俺の恋人はタルパ様

迷空哀路

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1〔恋人を創る〕

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——寂しい。寂しい、寂しい……。
ベッドの上で、体育座りをして天井を眺める。
寂しかった。狭い部屋でひとりぼっち。また日付が変わるけど、自分の日々には変化がない。
「寂しい……」
だから友達を作ろうと思った。人ではない。人間の友達は上手く作れなかった。
方法をいくつか考えてみる。

まずぬいぐるみ。試しに、手に乗るほど小さいものをゲームセンターで取ってみた。けど、この白いクマになんの感情も湧かない。机に置いてみても、殺風景なこの部屋の中では浮いている。
こいつは前哨戦で、これが好きになれたら、そのうち自分と同じぐらいのを買おうと思ったけど、今のところ保留だ。
諦めて他の方法を探る。

〝空想〟イマジナリーフレンドというやつだっけ。調べてみると、それよりも気になるものが出てきた。
タルパ……初めて聞く言葉だ。どうやら似たようなものではあるが、イマジナリーフレンドは心理学などで使われる医学的な用語で、タルパは宗教から生まれたものらしい。
イマジナリーフレンドは無意識に生まれ、主に幼少期に寄り添ってくれるようなもの。
タルパは自分が作ろうという意志を持って、生み出せる存在。
姿や性格を根気強く思い浮かべていると、やがてはこちらが意識せずとも、勝手に話したり、動き始めるらしい。
軽く説明を読んでみたが、いまいち飲み込めない。そんなことが本当に可能なのか。これって結局、精神崩壊させて、いかれちまおうみたいな事と同じなのでは?
まぁでも、試してみるのは悪くない。別にヤバくなっても、この世に未練なんてないし。正気が保てなくなるなら、そっちの方がありがたい。もうまともな生活は送れていないのだから、どうなっても構わない。

じゃあ早速やってみよう。まずはどんな存在にするかだ。
「そうだな……」
ペンを顎に当てて、じっと壁を見つめる。
どうせならもう友達とかすっ飛ばして、恋人が欲しい。リスクを背負うなら見返りが欲しいよ。
「よし」
次は見た目だ。その辺に居そうな人だと、似た人物に会ってしまった時が怖い。その気まずさや申し訳なさに耐えられそうにないので、存在しないレベルにしよう。もう二次元クラスでいい。
「金髪……ストレートか、ふわふわの超ロング」
俺よりも背が高くて、年も三つ四つぐらい上にしよう。体は細身。でも弱々しい感じではなく、程よく筋肉はついていて……うん、段々鍛えさせていくのもいいな。
「ふふふ……」
もちろん顔は最強に美しく、少し吊り目気味に。人を蔑むのが似合うような……。
「はぁ……これが一番大事な部分。へへへ、ドエスで、鬼畜で、眼鏡が似合って……」
仕事の時は髪をきっちり結んで、鋭い視線で俺を撃ち抜いてくれる。
普段は眼鏡なしで、髪の毛もそのまま。たまにゆるりと一つ結び。
厳しいけど本当は優しくて、上手くできた時はちゃんと褒めてくれる。それでたまに甘えてきてくれて……。
「へへ……ふへぇ、最高ぉ」
いや待て。これじゃいつもの妄想と変わらない。ただ自分の好きなものを集めただけだ。これでいいのか? こんなに詳細なところまで決めても、成功するのだろうか。 

「まぁいいや。とりあえず次次~」
絵は苦手だったけど、ぼやっとした輪郭は出来上がった。上手い人に代理で書いてほしいけど、このイメージを外に持ち出したくない。
画像を検索して近い人間を探す。有名な画家が描いた絵が一番それらしいだろうか。
「でもちょっと違うんだよなぁ。これだと高貴過ぎっていうか、もはや時代が違う……」
美しいけど、俺の恋人は天空から舞い降りた女神ではない。神々しさだけを残して、後は人間へ転生させてくれ。
現代人にする為に、頑張ってペンを動かす。服装はシンプルがいい。顔が良いから。
ただの真っ白なシャツに、細身の黒のパンツとか、そのぐらいの装飾で充分。眼鏡ありなしバージョンもおまけで描いておいた。
「まぁこんなもんかな」
女性と間違えられそうな美人。華奢で背が高く、クールで冷たいけど、たまに甘く囁いてくれる……え、相手は女じゃないのかって? 俺が拗らせたのは数々のイケメン達のせいだからな。そうじゃなかったらもう少しマシな人生だったはずだ。それでもまだ求めちゃうっていうんだから、恨みと愛情は紙一重なんだよ。

「作ってみるか……作る?」
久々に工作用のハサミを手に取った。ダンボールをなんとなくの人型に切って、ガムテープで繋げる。ぺらぺらの、俺よりも少しでかいものが出来上がった。それを壁に立てかける。
「……全然分かんない」
こつこつと地道な努力が必要らしいから、これも小さな一歩だ。慣れるまで壁に貼っておこう。
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