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レイラの薔薇
クライヴの帰国
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翌日。
今日も授業終わりにリラはクライヴの元に訪れた。
昨日、婚約を承諾はしたものの、正式に婚約するには婚約証書の発行が必要である。
それには両家の当主と婚約する当人のサインが必要なのであった。
その前にリラの父である当主であるアリエス伯爵への報告、クライヴの両親であるアクイラ国皇への挨拶、そして両家の顔合わせが必要だろう。
アリエス伯爵はクライヴのことを既に知っているようだが、リラ自身からきちんと報告を行いたかった。
口約束での婚約は行ったものの、正式な婚約までの道程は長かった。
今日はそのことについてクライヴときちんと相談したいと思っていたのだった。
また、クライヴは一時的にアベリア国に滞在している身である。
帰国目処などの詳しい予定も訊かなければならなかった。
そう思うものの、クライヴは先日のレベッカの一件で今日も不在だった。
リラは雑務をこなしながらデイビッドに尋ねた。
「デイビッド様。クライヴ様、今日も遅いですね。」
「はい。今日は急に呼び出しがあったんですよね。ユングフラウ侯爵家の処遇についてかなり揉めているようです。」
「そうですか…。(そういえば、ロイド様は今日も学園をお休みしていたな…。)」
皇家に次いで権力のあるユングフラウ侯爵家である。
処遇を容易く決めることなど難しいのだろう。
とはいえ、今リラが婚約に向けてできることを進めるしかないのだ。
「デイビッド様。クライヴ様から婚約に必要な書類などの手配って何か言伝られておりませんか。」
「あー。それでしたら…。」
デイビッドが言いかけると、窓から馬車が屋敷に着くのが見えた。
「あとはご本人に聞いてみてください。」
デイビッドはにっこり笑って、玄関ホールに向かうリラを送り出した。
「クライヴ様。お帰りなさい。」
「ただいま。」
リラは以前のようにクライヴに駆け寄り出迎えた。
クライヴは当たり前のようにリラを抱きしめ唇を重ねた。
やはり、何度されても人前では恥ずかしかった。
けれど、リラは昨日、婚約を承諾したこともあり以前より心は晴れやかだった。
クライヴの着替えが終わると、ふたりは執務室のソファに腰掛けた。
「クライヴ様。正式な婚約に向けて今後の予定についてご相談したいのですが…。」
リラは膝に手を置き、姿勢を正してクライヴに向き直った。
クライヴは余程疲れたのか、足を組みタイを少し緩めながらリラの話を聞いていた。
「それなら問題ない。証書は既に発行されている。あとは各人のサインを貰えば証書のできあがりだ。」
リラは呆気に取られた。
まだ、アクイラ国皇にも挨拶は愚か、人生で一度も目にしたことさえもないのに、婚約証書が既に発行されているなんて夢にも思わなかった。
「父とは以前からリラとしか結婚はしないと話していてね。既に承諾を得ている。」
「そ、そうなんですか…。」
リラはそう言われても未だに信じられず目を丸くしていた。
「帰国は三日後だ。」
そんなリラの顔を他所にクライヴは続けた。
「み、三日後!?」
リラは我に帰り目を丸くしていると、クライヴはリラの手を取り言葉を続けた。
「アリエス伯爵家に寄りつつ、アクイラ国に帰国しようと思う。リラ、一緒にアクイラ国に来て欲しい。」
リラは思考を巡らせた。
学園への休暇の連絡に、父への帰宅の書状、それに長期外泊の荷造りなどやることは盛りだくさんだ。
本来なら一週間前には話してほしいものだが、自分が婚約の承諾を渋ったことが大きく影響しているだろうから文句など言えなかった。
また、この機会を逃すと正式な婚約は大きく遠のくだろう。
「わかりました…。」
「ありがとう…。」
クライヴは安堵したように優しく微笑み、リラの額に口付けを落とした。
「ところで、なぜ、婚約指輪つけてない?」
クライヴはにっこり笑いながらリラの左手を優しく撫でた。
この笑顔ではあるが、どこか威圧的な感じには覚えがあった。(※第32話『クライヴの提案』参照。)
(怒ってます…?)
