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31〈先輩のいない図書室〉
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三上side《6》
先輩と会った時に自分がどうするのか、何度考えても分からなかった。
避けられても仕方ないと思う。だから予想は一応していたけど、いざ行動に移されるとやっぱりショックだった。
知らない後輩が先輩の椅子に座っていて、僕が来たら首を傾げるように軽く頭を下げた。
無言の間を誤魔化すように、何年前の代か知らないが、図書委員が書いたであろうプリントを見ている。動揺から思考はクリアになり、カチッと頭の中で切り替わった。
「ああ、先輩と交代したんだね。今まで何曜日にやってたの?」
「え、と……月曜が昼休みで、水曜が放課後です」
「それじゃあ全然被ったことないね。今日は先輩に言われて来たの?」
「いや、その人は知らないです。先生に言われて、まぁ暇だったからいいかなって」
「そっか」
「あのー……」
後頭部を雑に掻いて、そのままの姿勢でこちらを見てくる。少し先輩と重なる仕草だったけど、その目から放たれているのはどこか見下すような興味だ。
「先輩ってアレですよねー? 最近噂になってる」
「そうなの?」
返答がつまらなかったのか、少し身を乗り出して鼻で笑った。
「いやー。女子達がめちゃめちゃ騒いでますから……まぁ先輩みたいにカッコ良くなくたって、男と親密にしてたら目立ちますよ。でもあれって本当なんですか? なんかこうして実際に会ってみると、軽はずみで行動しそうな人じゃないんで」
「そんな風に見えるかな」
書類をまとめながら適当に返事をした。
「一筋縄じゃいかないっぽい……気がする。アレっすか、誰かへの当てつけとか。いやそれはむしろ相手側からありそうだな……じゃあ復讐とか? 先生か生徒に。そこまで身削って得られるモノって……結局思惑通りにいったんすか」
「はは、そんなに面白い理由なんてないよ。ただ……たまには色々壊したくなる時もあるよね」
「やっぱりなんか企んでたんじゃないすか。怖いなあ」
「一度吹っ切れてみたらすっきりしたからね。これからはもう面白いことは起きないよ。見世物にされるのは疲れるし」
「でも噂は当分消えないですよー。少なくとも俺らの代までは残ってるハズだし。あ、先生から何か言われたりとかしなかったんすか」
「別に無いよ。厄介ごとは避けたいんじゃないかな。でも手を繋ぐ以上のことはしてないんだし、それだけで注意されることもないと思うけど」
「結局あれは嘘だったってことすか? ただ混乱させただけじゃないすか」
「さぁ、どうだろうね。僕にもよく分からないよ」
立ち上がってファイルを持った。これ以上くだらない話をするなと釘を刺すつもりで。
気が紛れるかと思ったのに、このへらへらとした態度がまたストレス値を上げていく。気を抜いた態度のくせに、ネタになるような部分はきっちり聞き出そうとしてくる。マスコミじゃあるまいし、一つ上の人間の話を聞きまくって楽しいのだろうか。
それより先輩はどうした。今頃家で悶々としているのか? 意外と吹っ切れて、彼女でも作っているかもしれない。そんなことを思うと、どこかで子供じみた嫉妬が浮かんでくる。こんな風に感情をコントロールできないから、この世は上手くいかない。
番号がバラバラの本を並び替えた。どうせ揃えたところでまた誰かがぐちゃぐちゃにするし、誰も借りないところは揃えたところで意味があるのだろうか。少なくとも今は暇を潰すだけの目的しかない。
「宗介くん」
小さい声だったけど耳にはっきりと届いた。三冊ぐらいを持ったまま振り返る。
「……あの、今日は待っててもいい? 一緒に、帰ろう」
いいよと頷いて本を棚に戻した。一番受付から遠い隅っこの席だから、こちらに気がついている奴もいないだろう。今日もここに訪れる生徒は少ない。
今やる気なさそうに座っているあいつが見ていたら、ちょっと面倒くさいと思ったけど、さっきみたいにやり過ごそう。
正人はここにある本ではなく、鞄からカバーのついたものを取り出して、棚の後ろの死角になる椅子に座った。
そこから離れて数時間、イラつきながら作業を終えた。先輩とやっていた時は時間なんて……もういいや。冷静のつもりだった。何を言われても気にしないし、スルーできると思っていた。しかしじわじわと貯められた不安や苛つきは、体を巡り始めている。
「正人、終わりの時間だよ。起きて」
「ん、ん……ぅ」
数回瞬きをしてぼんやりと顔を上げた。いつの間にか寝ていたみたいだ。
「……ん、ごめん」
まだ寝ぼけているのか、ゆっくりとした動きで立ち上がる。
「鍵は僕が持っているから、急がなくていいよ。もう誰もいないしね」
ん、と短い返事をして小さく欠伸をした。なんとなく周りを見渡す。こんなにも静かで、何も無いような場所だったかなとどこかで思った。
衝動的に口を塞ぐ。二、三回軽く合わせると眠気が飛んだのか、顔を赤く染めながら僕の袖を掴んだ。
「宗介く……んっ」
「帰る? ……それとも」
