俺の恋人はタルパ様

迷空哀路

文字の大きさ
上 下
5 / 45

5〔購入〕

しおりを挟む
ただ髪だけあってもどうしようもない。でも絶対に必要な投資だったはずだ。……高かったけど。
汚したくなかったので、体に巻きつけるようなプレイはしなかった。代わりにそっと、ブラッシングするだけだ。
「髪……シャンプー、匂い。あ、天才だわ。香りが足りんかったんだわ。ジンに似合う支配者の匂いを探そう」

デパートでそれをする勇気はなかったので、近場のドラッグストアなどを回って、満足するまで嗅ぎまくった。通報されなくて良かった。
ジンはこんな安いものをつけないと思うけど、そこは俺があげたとか、そんな理由でアリってことにする。結局支配者の匂いは良く分からなかったので、自分好みの匂いにした。大丈夫、スーツ眼鏡に似合う感じだから。多分。
髪にワンプッシュ。なかなかそれっぽい。
自分にも匂いを移したいから、クローゼットの中全部にかけておこう。部屋にも撒いておこう。
「うっ、きっつい……さすがにきつい」
くすくすとジンが笑っている気がした。
「はは、俺……アホだよねぇ」
窓を開けると寒かったけど、胸の中は暖かかった。




「ああっ、そこぉ……擦ったら……っ」
ジンは胸にそれを当てるのが好きだ。乳首は前より大きくなった気がする。まぁ俺が好きなだけなんだけど。
胸を執拗に弄った後、体をひっくり返される。うつ伏せになって、尻を持ち上げられて、焦らすように指をなぞらせた。
「は、はぁ……意地悪しないで。んんっ、ごめんなさ……っ。あ、お願いします……ほ、欲しいっ」
ジンがやっているという設定なので、腕を限界まで伸ばしてそれを尻に近づける。キツい体勢だけど、焦らしが好きなのでなんとか耐えている。

まだ全ては入らないけど、ちょっとだけ飲み込めるようになった。吸い付くように先端が中へ入ってこようとする。このままやっていけば入りそうな気がするけど、怖くなって止めてしまう。
早く欲しいのに。もう少し小さいのを買えば良かったかな。ジンが見栄っ張りなのが悪い。だって絶対このサイズだって、頑なに言うから。
「ごめ、ん。今日もダメだった……。こんなんじゃまだ、俺の所に来てくれないよね」
想像の中のジンが何かを言った。聞こえなかったけど、優しい言葉をかけてくれたみたいだ。
「ジン……。もう最初の設定とかなんだったのかな。俺たちの初対面っていつになるんだろね、はは……」
やりたいことが沢山ある。首に腕を巻きつけると、背中に熱い手が触れて、上を向くと美しい顔がある。目を閉じると柔らかい感触が触れて、口の中の温度は熱くて、頭の中の不安を全て溶かしていく。

「分かってるよ。さすがに想像だけじゃどうにもならない。感触が分からないんだから……だからって買えないだろ。いくらだと思ってるんだ? その辺の玩具とは訳が違うんだぞ。これ買ったら俺死ぬかもしれないよ!」
怪訝そうな目で見られる。動かした口から言葉が予測できた。
「大袈裟って……自分は常にゼロ円だから言えるんだよ。そりゃ俺だって欲しいよ。めちゃくちゃ今すぐ欲しいよ……でも値段も大きさもビッグすぎるよ! 金が尽きて、死んで、部屋に入った誰かが見たらどうするんだよ。借金したら何て言えばいいんだよ。男の人形買う為に金が無くなりましたって? ……え、それでも買え? お前の為になるからって……初めて君のこと恨めしく感じるよ。はあ? そりゃ嫌いにはならないけど……っふん、ほんと酷い奴だ」

一日中ネットを眺めていた。この間の倍はクリックしている。
顔や値段はピンキリで、かなりバラバラだ。それにカスタマイズ代や維持費やらで、他にも金がかかりそうだ。
「こ、これは……」
高いことは高いが、長い間付き合えるのなら良いのかもしれない。ジンとは違うタイプだけどカッコいい。体もかなりリアルだ。細身なのに筋肉質なそれを見てるだけで、どきゅんきゅんする。手元に来るまで何ヶ月もかかるらしいけど、これしかない。ウィッグを被せて顔を隠せばいいだろうか。ちょっともったいないけど。
「う、浮気じゃないから。ジンの為の器だから」
他の趣味が無くて良かった。貯めてきたお金をかなり使うことになるけど、他に欲しいものもない。
「これで恋人が買えるなら、安いもんだ」
あああーどうしよう。押しちゃった。買っちゃった、買っちゃったよ~。ついに等身大ドール、しかも男を買っちゃったよ……。
「やばい。全然後悔してない。わくわくが止まらない」



期待に胸を膨らませて経った数ヶ月。ピンポンの音が鳴るたびに、ドキドキと鼓動が高鳴った。高鳴りすぎて疲れた。

玄関を開けた瞬間に、あれこんなでかいのどうやって運ぶんだ? と気がついた。くそでかダンボールが、お兄さんの手によって室内へ運ばれる。最後までお兄さんと目は合わなかった。
「バレたのかな。まぁ買ってたとしても女の子だと思うよね。俺的には小さい女の子のがヤバイなって思うんだけど、どっちもどっちかな」
まずはダンボールを撫でる。こんなに愛しく撫でたのは初めてだ。どっちが頭だろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

父の男

上野たすく
BL
*エブリスタ様にて『重なる』というタイトルで投稿させていただいているお話です。ところどころ、書き直しています。 ~主な登場人物~渋谷蛍(しぶや けい)高校二年生・桜井昭弘(さくらい あきひろ)警察官・三十五歳 【あらすじ】実父だと信じていた男、桜井が父の恋人だと知ってから、蛍はずっと、捨てられる恐怖と戦っていた。ある日、桜井と見知らぬ男の情事を目にし、苛立ちから、自分が桜井を好きだと自覚するのだが、桜井は蛍から離れていく。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

当たって砕けていたら彼氏ができました

ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。 学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。 教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。 諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。 寺田絋 自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子 × 三倉莉緒 クールイケメン男子と思われているただの陰キャ そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。 お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。 お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

処理中です...