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11〈別れ〉
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波浦side《3》
三上くんの様子がどこかおかしい。まぁ、あの日も変だったんだけど。
結局あの後メールで『お疲れ』と言われただけで、それ以上の会話は一日経っても無かった。こっちが一人でドキドキしながら教室に入ったのに、そこに彼はいなかった。
珍しく始業ギリギリで入ってきたその顔に、笑みは一切浮かんでいない。休み時間になって仲間であるはずの生徒に話しかけられても、素っ気ない態度をとっていた。ただの他人のように。
極め付けは中野さんに対してだ。彼女が遊びに来たよと軽い調子で近づくと、三上くんはより一層不快を示した顔で「用事あるから、帰りも」と吐き捨て、顔も見ずに出て行ってしまった。取り巻きのようについていた生徒は三上くんがおかしいという話題で盛り上がっていたけど、これにはその場にいた全員が困惑しているみたいだった。
中野さん自身もどうして? と大きな目をくりくりと見開いている。彼女の会話を聞いていると、喧嘩したという訳ではないようだ。あの後何かあったのだろうか。
次の日もほとんど同じ。三上くんに話しかける人が少なくなった。あの時、彼は言っていたじゃないか。全てを切り捨てるより、適当に取り繕っておいた方が楽だって。やっぱり面倒になってしまったのだろうか。中野さんは最後まで教室に現れることはなかった。
そして今日、三上くんは昨日までの何かに取り憑かれていたような表情から一変、いつもの爽やかな顔で「おはよう」と教室に現れた。皆も驚いていたけど、ちょっとの間変だっただけで、これが本当の三上だと安堵したように笑っていた。三上くんもごめんと微笑を混ぜながら謝っていて、そんな姿はより一層カッコ良く見えてクラクラしてしまう。僕もこっちの彼の方が好みなのかもしれない。
中野さんとのことも綺麗にまとまったのかと思っていたけど、彼女は来なかった。
もしかして、もしかして……。
噂で回ってきた、三上くんは中野さんと別れたって。
三上side《3》
ずっと眠気が纏わりついているような怠さが拭えない。言葉が一歩遅れて聞こえてくるようだ。それを頭で処理するのは更に時間がかかる。だから人の声を真面目に聞くのをやめた。雑音の一つとして処理する。
不機嫌に見えたのか、何かあった? とか怒ってる? 悩んでる? なんて心配そうに聞いてくるこいつの名前はなんだっけ。ちょっと疲れてるからと言うと離れていく。そうか、こうすれば良かったのか。随分と楽だ。自分にはこっちの方がやっぱり合っているのか。
誰とも会話せずに、机で項垂れながら一日を過ごした。まだ怠い。確かに楽だけど、あまりに刺激が少ないのも暇というものだ。今日は図書委員もない。先にやっておくか。
面倒だったからメールで伝えたら、会ってほしいと返ってきた。いちいち神経を逆撫でしてくる奴だ。ああ、どうしてこいつが……。
いつの間にか利用していた奴はライバルのようになっていた。自分の中の女々しいような逞しいような、妙な感情が湧き上がってくる。この泥棒猫! とでも言ってしまいそうな気分だ。
いつもの店に行き、何も頼まないで彼女が来るのを待っていた。相手は何故かいつもよりキメたような格好で、アイスティーだけ頼んで正面に座る。
緊張しているような複雑な表情だ。こっちはもはや第三者目線で見ているぐらい、興味を失っていた。寧ろ嫌いにさえなっていた。それなのになぜそんな顔をするのか。これから説得するぞと、力んだ雰囲気を出している。
「なんでいきなりこんなこと言うの? 何かあった?」
「別に。そっちだって俺といて何か得るようなものあるの」
「あるよ! 私なりにちゃんとソウちゃんのこと考えて好きになって……もっと仲良くなれたらって思ってたのに」
こういう女がモテるのか、こういう女が……彼は好きなのか。悔しくて目頭が滲んできた。
「お互い好きだから付き合った訳じゃないし、日数だって別に長くないし、何よりこの先に見いだせるものがない」
「……っ」
今まで出したことのない冷たい声色だったからか、さすがにあっちも黙った。
「レナのことは嫌いになった訳でもないけど、彼女として好きになることもないと思う。ごめん。俺自身ちょっと……色々あって人間関係を考えてみようと思ってさ。レナだけが例外って訳じゃないから」
「……ソウちゃん」
「じゃあ、そういうことだから」
「待って……」
煩わしくも振り向くと、何か言いたげな目を向けてきた。でも言っちゃダメだと女優のようにゆっくり首を振る。さらに演技めいた様子で顔を上げると、まだ好きだけど言えない、だからせめて「……ありがとう」良い女風に言ったその顔面にアイスティーを投げつけたいのを堪えて、笑みを浮かべた。うまく笑えたかは分からないけど、スッキリしたのは確かだ。これで思う存分先輩に近づける。
月明かりの下、誰もいない空間が心地良い。
