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9〔憧れのカフェ〕
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爽やかなミントグリーンの壁を背景に、ふかふかの椅子に腰掛けて、優雅にティーカップを傾ける。その様は一体いつの時代の貴族だ。
「はぁ……どこから見ても完璧」
目の前に並ぶ、繊細な装飾が施されたスイーツ。その目の前には、微笑を浮かべる美しい人。眼福だ。
今日はジンと憧れのカフェに来た。ネットで見つけてから、ジンに絶対似合うと思った素敵な店だ。
数日前、画像をジンに沢山見せた。店の内装やメニュー、評価サイトも撮っておいたやつだ。
「ほとんどが女性客のようだな」
「うん、そうなんだよねぇ……ハートのティーカップとか、バラのマカロンとか、女の人が喜びそうなものばっかり。カップルですらあんまり来ないらしいよ。みんな友達と行くんだって」
「……スーツ」
「え?」
あのスーツを着ていけと、ジンがクローゼットを指差した。
「こんなキッチリした格好で行くの? まぁ俺の普段着じゃ門前払いされそうだもんね。あ、ジンはあれ着てよ。ワインレッドのスーツ! あんなの着こなせる人ジンくらいしかいない!」
持っていない服でも、どんな格好も着せ放題なのが良いところだ。そのせいで、普段からお高いブランドの服ばかり見るようになってしまった。どれもこれも似合うので困る。
ジンは満更でもなさそうに笑っていた。
「あー最高っ。美しいものしかない」
ピスタチオのケーキを食べながら、赤いバラを乗せたマカロンを見つめる……ジンを眺める。
周りの人からしたら、どうして皿を離れた所に置くのだろうと思われているかもしれないが、せっかく勇気を出して来たので好きにさせてもらう。
何枚も写真を撮ったけど、もちろんそこにジンは映らない。それがもどかしく思うけど、この光景が頭から離れることはないと思う。
「んふふ、幸せ~」
「顔がだらしないぞ」
そう言いつつ、ジンも楽しそうだ。いつも殺風景な俺の部屋だから、こういう場所に来ると改めてジンの素晴らしさを噛み締められる。
「あ、こっちも美味しい。バラの風味も感じるけど、味は苺かな。クリームも甘すぎなくて、上品で」
「……」
ジンが急に黙ったので顔を上げると、右の方を見ながら笑いを堪えていた。
「どうしたの?」
「声に出てたみたいだぞ」
「えっ」
気がつくと、数人の視線を感じた。クスクスと小さい笑いが周りから聞こえる。
「やばい、追い出されちゃうかも」
「いや、それは……恐らく平気だろう」
「とにかく黙って食べないと」
気をつけようと思ったのに、柔らかいクリームを口に含んだ途端に吹っ飛んだ。
あまりの美味しさに悶え苦しみながらも、ふわふわで甘々な時間が過ぎていく。ジンはモデルのように片足を組みながら、窓の外を眺めていた。
「俺、生まれ変わったらジンの執事になりたいなぁ。一番近くにいられるでしょ? 食事の準備も、着替えも、何でも手伝えるなんて最高だよ」
「そこで嫁と答えないところがお前らしいな」
「……確かに! 盲点だった」
「ふっ……」
ジンが小さく息を吐いて、カップを持ち上げた。
その長い指には少々持て余すような、小さめのカップの金色が反射する。ジンがいると、もうこの世の全てが、彼の為にあつらえたのかと思うような光景に変化する。
現世では、この幸せを噛み締めているだけで終わりそうだ。生まれ変わったら、少しは楽しむ余裕も出てくるだろうか。いや、何回でも……何回繰り返しても慣れたくなんてない。ずっと感動して、感謝するんだ。ジンが見える美しい世界に。
「……そろそろ、行こっか」
また一組が入れ替わった。俺達は予約していたけど、店の前では今も行列ができている。
「いいのか?」
「うん。食べ終わっちゃったしね。景色も充分目に焼きつけた。それに……」
「なんだ?」
「また来ればいいよ」
今日のジンはびっくりするぐらい柔らかく微笑む。それがなんだかくすぐったくて、目が潤んだ。
「……あの、よろしければ」
会計の途中で顔を上げると、可愛らしいラッピングがされた袋を渡された。
「新商品の試食です。よければどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
先程のより一回り小さいけど、それでもこの店ならそこそこの値段がするはずだ。それを配るなんて、結構太っ腹だ。
「ぜひ、またお越しくださいね」
店員を含む周りの人間が、こちらを見ている気がする。なんだ? ジンは見えていないはずなのに。そりゃこんなイケメンがいれば見るだろうけど。
「……お前、相当甘いもの好きに見えたな」
「えっ、そういうこと?」
「あんなに幸せそうに食べる人間も、そういないだろう」
店に出てからジンが言った。今更ながら顔が熱くなってくる。そんなに、周りにバレるほど浮かれていただろうか。
「は、恥ずかしい……」
「美味しかったのは嘘ではないのだろうが、本当の理由は言えないな」
意地悪そうにくくっと笑った。実際の理由を口にしたら、彼女達の顔は真逆に歪むだろう。
「も、もういいよ。せっかく来たんだし、他の所も行こう。あ、インテリアのとこも見ておかないと」
「もしかして……」
「ん? なに」
「いや、なんでもない」
今視線の先にチラッとツリーみたいなものが見えた気がしたけど、気のせいだよね。まだ早いし……いや、気づかれたかもしれない。
でもジンが誤魔化したってことは、このままサプライズに気づかないフリをしてくれるのだろう。
