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染 2
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一つ、また一つと雫が落ちる度、体が震える。まるで神聖な儀式でもしているかのように、心が満たされていく。彼の美しい体に赤が混ざり、しっかりと皮膚をコーティングするかのようにぬるぬると肌の上を滑っていく。
雑巾で雑に血を拭った後、彼の上に跨った。足の間に半分ほど染まった胸元が見える。そこを目がけて、腹に滑らせた。たっぷり楽しむ為に、深くは切らない。それでも自分の体を染めるだけの血は流れた。いや、こちらの体はどうだっていいんだ。全て彼に渡すのだから、きちんと流れていってくれないと困る。血が乾いて固まって、彼に受け取ってもらえなかったらどうしてくれるんだ。
全身にカミソリを上部だけ滑らせて、彼の体の半分程は染められた。白と赤のコントラストが芸術作品のように素晴らしいが、この白を無くしていかなければいけない。
裏へひっくり返し、白が多い体を見つめる。床と擦れて赤くなってしまっている指先や尻が果実のように品良く染まっているが、今からここに下品で秩序など何もない液体をぶちまける。ただのスプラッター映画のように。グロさだけが取り柄の漫画のように。噛み尽くすように、すり潰すように、ただ彼を傷つける。彼の体を一方的に略奪していく。
張り詰めた下半身に手を伸ばす。赤と黒で混ぜられた液体を塗りこめて、上へと導くように滑らせただけでも達しそうになった。全身が震えて、このまま全てをぶつけてしまえと訴えてくる。暴力的な感情に塗れて、全てを壊してしまえと煽ってくる。
背中の辺りに濁った液体がかかった。もっと綺麗な白だったら、羽のようだっただろうか。
自分の悪趣味さに苦笑いを浮かべてから、もう一度切っ先を下にある体に向けた。先程と同じぐらいの快感が走った。反射で勝手に震える体。脳がぐらついて、目の前がちかちかするようなそれが眩しい。白い安い電気が目に突き刺さってくる。まるで天国かのように、自分を非難して罰を下しているかのように。
安っぽい、いや高い音がどんなのかは知らないが、とにかくよく聞く効果音のような軽い感じでそれは相手の体を簡単に染めていった。申し訳ないという気持ちは一応あるので、事前にはほとんど水しか摂取していない。食事も抜いている。彼がその気遣いに気づいてくれるかは別として。
ふと、こんなにも彼のほとんどを奪ったというのに急に不安になってきた。なぜまだ目を覚まさないのだろう。実はもう起きてて、様子を伺っているのだろうか。もうその体で触っていない場所はないのに。それでも特別な人にはなれないのか。
口を開けて舌に一線。そこから落ちた一滴がうなじに落ちた。ああ、なんて綺麗なんだろう。やはり血が一番だ。これが一番映える。憂鬱など吹き飛んでいくようだ。
胸に十字を切って、それを指先に垂らした。なんだか誓いのシーンみたいじゃないか? こんなことならもっと美しく部屋も飾り付けておけばよかったか。彼ならどんな花も似合っただろう。指輪を買う金があれば、それを血で染めてプレゼントをしたかった。でももうそれは叶わないから、今は自分自身を受け取ってほしい。もっと、もっとあげられる。沢山、温めてあげる。
薬指にぐるりと刃を巻き付けて、指先を握ってみた。もう血に塗れてよく見えなかったけど、体温が一度上がるように気分が良くなった。好きだったけど、そんな結ばれたいとかそんな感じじゃなくて、ただ一度自分を認識してくれれば……人として仲良くなれたら、そんな程度しか思っていなかったのに。本当はもっと深く愛していたのかもしれない。大丈夫、来世で結ばれたいなんて祈らない。この関係はここで終わらせてあげる。だから貴方の意思が関係なくても、体だけでも受け取ってくれないか。全てを捧げるから。
染まった体に手を這わせて滑らせる。なめらかで、全てを忘れてしまうほど気持ちがいい。指の隙間や髪の間も、細かいところまで丁寧に塗りこめる。愛おしいという感情だけになって、心が満たされていた。これ以上幸福な時などないのではと思うほど。暖かい涙と血の海は、ずっと浸かっていたいほど心地良い。
「愛してる……愛して、る……」
貴方を、この空間を、この時間を、この行為を全て総合して愛おしい。一つが崩れたらなくなってしまいそうなほど繊細なバランス。それなのにこの安堵感。どうなっているか分からない。ただただ幸せだ。
体がぐらついた。目が霞んできて、床にべちゃりと手をついた。まずい。思ったより早かった。
こんな中途半端な状態ではダメだ。だって全てを捧げると誓って……。貴方にこの目も、耳も口も手も全てを何もかも、受け取って……貰わなければ、完成しないじゃないか。ちゃんと壊さないと後悔で蘇ってしまうかもしれないじゃないか。悪霊になんてなりたくない。永遠に彷徨うだけなんて生き地獄じゃないか。あれ? 死んでるのか? じゃあ何だ。
