゃあ開けますよ」
「んー?」
なにやら扉がいっぱいある。フロントで鍵を貰っていたから、彼の家ではない。
「なにここー? ネカフェ? あ、金持ちはネカフェなんか行かないか。いや来る? 漫喫行く? ソフトクリーム食べる? 漫画読むの? 何読むの? 俺最近読んでないなー。読み直そうかなぁ。ねぇねぇ一緒に動画見ようよ。カラオケしよっか。俺コール打つー」
「もうしばらく頭から離れなくなりそうなほど聞きましたよ。ほら入ってください」
ぎゅうぎゅう押し込められて、見えたのは大きなベッドだった。二人は余裕の、夢の大きさだ!
「わーい! 金持ちベッドだー! 夢ー! 独り身の夢だー! ありったけの夢が詰まってるぅ」
「暖房入れたので、寝っ転がる前にコート脱いでください」
「うーーん……うん、脱ぐ。いま、たぶん」
体から、ずりっと布が剥がされる感覚がする。自分で脱ごうとしても、手には何の布も引っかからない。
「むずかしー……ふく、脱ぐの……ん?」
目線の先に顔がある。ベッドに寝ている状態で、上にあるってことは。
「んー?」
起きようとしても体勢的に塞がれている。何かがおかしいと思ったけど力が入らない。またずるっと布がずれていった。
「えーっと?」
随分身軽になった。いつの間にか下もすっきりしている。パンツだけ履いている状態になっていた。
「なに? シャワー浴びろって? 寝る前に風呂入んなきゃ怒るタイプ? でもそれ自宅でやられるから嫌なんであって、ここは……あれ、ここは?」
「……」
「……お家じゃないよね?」
「すみません。勝手に連れてきて」
「それはいいんだけど……これは? 汚いから洗えってこと? 一緒に寝たくないから? 俺床でもいいよ。んーちょっと寝たら後でお風呂入るから……一旦寝かせて」
「貴方がそれでいいなら、お好きに」
「えー? どゆことー……」
半分微睡みの中で目を閉じる。鞄の中でも探っているのか、僅かな音しか聞こえてこない。
やがて何の音もしなくなった後、こちらに近寄る気配がした。
髪の間に指が通る。その指は首筋を通り、肩に触れる。暖かい手がそこの骨を掴んだ。なぜかそれを確かめるように、丸みのある部分を撫でている。
指が一本鎖骨に触れた。骨が好きなのか、そこも右へ左へと移動する。
恐らくこれができる位置にいるということは、顔をばっちり見られているということだろう。それを気にすると、なんだか落ち着かなくなってきた。
いや骨フェチだったら顔なんて興味ないのだろうか。ちょっと目を開けてみようと瞼が震えた時に、唇に軽いものが触れた。
この軽さは多分相手の指先か唇か。なんだろうと考え出したところでまた来た。目を開けると、かなり近い距離にいた。
「……?」
「……大丈夫そうですね。男性は初めてなんですけど、貴方がさっきからべたべたしてくれたおかげか、あまり抵抗感はありません」
「なんの、はなし……」
「貴方を抱けるかどうか、挑戦してみてもいいですか」
軽い口調なのに、こちらに有無を言わせないような圧を感じる。そういえば誘われた時もこんなだったな。
「……んー?」
頭がぼうっとして、話についていけない。何か今、変なことを言われた気がする。
何も答えないのをいいことに、更に手が進んできた。腹をなぞり、胸をなぞって、隣に寝転んでくる。くっついた場所から、相手のシャツ越しの体温が剥き出しの肌に移る。
「……こっち向いて」
慣れた手つきで自然に横を向かせて、後頭部に手を添えて再び口元を近づけた。
何度か繰り返されて、息がしづらくなってきて、ようやく気がついた。
「……えっ? あ、もしかして」
「嫌ですか? でも貴方の対象って男性なんですよね。容姿的にはクリアしていると思うんですけど」