ここでする? そう問いかけると、ガタンと椅子に足をぶつけた。それを摩りながらえっとと繰り返している恋人に、冗談だよと言って手を繋いだ。
先輩と会った時に自分がどうするのか、何度考えても分からなかった。
避けられても仕方ないと思う。だから予想は一応していたけど、いざ行動に移されるとやっぱりショックだった。
知らない後輩が先輩の椅子に座っていて、僕が来たら首を傾げるように軽く頭を下げた。
無言の間を誤魔化すように、何年前の代か知らないが、図書委員が書いたであろうプリントを見ている。動揺から思考はクリアになり、カチッと頭の中で切り替わった。
「ああ、先輩と交代したんだね。今まで何曜日にやってたの?」
「え、と……月曜が昼休みで、水曜が放課後です」
「それじゃあ全然被ったことないね。今日は先輩に言われて来たの?」
「いや、その人は知らないです。先生に言われて、まぁ暇だったからいいかなって」
「そっか」
「あのー……」
後頭部を雑に掻いて、そのままの姿勢でこちらを見てくる。少し先輩と重なる仕草だったけど、その目から放たれているのはどこか見下すような興味だ。
「先輩ってアレですよねー? 最近噂になってる」
「そうなの?」
返答がつまらなかったのか、少し身を乗り出して鼻で笑った。
「いやー。女子達がめちゃめちゃ騒いでますから……まぁ先輩みたいにカッコ良くなくたって、男と親密にしてたら目立ちますよ。でもあれって本当なんですか? なんかこうして実際に会ってみると、軽はずみで行動しそうな人じゃないんで」
「そんな風に見えるかな」
書類をまとめながら適当に返事をした。
「一筋縄じゃいかないっぽい……気がする。アレっすか、誰かへの当てつけとか。いやそれはむしろ相手側からありそうだな……じゃあ復讐とか? 先生か生徒に。そこまで身削って得られるモノって……結局思惑通りにいったんすか」
「はは、そんなに面白い理由なんてないよ。ただ……たまには色々壊したくなる時もあるよね」
「やっぱりなんか企んでたんじゃないすか。怖いなあ」
「一度吹っ切れてみたらすっきりしたからね。これからはもう面白いことは起きないよ。見世物にされるのは疲れるし」
「でも噂は当分消えないですよー。少なくとも俺らの代までは残ってるハズだし。あ、先生から何か言われたりとかしなかったんすか」
「別に無いよ。厄介ごとは避けたいんじゃないかな。でも手を繋ぐ以上のことはしてないんだし、それだけで注意されることもないと思うけど」
「結局あれは嘘だったってことすか? ただ混乱させただけじゃないすか」
「さぁ、どうだろうね。僕にもよく分からないよ」
立ち上がってファイルを持った。これ以上くだらない話をするなと釘を刺すつもりで。
気が紛れるかと思ったのに、このへらへらとした態度がまたストレス値を上げていく。気を抜いた態度のくせに、ネタになるような部分はきっちり聞き出そうとしてくる。マスコミじゃあるまいし、一つ上の人間の話を聞きまくって楽しいのだろうか。
それより先輩はどうした。今頃家で悶々としているのか? 意外と吹っ切れて、彼女でも作っているかもしれない。そんなことを思うと、どこかで子供じみた嫉妬が浮かんでくる。こんな風に感情をコントロールできないから、この世は上手くいかない。
番号がバラバラの本を並び替えた。どうせ揃えたところでまた誰かがぐちゃぐちゃにするし、誰も借りないところは揃えたところで意味があるのだろうか。少なくとも今は暇を潰すだけの目的しかない。
「宗介くん」
小さい声だったけど耳にはっきりと届いた。三冊ぐらいを持ったまま振り返る。
「……あの、今日は待っててもいい? 一緒に、帰ろう」
いいよと頷いて本を棚に戻した。一番受付から遠い隅っこの席だから、こちらに気がついている奴もいないだろう。今日もここに訪れる生徒は少ない。
今やる気なさそうに座っているあいつが見ていたら、ちょっと面倒くさいと思ったけど、さっきみたいにやり過ごそう。
正人はここにある本ではなく、鞄からカバーのついたものを取り出して、棚の後ろの死角になる椅子に座った。
そこから離れて数時間、イラつきながら作業を終えた。先輩とやっていた時は時間なんて……もういいや。冷静のつもりだった。何を言われても気にしないし、スルーできると思っていた。しかしじわじわと貯められた不安や苛つきは、体を巡り始めている。
「正人、終わりの時間だよ。起きて」
「ん、ん……ぅ」
数回瞬きをしてぼんやりと顔を上げた。いつの間にか寝ていたみたいだ。
「……ん、ごめん」
まだ寝ぼけているのか、ゆっくりとした動きで立ち上がる。
「鍵は僕が持っているから、急がなくていいよ。もう誰もいないしね」
ん、と短い返事をして小さく欠伸をした。なんとなく周りを見渡す。こんなにも静かで、何も無いような場所だったかなとどこかで思った。
衝動的に口を塞ぐ。二、三回軽く合わせると眠気が飛んだのか、顔を赤く染めながら僕の袖を掴んだ。
「宗介く……んっ」
「帰る? ……それとも」
ここでする? そう問いかけると、ガタンと椅子に足をぶつけた。それを摩りながらえっとと繰り返している恋人に、冗談だよと言って手を繋いだ。
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