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染 5
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傷跡が消えたわけではないけれど、痛みはなくなった。この体だけ見られたら、どれだけの死闘を掻い潜ってきたのだと勘違いされそうだ。まぁそんな雑談をするような相手もいないのだけれど。
「ちょ、ちょっと待って。今テーブル拭こうと思ってて」
服の上から弄るようになぞられて、つい体をくねらせてしまう。少しくすぐったいのと、気持ちいいのが混ざって、簡単に抗えなくなる。
「ダメ? 今したくない?」
「……っ、だってお腹、空いてるでしょ」
「うーん。まだ大丈夫かなぁ」
いつの間にかソファーに誘導され、寝転ぶ彼の上に乗るように座らされた。エプロンの紐が片方肩から外れて、下に落ちそうだ。
軽く口を合わせた程度で止まると、その先を促してきた。でもなかなか体が動かなくて、そのまま固まってしまう。
「君は真面目だからね。免罪符をあげないとなかなかスイッチが入らない。そういうところも可愛いけど……今日はもっと深くまで君が欲しい」
──欲しいでしょ? 体の深くまで浸透するように、受け入れたいんだよね。あげるよ、満足するまで沢山。溢れるぐらい、君の中へ。
耳元で囁かれる言葉が催眠のように流れ込んでくる。
欲しい……乾いているから、沢山取り込める。お腹がいっぱいなるまで、全ての穴を満たすように。ああ……欲しい。染めてほしい。この全てを。
抉るように舌を動かして、奪うように取り込んでいく。彼が触れたところから、合わさっているところから、中へ侵入してくる。彼が入ってくる。自分の中へ。
ああ、幸せだ。この色が欲しかったんだ。頭の先から足の先まで、全て染めたい。浸りたい。
愛している──この行為を。
素晴らしい。自分にとっての幸せとは染まることだ。精神さえも染められて、届かない脳の深いところまでも侵されている気分だ。
あの日は失敗しちゃったけど、今度は染められたい。貴方の全てを取り込んで、浸かりたい。その時は文字通り全身全霊を込めて愛してあげる。
愛するとは、染めることだ。貴方に存分に染まった体で、ぴったりと隙間なく染めてあげる。
こんなに綺麗な色なのだから、嬉しいはずだ。
背中を逸らして顔を上げると、部屋のライトが目に入った。チカチカして目の前が白がかっていく。
肩甲骨の辺りに暖かいものが触れた。貴方が羽を生やしてくれたのだろうか。
飛び立つ自分を想像して、歓喜に震えた。自分の想像する天国には一線、美しい赤が添えられている。まるでリボンのラッピングのように。
針で小さく指先を刺して、そこへ口付ける。今はまだこれだけの赤で充分だ。
これからも沢山愛してくれと願って、こっそりソファーの下へ手を伸ばした。切れ味の悪い、あの日の錆びたカミソリを指先でそっと撫でる。そこから熱い快感が走って、目の前が僅かに赤く染まった。
「ちょ、ちょっと待って。今テーブル拭こうと思ってて」
服の上から弄るようになぞられて、つい体をくねらせてしまう。少しくすぐったいのと、気持ちいいのが混ざって、簡単に抗えなくなる。
「ダメ? 今したくない?」
「……っ、だってお腹、空いてるでしょ」
「うーん。まだ大丈夫かなぁ」
いつの間にかソファーに誘導され、寝転ぶ彼の上に乗るように座らされた。エプロンの紐が片方肩から外れて、下に落ちそうだ。
軽く口を合わせた程度で止まると、その先を促してきた。でもなかなか体が動かなくて、そのまま固まってしまう。
「君は真面目だからね。免罪符をあげないとなかなかスイッチが入らない。そういうところも可愛いけど……今日はもっと深くまで君が欲しい」
──欲しいでしょ? 体の深くまで浸透するように、受け入れたいんだよね。あげるよ、満足するまで沢山。溢れるぐらい、君の中へ。
耳元で囁かれる言葉が催眠のように流れ込んでくる。
欲しい……乾いているから、沢山取り込める。お腹がいっぱいなるまで、全ての穴を満たすように。ああ……欲しい。染めてほしい。この全てを。
抉るように舌を動かして、奪うように取り込んでいく。彼が触れたところから、合わさっているところから、中へ侵入してくる。彼が入ってくる。自分の中へ。
ああ、幸せだ。この色が欲しかったんだ。頭の先から足の先まで、全て染めたい。浸りたい。
愛している──この行為を。
素晴らしい。自分にとっての幸せとは染まることだ。精神さえも染められて、届かない脳の深いところまでも侵されている気分だ。
あの日は失敗しちゃったけど、今度は染められたい。貴方の全てを取り込んで、浸かりたい。その時は文字通り全身全霊を込めて愛してあげる。
愛するとは、染めることだ。貴方に存分に染まった体で、ぴったりと隙間なく染めてあげる。
こんなに綺麗な色なのだから、嬉しいはずだ。
背中を逸らして顔を上げると、部屋のライトが目に入った。チカチカして目の前が白がかっていく。
肩甲骨の辺りに暖かいものが触れた。貴方が羽を生やしてくれたのだろうか。
飛び立つ自分を想像して、歓喜に震えた。自分の想像する天国には一線、美しい赤が添えられている。まるでリボンのラッピングのように。
針で小さく指先を刺して、そこへ口付ける。今はまだこれだけの赤で充分だ。
これからも沢山愛してくれと願って、こっそりソファーの下へ手を伸ばした。切れ味の悪い、あの日の錆びたカミソリを指先でそっと撫でる。そこから熱い快感が走って、目の前が僅かに赤く染まった。
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