とにかく、心臓だけは。なんとなく一番神聖ぽい場所だけは捧げたい。でもこんな小さなカミソリでそこまで届くだろうか。今から包丁を持ってくるべきか……。
雑巾で雑に血を拭った後、彼の上に跨った。足の間に半分ほど染まった胸元が見える。そこを目がけて、腹に滑らせた。たっぷり楽しむ為に、深くは切らない。それでも自分の体を染めるだけの血は流れた。いや、こちらの体はどうだっていいんだ。全て彼に渡すのだから、きちんと流れていってくれないと困る。血が乾いて固まって、彼に受け取ってもらえなかったらどうしてくれるんだ。
全身にカミソリを上部だけ滑らせて、彼の体の半分程は染められた。白と赤のコントラストが芸術作品のように素晴らしいが、この白を無くしていかなければいけない。
裏へひっくり返し、白が多い体を見つめる。床と擦れて赤くなってしまっている指先や尻が果実のように品良く染まっているが、今からここに下品で秩序など何もない液体をぶちまける。ただのスプラッター映画のように。グロさだけが取り柄の漫画のように。噛み尽くすように、すり潰すように、ただ彼を傷つける。彼の体を一方的に略奪していく。
張り詰めた下半身に手を伸ばす。赤と黒で混ぜられた液体を塗りこめて、上へと導くように滑らせただけでも達しそうになった。全身が震えて、このまま全てをぶつけてしまえと訴えてくる。暴力的な感情に塗れて、全てを壊してしまえと煽ってくる。
背中の辺りに濁った液体がかかった。もっと綺麗な白だったら、羽のようだっただろうか。
自分の悪趣味さに苦笑いを浮かべてから、もう一度切っ先を下にある体に向けた。先程と同じぐらいの快感が走った。反射で勝手に震える体。脳がぐらついて、目の前がちかちかするようなそれが眩しい。白い安い電気が目に突き刺さってくる。まるで天国かのように、自分を非難して罰を下しているかのように。
安っぽい、いや高い音がどんなのかは知らないが、とにかくよく聞く効果音のような軽い感じでそれは相手の体を簡単に染めていった。申し訳ないという気持ちは一応あるので、事前にはほとんど水しか摂取していない。食事も抜いている。彼がその気遣いに気づいてくれるかは別として。
ふと、こんなにも彼のほとんどを奪ったというのに急に不安になってきた。なぜまだ目を覚まさないのだろう。実はもう起きてて、様子を伺っているのだろうか。もうその体で触っていない場所はないのに。それでも特別な人にはなれないのか。
口を開けて舌に一線。そこから落ちた一滴がうなじに落ちた。ああ、なんて綺麗なんだろう。やはり血が一番だ。これが一番映える。憂鬱など吹き飛んでいくようだ。
胸に十字を切って、それを指先に垂らした。なんだか誓いのシーンみたいじゃないか? こんなことならもっと美しく部屋も飾り付けておけばよかったか。彼ならどんな花も似合っただろう。指輪を買う金があれば、それを血で染めてプレゼントをしたかった。でももうそれは叶わないから、今は自分自身を受け取ってほしい。もっと、もっとあげられる。沢山、温めてあげる。
薬指にぐるりと刃を巻き付けて、指先を握ってみた。もう血に塗れてよく見えなかったけど、体温が一度上がるように気分が良くなった。好きだったけど、そんな結ばれたいとかそんな感じじゃなくて、ただ一度自分を認識してくれれば……人として仲良くなれたら、そんな程度しか思っていなかったのに。本当はもっと深く愛していたのかもしれない。大丈夫、来世で結ばれたいなんて祈らない。この関係はここで終わらせてあげる。だから貴方の意思が関係なくても、体だけでも受け取ってくれないか。全てを捧げるから。
染まった体に手を這わせて滑らせる。なめらかで、全てを忘れてしまうほど気持ちがいい。指の隙間や髪の間も、細かいところまで丁寧に塗りこめる。愛おしいという感情だけになって、心が満たされていた。これ以上幸福な時などないのではと思うほど。暖かい涙と血の海は、ずっと浸かっていたいほど心地良い。
「愛してる……愛して、る……」
貴方を、この空間を、この時間を、この行為を全て総合して愛おしい。一つが崩れたらなくなってしまいそうなほど繊細なバランス。それなのにこの安堵感。どうなっているか分からない。ただただ幸せだ。
体がぐらついた。目が霞んできて、床にべちゃりと手をついた。まずい。思ったより早かった。
こんな中途半端な状態ではダメだ。だって全てを捧げると誓って……。貴方にこの目も、耳も口も手も全てを何もかも、受け取って……貰わなければ、完成しないじゃないか。ちゃんと壊さないと後悔で蘇ってしまうかもしれないじゃないか。悪霊になんてなりたくない。永遠に彷徨うだけなんて生き地獄じゃないか。あれ? 死んでるのか? じゃあ何だ。
とにかく、心臓だけは。なんとなく一番神聖ぽい場所だけは捧げたい。でもこんな小さなカミソリでそこまで届くだろうか。今から包丁を持ってくるべきか……。
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