俺の恋人はタルパ様

迷空哀路

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8〔触れない〕

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あれから数ヶ月……二ヶ月ほど経ちました。
相変わらずジンは俺の側に浮いていて、思考は同化している。この文章がどうかしているとは思うのだが、事実なのだからしょうがない。
ジンの考えが分かるというのは少し違う。一応やりとりは行っているけど、その時間はほぼゼロに近い。ジンが喋り出すと同時に理解している感じ? 説明するのが難しい。
恐らく俺がそう言ってほしいという願望を無意識で作り上げている。それが綺麗に整えられたものが、ジンから出てくる。
上手く説明することはできないけど、とにかくジンと俺は最高のパートナーになった。彼のおかげで全てうまくいっている。

仕事中はにやけないように気をつけながら、隣で浮遊している半透明のジンと共にこなしていく。俺が打ち間違えたところをジンが指摘することがあったりと、本当に役に立つイケメンだ。
お昼ごはんも寂しくなくなったし、オシャレなカフェにも入っちゃったりして、生活範囲が広がった。
たまにうっかり声に出してしまいそうになったり(出したこともあるかもしれない)、視線が合わなくて怖いとか、交霊ができるようになったんじゃないかと噂されることもあったけど、それももう気にならない。
俺の毎日はジンの為にある。ジンがいればそれだけでいい。

今日も当たり前のように存在している俺の神様を眺めて一息つく。ずっと一緒にいるけど、やっぱり家が一番だ。
基本的には隣に居るけど、たまにふらっと離れることもある。
街の中でジンが好きそうなブランドの前を通ると、足を止めてショーウィンドウを見ていたりする。その時は、呼ばないとなかなか帰ってこない。
家では結構自由に動く。ふわふわと浮きながら好き勝手過ごしているけど、一応俺の目が届く範囲には居てくれる。

「ねぇ、ジン」
「なんだ」
声に出すと、頭の中よりもはっきり返事が聞こえる。
「このホットワインって、俺飲めると思う?」
「やめておけ。弱いだろ」
「じゃあこっちのは? リンゴのカクテルだって、甘そうじゃん」
「……なぜわざわざ酒を飲みたがる」
「そ、それは……」
まだ秋になったばかりで気が早いとは思う。でも今年の冬はもう決めているのだ! 
めちゃくちゃロマンティ~ックな夜にすると! その為には今から作戦を練って、飾り付けも食べ物も色々こだわりたいのだ!
「普段飲まないから、試してみたいだけだよー」
ジンにはまだ内緒。サプラァ~イズなのだ。
顔を逸らすと、興味なさそうに英字新聞(適当に買ったから、いつのやつか分からない)を読み始めてしまった。俺は画像検索を再開させる。

そうだな、キャンドルは絶対必要だ。本物じゃなくても、ライトでもいいな。
一番大事なのはプレゼントか。ジンにプレゼント……何を送ろう、というか……何を送れる?
アクセサリーは着けられる? それも俺の想像力次第? 食べ物はダメだ。俺が食うだけになるから。
二人で楽しめるもの……映画。そうだ、プロジェクターはどうだ? いや待て、結構高いんじゃないか? 
ちょっとした飾り程度なら大丈夫だけど、イケメンドールのおかげでそういうものを買う余裕がない。でも映像系はアリかもな、二人で見れるから。うーん……。
「俺はジンと過ごせるだけで幸せか」
「どうした急に」
「え、声に出てた?」
「ボケてるのか」
「……まぁでも、いつも思ってることだよ。俺、今めちゃくちゃ幸せだもん。今までの苦労なんかどこかに吹っ飛んじゃったみたいに満たされてる。これが皆が言ってた幸せなんだなぁって、噛み締めてるところ」
「今日はやけに素直じゃないか」
「ふふん、ちょっとは慣れてきたからね、その圧倒的顔面力にも。前は緊張してたけど、今は素直に伝えたい方が勝ってる」
「……」
ずいっと凄い速さで顔の前まで来た。ふわっと髪が頰に触れる。
「あ、待って待って待って! 近い近い近い近い! 急にその距離は無理だからっ」
「さっきから何をしているんだ」
「えっ! べ、別に何でもないよー。部屋をちょっと変えてみよっかなー、なんて考えたりしただけ」
「……ダマスク柄」
「へっ?」
「壁をダマスク柄にするのはどうだ」
「へ、だま? なにそれ」
急いでキーボードを打って検索した。
「わお、エレガント」
ジンに似合いそうな美しい柄だ。俺の部屋もジンに任せて、ジン好みに模様替えしたいな。俺のセンスはあまりよくないらしいから。
振り向くと、まだ近くに顔があった。
「な、なに近いよっ」
ジンは何も言わずに、こっちを見ている。
「……っ」
マウスを握っている手に、ジンの手が重なる。戸惑いながら見つめ返すと、顔が更に近づいた。……と思ったら、それ以上は寄ってこない。
「ジン?」
俺の手の辺りで、ふわふわ掴む動作を繰り返している。いつもの勝気な顔ではなく、少し眉が下がった複雑な表情だ。
「……どうして俺は、お前に触れられないんだろうな」
「じ、ジン! ……そんなの、そんなのはいいんだよ! 姿が見えるだけでも、声が聞こえるだけでもじゅううううぶん嬉しくて……っ、幸せなんだから」
ジンが近づいてきたので目を閉じた。触れなくったって分かる。温度を感じなくても、ジンが俺の事を想ってくれているのは伝わる。
いや……待てよ。もしかしてこれは、俺の妄想力が足りないのでは? もっともっと突き詰めたら、感触を得ることも可能なのではないか?
「ジン、俺頑張るよ。ジンに触れるように、触ってもらえるように修行する!」
俺が拳を握りしめて宣言すると、ふっと息を吐いて笑った。やっぱりジンにはこういう顔の方が似合う。
最近イケメンドールくんを放っておいて、おもちゃだけでこなしているのが悪いのかもしれない(だって洗うの大変なんだもん……)。もっと触って触って、触りまくるんだ!

俺が気合を入れていると、ジンの手が下に移った。なんだろうと眺めていると、服の上からそこを撫で始めた。感触はないけど、視覚的にまずい。
「な、なんで急にそんなことっ」
綺麗な瞳が俺の下半身を見て、長い指で撫でている。その事実だけで吹っ飛びそうになる。
ジンはすっかり調子が戻ったように挑発的な笑みを浮かべて、まるで猫の毛でも撫でるかのように優雅に指を這わせている。
当然俺の体は反応する。イケメンドールのところに行こうと思ってたけど、今日もこれだけで満足してしまいそうだ。
「……っふ、くぅ……んっ」
こんなに近くで見られるのは恥ずかしいのに、手が止まらない。やばい、これはかなり興奮する。
「あっ、そんな……見ない、でっ」
「喜んでいるくせに」
ジンには何でもお見通しだ。
はぁはぁと息を荒げている時に、ジンの手が重なった。それはやっぱり透けていたけど、じんわりと表面だけ熱を感じるような気がする。それよりも触れてくれたことが嬉しくて、何度も名前を呼んだ。
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