「ま、待って……っ! ちょっと……は? そういうこと? え、まさか誘ったのって」
「僕にとっても賭けだったんですけどね。なんというか、貴方にずっと抱きつかれて……無防備に寝ている姿を見せられたら、なんだか腹が立ってきまして。貴方の方から触れてくるなら、いいだろうと思いました」
「いや、いや……違う。触れたわけじゃない。支えてもらってただけで」
「なら肩だけでいいじゃないですか。腕の全てをこちらに巻き付けて、ぎゅうぎゅう体を押し付けてきましたよね」
「し、したかも……それはしたかも」
「ほら、大人しくしてください。眠いなら寝てていいですよ」
「寝れるわけないだろ! っていうか、その……す、するつもりなら鍋なんか食うなよ! よりにもよって匂う系のをっ」
「あはは、確かに。そこまで考えてませんでした。好物なので、定期的に食べないと落ち着かないんですよ」
「ちょっと待て! やだやだやだやだ……こんな状態なの……っ」
「気にしませんよ。それに一度したら、気にならなくなりますよ」
「やだってば!」
「じゃあやめましょうか? でも貴方はこうしてほしかったんでしょう。ほら本物の体温ですよ。この手で、貴方のどこでも撫でられる。貴方が届かない場所も。一人じゃできなかったこと……彼とできなかったことをしてあげられる」
「恋人がサンタクロース~。背の高いスパダリ~。シチュエーションCDの世界から来た~」
街でも頭の中でも、ぐるぐるとクリスマスソングが回っている。不快なほど愉快で困っちゃう。
「クリスマスが今年もやってくる~。楽しかった妄想に捨てられて乙~。あはは、わーい今年もネットで楽しくクリスマスパーティーだー! 推しの写真飾って、一人でシャンパン開けちゃうぞー! はいシャンパンシャンパン!」
「……まぁいいか。他の人もそんな感じだし。暮れだからね」
「よっしゃいくぞー! 言いたいことがあるんだよー! なになに? お前はやっぱりカッコいいよー! 好き好き大好きやっぱ好き! 世界で一番愛してるー! やっと見つけた王子様! 俺と一緒に人生歩もーう! あはははは! 世界で一番愛してるぅ、あ、い、し、て、るぅー! いぇーい!」
「……あ、ちょっとあそこにお巡りさんいる。声抑えて、目立ち過ぎてますよ! んー……仕方ない、こっちから行くか。このテンションは声かけられてもおかしくない」
「ふぅっ! ふぅっ! 俺の未来はウォウウォウウォウウォウ~地獄が手招くイェイイェイイェイイェイ~恋をしようじゃないか、妄想の中で――でもその幻影、消えるぜ? ふははははは! バカめ、残像だッッ」
店に出てからずっと叫んでいたから知らなかったけど、突然寒くなくなった。どこかの店に入ったらしい。状況が分からないけど、うるさくしたらいけない気がして口を閉じた。
元気だから多分一人で歩けるけど、あったかいのでくっついている。多分一人になったら、寒くてバランス崩して転ぶ。
「たいがーふぁいやーさいばー……ふぁいばー……ふぁあ」
エレベーターで囁くように歌う。よくこの人ずっと一緒に居てくれるな。楽しいのだろうか。
「じゃあ開けますよ」
「んー?」
なにやら扉がいっぱいある。フロントで鍵を貰っていたから、彼の家ではない。
「なにここー? ネカフェ? あ、金持ちはネカフェなんか行かないか。いや来る? 漫喫行く? ソフトクリーム食べる? 漫画読むの? 何読むの? 俺最近読んでないなー。読み直そうかなぁ。ねぇねぇ一緒に動画見ようよ。カラオケしよっか。俺コール打つー」
「もうしばらく頭から離れなくなりそうなほど聞きましたよ。ほら入ってください」
ぎゅうぎゅう押し込められて、見えたのは大きなベッドだった。二人は余裕の、夢の大きさだ!
