俺の恋人はタルパ様

迷空哀路

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14〔理想〕

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「……ふふ、あははは。いいですよ。あげますそれ。いらなくなったら、俺の墓に投げ捨てといて」
「そういえば貴方、彼を探している時かなり必死でしたね。あまりにも辛そうだったので、思わず声をかけてしまった……というのは建前で、これだけ相手に想われるというのはどういう心地なんだろうと気になったんです」
「……ん?」
「可哀想と思ったのは嘘じゃないですよ、一応。それよりもどうしてあんな極限な状態になったのかと興味を持った。貴方がヒロイン体質で、その状況に酔っているだけかとも思ったんですけど、それを自分と見間違えるのが気になった」
「……えー。今長い話は頭に入らないんですけど」
「ここに来て更に面白い話を聞けた。貴方は理想の恋人を脳内で作り、上手くいっていたのに突然消えてしまった。脳内にしかいないのに探し回り、隈ができて髪も振り乱すほど必死になった。しかもその相手は僕に似ているという。こんなに愉快なことがありますか」
そうだ。俺の悲劇なんて関わらない人間からすれば、面白いに決まってる。悲惨な男のダメダメ喜劇(コメディー)だ。

「僕ね、自分で言うのもって一応言っておきますけど、人気あるんですよ。容姿が目立つからか、色んな人が声をかけてくる。僕がジュエリーブランドをやっていると知ると、特に女性は沸き立つように興奮する」
「……なんですかいきなり。そんなの、そりゃそうだろとしか言えない」
「あはは。これ自慢話じゃないんですけどね。だって初めは良い子にしていた子も、そのうち絶対欲を出すんですよ。店にある宝石は全て自分の物だと思っている。だから与えてもらえるのが当然だし、くれない状態の方がおかしいと考えている。自分を飾り立てて、僕を飾り付けて、高価な待遇を味わう。それが当たり前になっていく……」
「……まぁ、女の子だったら気持ちは分からなくもない」
「その点貴方は安心ですね、ジュエリーは欲しがらないでしょう」
「確かに宝石はいらないけど、買えるものが増えたら我儘を言うんじゃないですかね」
人形乗せても余裕のベッドとか欲しいし。
「そうですか? そう事前に言えるだけマシな人だと思いますけどね。……ところで、これの話に戻るんですけど」
ぱんぱんと軽くノートを叩いた。

「ねぇ、これを見る限り、相手は男性を想定しているんですよね? もうそこの確認は今更ですか。それで、実際どこまで可能なんですか。恋人だったんでしょう?」
「……えー? それって……そういう話?」
「そういう話です」
ずっとにこやかな上品笑顔。だからこそなんか胡散臭い。何が本心なのか全然分からない。
「うーん。全部感覚だからなぁ。説明がしづらいというか。結局最後まで……ジンをはっきりと感じられたことはなかったかな。姿は九割半透明で浮かんでいる感じで、調子のいい日ははっきり見えた。でも触っているとかの感触はなかったかな。じんわり温かいと思ったこともあるけど、あっちが主導権を握るような動きはしたことがない」
「……なるほど。やはりそこまで万能じゃないんですね。期間が短いというのもあるんでしょうけど」
「……触れなくても、ジンの声が聞こえるだけで」
隣に居ると分かるだけで、満たされていたのに。
「じゃあ結局、欲求不満なんじゃないですか」
「はっ?」
「だって、触ってもらえていないんでしょう」
「……ふ、普通の人に当て嵌めないでくださいよ。そういうんじゃないですから」
自分達はもっと神聖な魂の結びつきなのだ。下世話な話に繋げないでほしい。
むっとした顔をしても、楽しげにしているだけだ。

「もし貴方が似ている僕と付き合ったら、どうなるか気になるなぁ。僕がいなくなったら、貴方はまた頬がこけて、髪の伸びも気にしない格好で走り回ってくれるのかなぁ。必死に泣きながら叫んで、声を枯らしてくれるのかな」
「そ、そんなにひどい状況でした? というか、言ったでしょ。ジンとは全然違うんだから、貴方を代わりになんてしませんよ。俺はまだ諦めてませんから」
「あれ、そうなんですか。なんだーもう吹っ切れたかと思ったのに。……気になるなぁ、どれぐらいのことをすれば、そこまで好きになれるのか。そこまでするほどの愛って何か……」
眠くて欠伸をした目に涙が溜まる。もう眠ってしまいたい。道端に転がされて、ゴミ袋の上で眠りたい。朝日に照らされて眩しいなって、俺終わってんなって笑って……手持ちの金全部使って電車に乗って、綺麗なところで終わりたい。
「ああ……それいいなぁ」
太陽が出ているうちにいなくなる方が、暖かくて気持ちよさそうだ。

「いいなぁ……僕、愛されてみたいんですよね」
頭の上に暖かい感触が乗った。ずっと欲しかった、本物の人の手だった。



13
揺り動かされて、ちょっと覚醒した。さっきまであったかい夢の中にいたのに、現実に戻される。
「起きてください。ここで寝たらダメですよ。少しだけ頑張って。そうしたらまた寝ていいですから」
「……あー、だいじょ、うぶ……です、よ。ね、起きますよ。こども、じゃ、ないんですから」
相手の腕が回って、グッと体を持ち上げられる。俺より背が低いし細身のくせに、支えられるだけの力はあるのかとなんとなく思った。
支払いがどうと口から出したつもりだけど、呂律が回ってなかった。それでも理解したのか、財布を出す手を止めてくる。
「もう終わってますから、早く出ましょう。次は本当に熟睡しちゃいそうだ」
あつあつの暖かい鍋を食べて、暖房だってがんがん効いている店内だ。こうなるのも仕方ない。

口笛を吹きながら外へ出た瞬間、冬の風が体を通り抜けた。
「……っさっむ! 寒い寒い寒い寒い……! 無理無理むり……」
「ほら、ちゃんとコート着てください。ん? このスーツ薄過ぎませんか。夏用のと間違えてます?」
「……間違えてません」
「じゃあ僕のマフラーも巻きますね。というかなんで防寒具持ってないんですか。オシャレじゃないですよ、身を守る為に必要なんです」
「守りたい身なんてないでーす」
「はいはい。ほら、歩いて歩いて」
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