待っててくださいと、やりとりを交わした画面に唇を近づけた。
三上くんの様子がどこかおかしい。まぁ、あの日も変だったんだけど。
結局あの後メールで『お疲れ』と言われただけで、それ以上の会話は一日経っても無かった。こっちが一人でドキドキしながら教室に入ったのに、そこに彼はいなかった。
珍しく始業ギリギリで入ってきたその顔に、笑みは一切浮かんでいない。休み時間になって仲間であるはずの生徒に話しかけられても、素っ気ない態度をとっていた。ただの他人のように。
極め付けは中野さんに対してだ。彼女が遊びに来たよと軽い調子で近づくと、三上くんはより一層不快を示した顔で「用事あるから、帰りも」と吐き捨て、顔も見ずに出て行ってしまった。取り巻きのようについていた生徒は三上くんがおかしいという話題で盛り上がっていたけど、これにはその場にいた全員が困惑しているみたいだった。
中野さん自身もどうして? と大きな目をくりくりと見開いている。彼女の会話を聞いていると、喧嘩したという訳ではないようだ。あの後何かあったのだろうか。
次の日もほとんど同じ。三上くんに話しかける人が少なくなった。あの時、彼は言っていたじゃないか。全てを切り捨てるより、適当に取り繕っておいた方が楽だって。やっぱり面倒になってしまったのだろうか。中野さんは最後まで教室に現れることはなかった。
そして今日、三上くんは昨日までの何かに取り憑かれていたような表情から一変、いつもの爽やかな顔で「おはよう」と教室に現れた。皆も驚いていたけど、ちょっとの間変だっただけで、これが本当の三上だと安堵したように笑っていた。三上くんもごめんと微笑を混ぜながら謝っていて、そんな姿はより一層カッコ良く見えてクラクラしてしまう。僕もこっちの彼の方が好みなのかもしれない。
中野さんとのことも綺麗にまとまったのかと思っていたけど、彼女は来なかった。
もしかして、もしかして……。
噂で回ってきた、三上くんは中野さんと別れたって。
三上side《3》
ずっと眠気が纏わりついているような怠さが拭えない。言葉が一歩遅れて聞こえてくるようだ。それを頭で処理するのは更に時間がかかる。だから人の声を真面目に聞くのをやめた。雑音の一つとして処理する。
不機嫌に見えたのか、何かあった? とか怒ってる? 悩んでる? なんて心配そうに聞いてくるこいつの名前はなんだっけ。ちょっと疲れてるからと言うと離れていく。そうか、こうすれば良かったのか。随分と楽だ。自分にはこっちの方がやっぱり合っているのか。
誰とも会話せずに、机で項垂れながら一日を過ごした。まだ怠い。確かに楽だけど、あまりに刺激が少ないのも暇というものだ。今日は図書委員もない。先にやっておくか。
面倒だったからメールで伝えたら、会ってほしいと返ってきた。いちいち神経を逆撫でしてくる奴だ。ああ、どうしてこいつが……。
いつの間にか利用していた奴はライバルのようになっていた。自分の中の女々しいような逞しいような、妙な感情が湧き上がってくる。この泥棒猫! とでも言ってしまいそうな気分だ。
いつもの店に行き、何も頼まないで彼女が来るのを待っていた。相手は何故かいつもよりキメたような格好で、アイスティーだけ頼んで正面に座る。
緊張しているような複雑な表情だ。こっちはもはや第三者目線で見ているぐらい、興味を失っていた。寧ろ嫌いにさえなっていた。それなのになぜそんな顔をするのか。これから説得するぞと、力んだ雰囲気を出している。
「なんでいきなりこんなこと言うの? 何かあった?」
「別に。そっちだって俺といて何か得るようなものあるの」
「あるよ! 私なりにちゃんとソウちゃんのこと考えて好きになって……もっと仲良くなれたらって思ってたのに」
こういう女がモテるのか、こういう女が……彼は好きなのか。悔しくて目頭が滲んできた。
「お互い好きだから付き合った訳じゃないし、日数だって別に長くないし、何よりこの先に見いだせるものがない」
「……っ」
今まで出したことのない冷たい声色だったからか、さすがにあっちも黙った。
「レナのことは嫌いになった訳でもないけど、彼女として好きになることもないと思う。ごめん。俺自身ちょっと……色々あって人間関係を考えてみようと思ってさ。レナだけが例外って訳じゃないから」
「……ソウちゃん」
「じゃあ、そういうことだから」
「待って……」
煩わしくも振り向くと、何か言いたげな目を向けてきた。でも言っちゃダメだと女優のようにゆっくり首を振る。さらに演技めいた様子で顔を上げると、まだ好きだけど言えない、だからせめて「……ありがとう」良い女風に言ったその顔面にアイスティーを投げつけたいのを堪えて、笑みを浮かべた。うまく笑えたかは分からないけど、スッキリしたのは確かだ。これで思う存分先輩に近づける。
月明かりの下、誰もいない空間が心地良い。
待っててくださいと、やりとりを交わした画面に唇を近づけた。
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