まぁ季節が近づけば嫌でも意識するだろうし、大事なのはその中身だ。
待っててね、ジン。絶対特別な日にするから。
爽やかなミントグリーンの壁を背景に、ふかふかの椅子に腰掛けて、優雅にティーカップを傾ける。その様は一体いつの時代の貴族だ。
「はぁ……どこから見ても完璧」
目の前に並ぶ、繊細な装飾が施されたスイーツ。その目の前には、微笑を浮かべる美しい人。眼福だ。
今日はジンと憧れのカフェに来た。ネットで見つけてから、ジンに絶対似合うと思った素敵な店だ。
数日前、画像をジンに沢山見せた。店の内装やメニュー、評価サイトも撮っておいたやつだ。
「ほとんどが女性客のようだな」
「うん、そうなんだよねぇ……ハートのティーカップとか、バラのマカロンとか、女の人が喜びそうなものばっかり。カップルですらあんまり来ないらしいよ。みんな友達と行くんだって」
「……スーツ」
「え?」
あのスーツを着ていけと、ジンがクローゼットを指差した。
「こんなキッチリした格好で行くの? まぁ俺の普段着じゃ門前払いされそうだもんね。あ、ジンはあれ着てよ。ワインレッドのスーツ! あんなの着こなせる人ジンくらいしかいない!」
持っていない服でも、どんな格好も着せ放題なのが良いところだ。そのせいで、普段からお高いブランドの服ばかり見るようになってしまった。どれもこれも似合うので困る。
ジンは満更でもなさそうに笑っていた。
「あー最高っ。美しいものしかない」
ピスタチオのケーキを食べながら、赤いバラを乗せたマカロンを見つめる……ジンを眺める。
周りの人からしたら、どうして皿を離れた所に置くのだろうと思われているかもしれないが、せっかく勇気を出して来たので好きにさせてもらう。
何枚も写真を撮ったけど、もちろんそこにジンは映らない。それがもどかしく思うけど、この光景が頭から離れることはないと思う。
「んふふ、幸せ~」
「顔がだらしないぞ」
そう言いつつ、ジンも楽しそうだ。いつも殺風景な俺の部屋だから、こういう場所に来ると改めてジンの素晴らしさを噛み締められる。
「あ、こっちも美味しい。バラの風味も感じるけど、味は苺かな。クリームも甘すぎなくて、上品で」
「……」
ジンが急に黙ったので顔を上げると、右の方を見ながら笑いを堪えていた。
「どうしたの?」
「声に出てたみたいだぞ」
「えっ」
気がつくと、数人の視線を感じた。クスクスと小さい笑いが周りから聞こえる。
「やばい、追い出されちゃうかも」
「いや、それは……恐らく平気だろう」
「とにかく黙って食べないと」
気をつけようと思ったのに、柔らかいクリームを口に含んだ途端に吹っ飛んだ。
あまりの美味しさに悶え苦しみながらも、ふわふわで甘々な時間が過ぎていく。ジンはモデルのように片足を組みながら、窓の外を眺めていた。
「俺、生まれ変わったらジンの執事になりたいなぁ。一番近くにいられるでしょ? 食事の準備も、着替えも、何でも手伝えるなんて最高だよ」
「そこで嫁と答えないところがお前らしいな」
「……確かに! 盲点だった」
「ふっ……」
ジンが小さく息を吐いて、カップを持ち上げた。
その長い指には少々持て余すような、小さめのカップの金色が反射する。ジンがいると、もうこの世の全てが、彼の為にあつらえたのかと思うような光景に変化する。
現世では、この幸せを噛み締めているだけで終わりそうだ。生まれ変わったら、少しは楽しむ余裕も出てくるだろうか。いや、何回でも……何回繰り返しても慣れたくなんてない。ずっと感動して、感謝するんだ。ジンが見える美しい世界に。
「……そろそろ、行こっか」
また一組が入れ替わった。俺達は予約していたけど、店の前では今も行列ができている。
「いいのか?」
「うん。食べ終わっちゃったしね。景色も充分目に焼きつけた。それに……」
「なんだ?」
「また来ればいいよ」
今日のジンはびっくりするぐらい柔らかく微笑む。それがなんだかくすぐったくて、目が潤んだ。
「……あの、よろしければ」
会計の途中で顔を上げると、可愛らしいラッピングがされた袋を渡された。
「新商品の試食です。よければどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
先程のより一回り小さいけど、それでもこの店ならそこそこの値段がするはずだ。それを配るなんて、結構太っ腹だ。
「ぜひ、またお越しくださいね」
店員を含む周りの人間が、こちらを見ている気がする。なんだ? ジンは見えていないはずなのに。そりゃこんなイケメンがいれば見るだろうけど。
「……お前、相当甘いもの好きに見えたな」
「えっ、そういうこと?」
「あんなに幸せそうに食べる人間も、そういないだろう」
店に出てからジンが言った。今更ながら顔が熱くなってくる。そんなに、周りにバレるほど浮かれていただろうか。
「は、恥ずかしい……」
「美味しかったのは嘘ではないのだろうが、本当の理由は言えないな」
意地悪そうにくくっと笑った。実際の理由を口にしたら、彼女達の顔は真逆に歪むだろう。
「も、もういいよ。せっかく来たんだし、他の所も行こう。あ、インテリアのとこも見ておかないと」
「もしかして……」
「ん? なに」
「いや、なんでもない」
今視線の先にチラッとツリーみたいなものが見えた気がしたけど、気のせいだよね。まだ早いし……いや、気づかれたかもしれない。
でもジンが誤魔化したってことは、このままサプライズに気づかないフリをしてくれるのだろう。
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