「わーい! 金持ちベッドだー! 夢ー! 独り身の夢だー! ありったけの夢が詰まってるぅ」
「暖房入れたので、寝っ転がる前にコート脱いでください」
「うーーん……うん、脱ぐ。いま、たぶん」
体から、ずりっと布が剥がされる感覚がする。自分で脱ごうとしても、手には何の布も引っかからない。
「むずかしー……ふく、脱ぐの……ん?」
目線の先に顔がある。ベッドに寝ている状態で、上にあるってことは。
「んー?」
起きようとしても体勢的に塞がれている。何かがおかしいと思ったけど力が入らない。またずるっと布がずれていった。
「えーっと?」
随分身軽になった。いつの間にか下もすっきりしている。パンツだけ履いている状態になっていた。
「なに? シャワー浴びろって? 寝る前に風呂入んなきゃ怒るタイプ? でもそれ自宅でやられるから嫌なんであって、ここは……あれ、ここは?」
「……」
「……お家じゃないよね?」
「すみません。勝手に連れてきて」
「それはいいんだけど……これは? 汚いから洗えってこと? 一緒に寝たくないから? 俺床でもいいよ。んーちょっと寝たら後でお風呂入るから……一旦寝かせて」
「貴方がそれでいいなら、お好きに」
「えー? どゆことー……」
半分微睡みの中で目を閉じる。鞄の中でも探っているのか、僅かな音しか聞こえてこない。
やがて何の音もしなくなった後、こちらに近寄る気配がした。
髪の間に指が通る。その指は首筋を通り、肩に触れる。暖かい手がそこの骨を掴んだ。なぜかそれを確かめるように、丸みのある部分を撫でている。
指が一本鎖骨に触れた。骨が好きなのか、そこも右へ左へと移動する。
恐らくこれができる位置にいるということは、顔をばっちり見られているということだろう。それを気にすると、なんだか落ち着かなくなってきた。
いや骨フェチだったら顔なんて興味ないのだろうか。ちょっと目を開けてみようと瞼が震えた時に、唇に軽いものが触れた。
この軽さは多分相手の指先か唇か。なんだろうと考え出したところでまた来た。目を開けると、かなり近い距離にいた。
「……?」
「……大丈夫そうですね。男性は初めてなんですけど、貴方がさっきからべたべたしてくれたおかげか、あまり抵抗感はありません」
「なんの、はなし……」
「貴方を抱けるかどうか、挑戦してみてもいいですか」
軽い口調なのに、こちらに有無を言わせないような圧を感じる。そういえば誘われた時もこんなだったな。
「……んー?」
頭がぼうっとして、話についていけない。何か今、変なことを言われた気がする。
何も答えないのをいいことに、更に手が進んできた。腹をなぞり、胸をなぞって、隣に寝転んでくる。くっついた場所から、相手のシャツ越しの体温が剥き出しの肌に移る。
「……こっち向いて」
慣れた手つきで自然に横を向かせて、後頭部に手を添えて再び口元を近づけた。
何度か繰り返されて、息がしづらくなってきて、ようやく気がついた。
「……えっ? あ、もしかして」
「嫌ですか? でも貴方の対象って男性なんですよね。容姿的にはクリアしていると思うんですけど」
「ま、待って……っ! ちょっと……は? そういうこと? え、まさか誘ったのって」
「僕にとっても賭けだったんですけどね。なんというか、貴方にずっと抱きつかれて……無防備に寝ている姿を見せられたら、なんだか腹が立ってきまして。貴方の方から触れてくるなら、いいだろうと思いました」
「いや、いや……違う。触れたわけじゃない。支えてもらってただけで」
「なら肩だけでいいじゃないですか。腕の全てをこちらに巻き付けて、ぎゅうぎゅう体を押し付けてきましたよね」
「し、したかも……それはしたかも」
「ほら、大人しくしてください。眠いなら寝てていいですよ」
「寝れるわけないだろ! っていうか、その……す、するつもりなら鍋なんか食うなよ! よりにもよって匂う系のをっ」
「あはは、確かに。そこまで考えてませんでした。好物なので、定期的に食べないと落ち着かないんですよ」
「ちょっと待て! やだやだやだやだ……こんな状態なの……っ」
「気にしませんよ。それに一度したら、気にならなくなりますよ」
「やだってば!」
「じゃあやめましょうか? でも貴方はこうしてほしかったんでしょう。ほら本物の体温ですよ。この手で、貴方のどこでも撫でられる。貴方が届かない場所も。一人じゃできなかったこと……彼とできなかったことをしてあげられる」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説


【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。


芽吹く二人の出会いの話
むらくも
BL
「俺に協力しろ」
入学したばかりの春真にそう言ってきたのは、入学式で見かけた生徒会長・通称β様。
とあるトラブルをきっかけに関わりを持った2人に特別な感情が芽吹くまでのお話。
学園オメガバース(独自設定あり)の【αになれないβ×βに近いΩ】のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる