上 下
16 / 42

16〈趣味〉

しおりを挟む
「読んでいた本の奴はこういうの無いんですか。ロボットは表紙にいませんでしたよね」
ちらりと横を向くと、あからさまにぎくっとした態度で一瞬固まった。それから小さい声であるにはあると答えた。
「……? あんまり良くないんですか」
「いや……そういう問題じゃなくて」
「じゃあ何か……」
今までで一番葛藤をしているようで、手をあちらこちらに迷わせながら小さく頷いた。
「まぁいいか。あー、うーん……もしかすると、もしかするかもしれないし……」
そのコーナーは押入れの中にあるらしい。手前にある色々な物をズラすと、開けられるようになった。後で戻す作業をするのだろうと思うと少し申し訳なくなる。
その中にも沢山詰まっていた。下部分には段ボール、そこにはCDやゲームや雑誌とマジックで書かれていた。その上にも箱が数個。そして申し訳程度に、今の時期は着ないような服がシワのままハンガーにかけられていた。
「これとかのことだろ? 読んでたやつ」
本棚から一冊取り出した。一人の男が女の子五人ぐらいに囲まれている表紙を指差して頷く。
「……まぁ、こいつなら」
ギリギリ聞こえるぐらいの声が続く。箱をガサゴソを動かし、随分吟味しているようだ。
「これ……とか? あー買った訳じゃなくて、貰ったのもあんだけど……」
恐る恐る背中の裏から出てきたのは、制服を着た女の子のフィギュアだった。髪は腰の下まであって、スカートは長いけどボディーラインははっきり出ていた。
じっと見ていたら先輩はそれを戻して、新たなフィギュアを二つ取り出した。今度は女神のような格好をしている子と、違う制服を着た子だ。
「さっきのが人気だけど、俺としてはこっちのが好きかなーみたいな……あ、いや別にそこまでって訳でもないんだけどな?」
「……」
「おい……な、なんか言えよ」
ちらりと上を見ると、居た堪れない様子で腕を下げていた。
「ああ……その、やっぱり良く出来てるなって。凄い細かいですよね服のシワとか。色も綺麗だし」
ボソッと、そこかよと呟く声が聞こえた。
「先輩はこれを見て……その、どうしてるんです?」
「はっ!」
「あ、変なこと言いました?」
「……お前っ!」
雑に押し込むようにフィギュアをしまうと、咎めるような目でこちらを見てきた。怒らせてしまっただろうか。
「た、ただの観賞用だ。コレクター欲つーか。とりあえずあるだけで満足なんだよ」
「……そうですか」
「な、なんだと思ったんだよ」
「いや、うーん。撫でたり? 」
「撫でるってお前……」
なんだよ分かってなかったのかよと頭を抱える先輩の横で、積み上がっているものをよく見てみると、昔読んだことのある小説がアニメになっているものがあった。タイトルだけ同じの別作品かもしれないけど。
「これ……」
「ん、千賀峰少年の探偵記録? そういえばあったなそんなの。知ってるのか?」
「昔に読んだと思います。アニメになっているのは知らなかったですけど」
「良かったら貸すけど……俺も当分見ることは無いだろうし。つーか存在自体忘れてた」
「いいんですか」
「あぁ……あ、あとついでにこれはどうだ? 結構シナリオの完成度が高くてな、当時も人気だったんだよ。これがハマれば同じ作者のこれもオススメでなぁ」

次々に思い出を語る先輩の横顔を眺めてたら、いつの間にか紙袋にDVDが沢山詰められた物を受け取っていた。
「まぁ当然全部見ろとは言わないし、つまんなかったらきっていいから……あーでも面白かったら何でもいいから感想聞かせてくれ。そしたらまた好みっぽいやつ探しておくから。とりあえず色々なジャンル詰めておくぞ。んー……やっぱりアレも入れとくか? いやでもあのシーンがあるし、初めてだとなぁ……」
「本当にお借りして大丈夫ですか」
「あ、あぁ……お前なら雑にはしないだろうし、見ようと思えば録画した奴で見れるし」
そうは言いながらも、まるで我が子を預けるような目をしてから、そっと手を離した。
「じゃあゆっくり見てくれ、感想は急がないから」
「ありがとうございます。ではお邪魔しました」
パタンと閉じられた扉。気がついたら上にある月を眺めていた。もう少し一緒になんて言えない空気で、流れるように初めての先輩宅訪問は終わってしまった。

そして先輩との仲も良く分からない方向に進んでいってしまった。これは前進なのか後退なのか、暗がりの中問いかけてみても答えは出ない。
ずっしりとした重みを感じながら、歩き出した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

処理中です...