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33〈望み〉

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これで他の学年のところに行くのはやめようと、もう一度来た時だった。今日は廊下に人が多くて、自分の姿はあまり目立たない。人がちらちらと過る中でも、はっきりとピントが合った光景に崩れ落ちそうになる。
多分この前話しかけてきた女の人が、先輩と話をしていた。先輩は窓辺に背をつけ、その前で女の人がたまに肩の辺りを叩いて笑っている。まるで……カップルのように。音が消えていく。目に霞がかかって、ふらふらと二人に近づいていく。
しゅんくん、それは違うってぇ」
「いや、俺が聞いたのは……」
少し地味だけど二人は似合っていた。同じ趣味なのかもしれない。知らない話で盛り上がっている。
先輩は多少たどたどしいところもあったけど、話は続いている。すごく邪魔したくなったけど、足は反対に進んだ。人前で泣きそうになって顔に力を入れる。

自分の方が幸せできる、きっと……なんて、そんなことどの口が言えるんだ。不幸にしかしないくせに。
女の子の方が可愛くて、柔らかくて、一緒にいて癒されて、男としてのプライドも立つ。男相手よりも気持ちいいのだろう。それから大切な日に、大切な人が生まれて……二人は周囲に認められて、祝福されて……。
死んでも構わない程に貴方を想っていると言ったところで、そんなものが勝つ要素は無かった。貴方が望むなら殺しもするし、身を投げてもいい。でもそんなこと普通に生きていく上では必要の無いことで……日常を明るく、共に楽しく生きられるパートナーの方が格段に上なんだ。
汚い男子トイレの中で、腕を顔に押し付けながら泣いていた。こんな時でもまだ泣き声を聞かれたくない、ここにいるのが自分だとバレたくないなんて考えてしまっていた。こんなにもカッコ悪いのに。
誰かに言ってほしい。先輩に言ってほしい。もう泣かなくていいって、お前が望むなら邪魔な奴を消してやるって。何も考えられなくなる程愛してやるって。
僕だって頑張るから……もっと頑張るからお願い。一生のお願い。貴方が欲しい。恋人じゃなくたっていい。その女の下っ端でもいい。家畜みたいな扱いでいいから、僕をその目で見て……。

体育座りで扉の前に座っていた。ぼんやりとした街灯以外は真っ暗だ。静かな住宅街で良かった。マフラーに顔を埋めてうとうととしていると、足音が聞こえてきた。それは何メートルか先で止まる。
「……お前、何して」
震えた声はただの驚きか、怖がっているのか。何も答えずに見上げると、視線を逸らされる。またチクリと胸が痛んだ。
「……ごめんなさい。帰りますから……もう少し、ここに……いさせて、ください」
俯いていたけど聞こえただろうか。何時間も居たせいか、随分温まった床から少しズレる。入れるようにドアの前を開けた。本当に、この場に後何時間か居るつもりだった。逆の立場になって考えたら、こんな奴を放置する方が不安で面倒なのに。
先輩は相変わらず不器用で優しかった。溜め息を吐くと、腕を持ち上げて肩の方に回す。
それに甘えながら立って、よろめいた体をすり寄せてしまった。ぴたりとくっついた体に頭が覚醒し始めて、一度離れる。
「何でこんなとこに居るんだ」
「会いたかった……先輩がいる場所に、来たくて……」
「お前……」
「ごめんなさい。まだ、諦められなかったみたいです。僕なんかが……好きになって……ごめんなさ……っ」
肩を掴まれると、家の中に入れられた。鍵を閉めるその背中に抱きつく。大きくて安心した。
「先輩……好き、ごめんなさい……好き……っ」
コートを着ていたせいで動きづらかったけど、ぎゅっと力を込めた。もう離したくない。
「……っ」
「……先輩……もう会ってくれない、って思ってた……もう、会えないって……」
少し力を緩めると体が反転した。とりあえず落ち着かせる為なのか、体を引き離そうとしている。それを無視して更にしがみついた。
視線の先に首があって、そのまま上を見ると……あ、もう少しで届く。
背伸びして首元に腕を回すと、びっくりしたのか少し屈んだ。その隙に唇に当てようと思ったけど、勢い余ってぶつかるのを避けて、頬にくっつけた。
何度か軽く触れてから前に移動させようとすると、抵抗なのか、僕の胸をぐいと押しながら顔を背けた。口は諦めて、シャツの隙間から見える鎖骨に顔を寄せる。
離れないようにがっちりと掴んだまま、鎖骨から首元を舐めあげていく。肌を吸う音や、自分の呼吸音が大きく響いている。
無意識なのか、動かした膝がちょうど自分の下半身に当たった。びっくりして一度顔を離してしまうと、先輩の体も熱いことに気がついた。それは僕とは種類が違うだろうけど。

靴を脱いでズルズルと引きずられるようにしながら、部屋まで連れていかれた。その間もぴっちりと体にくっついて離れない。
先輩が足を曲げて少し体制が崩れる。床に倒れむかと思ったけど、先輩は思っていたより力があるようだ。中途半端な位置で止まった。
肩に触れる。押し倒したかったけど、体の大きさ的に叶わない。それでも足の間に体を入り込ませて、少しずつ倒していく。肩を押さえていると、あまり抵抗できないみたいだった。上から見下ろした光景に喉が鳴る。
ゆっくりと重なるように寝転んだ。胸がぴったりくっついて、鼓動を感じる。
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