「えっと正式な婚約はまだですので、学園ではちょっと、は、恥ずかしくて…。それに、あんな大切なもの無くしたり、壊したらと恐ろしくて…。」
「ふーん…。」
リラは恐る恐る正直にそう答えたものの、クライヴは納得いかないようにリラの薬指を撫で回した。
リラは努めて笑顔でその様子を見守っていると、クライヴはニヤリッと笑い、途端に薬指に強く吸い付いた。
リラに、今までの痣を付けられた首筋よりも鋭い痛みが走った。
「いっ…。」
リラから思わず言葉が漏れた。
クライヴは暫く吸い付くと、できあがった紅痣を満足そうに見つめ、舌先で舐めあげた。
☆ ☆ ☆
三日後。
予定通り、アリエス領に向かう馬車の中でクライヴはリラを膝に乗せ肩に顔を埋めていた。
先日、ふたりで作った香水の香りを確かめているのだろう。
「良い香り。唆るね…。」
甘く耳元で囁きながら、クライヴは終始そんな調子であった。
一方のリラはというと、クライヴの猛攻を必死で無視しながら、アクイラ国の歴史や法律などの書籍を読み漁っていたのだった。
「クライヴ様、集中できません…。」
リラとしては突然の婚約だ。
それも、皇族と。
そして、異国のだ。
アクイラ国皇の御前でみっともない姿を少しでも晒したら、クライヴにも恥をかかせるどころか婚約が破談になるやもしれない。
そう思うと少しでも知識をつけずにはいられず、車内で書籍を読み漁っていたのだった。
けれど、クライヴはリラの言葉など全く聞き入れる気もなく、リラの首元に口付けを何度も落とした。
「向こうについたら忙しくリラとこうしている時間などないんだ…。」
確かにクライヴの言うことも一理あった。
クライヴは久々の帰国なのだ。
やるべき仕事が山積みだろう。
加えて、婚約発表の準備などもあるのだ。
忙しいことは目に見えていた。
それにリラもアクイラ国へ向かうことを承諾したものの、一時的な滞在だ。
自領での引き継ぎの書類をまとめたり、相談をしたりとやるべきことは沢山あった。
それに、アベリア学園の卒業式には出席するためにも帰国は免れなかった。
そのため、アクイラ国皇に挨拶を済ませたら蜻蛉返りするつもりだった。
そんなクライヴはリラの気持ちを見透かし、今から名残惜しいのか。
それともただ単に愛しいリラに甘えたいだけなのだろうか。
まだ昼間にもなっていないのに、アクセル全開でリラにべったりしていた。
「わ、わかりました。それなら、お話しましょう。」
クライヴの猛攻に根負けしたリラは、手元の書籍を閉じた。
「お話?」
クライヴは納得いかないように訝しげな表情を浮かべた。
「そうです。クライヴ様が私とどうして逢ったのか、教えていただけませんか。」
リラはは、頬を染めながらクライヴにそう告げた。
まだ昼前だ、このままクライヴの思惑通りにいちゃいちゃしていては、堕落した人間になってしまう。
真面目なリラはそう思い、会話することを選んだのだ。
クライヴは少し考え込んだ表情を浮かべた。
「アリエス領に行けばわかると思うが…。」
その言葉を受けてリラの頭に疑問符が浮かんだ。
(それなら、なんで、今までクライヴ様のことを知らなかったのだろう。)
リラは領民とはとても仲が良く、誰と誰が恋仲だなどという小さな噂話でさえ気軽に教えてくれるのだ。
それなのに、この美貌の皇子の話は一度も聞いたことがなかった。
「明日の夕刻には、アリエス領に着くだろう。それまでのお楽しみにしておこう。」
クライヴは、そういうとリラを後ろから強く抱きしめ、また首筋に口付けを落とすのだった。
今日も授業終わりにリラはクライヴの元に訪れた。
昨日、婚約を承諾はしたものの、正式に婚約するには婚約証書の発行が必要である。
それには両家の当主と婚約する当人のサインが必要なのであった。
その前にリラの父である当主であるアリエス伯爵への報告、クライヴの両親であるアクイラ国皇への挨拶、そして両家の顔合わせが必要だろう。
アリエス伯爵はクライヴのことを既に知っているようだが、リラ自身からきちんと報告を行いたかった。
口約束での婚約は行ったものの、正式な婚約までの道程は長かった。
今日はそのことについてクライヴときちんと相談したいと思っていたのだった。
また、クライヴは一時的にアベリア国に滞在している身である。
帰国目処などの詳しい予定も訊かなければならなかった。
そう思うものの、クライヴは先日のレベッカの一件で今日も不在だった。
リラは雑務をこなしながらデイビッドに尋ねた。
「デイビッド様。クライヴ様、今日も遅いですね。」
「はい。今日は急に呼び出しがあったんですよね。ユングフラウ侯爵家の処遇についてかなり揉めているようです。」
「そうですか…。(そういえば、ロイド様は今日も学園をお休みしていたな…。)」
皇家に次いで権力のあるユングフラウ侯爵家である。
処遇を容易く決めることなど難しいのだろう。
とはいえ、今リラが婚約に向けてできることを進めるしかないのだ。
「デイビッド様。クライヴ様から婚約に必要な書類などの手配って何か言伝られておりませんか。」
「あー。それでしたら…。」
デイビッドが言いかけると、窓から馬車が屋敷に着くのが見えた。
「あとはご本人に聞いてみてください。」
デイビッドはにっこり笑って、玄関ホールに向かうリラを送り出した。
「クライヴ様。お帰りなさい。」
「ただいま。」
リラは以前のようにクライヴに駆け寄り出迎えた。
クライヴは当たり前のようにリラを抱きしめ唇を重ねた。
やはり、何度されても人前では恥ずかしかった。
けれど、リラは昨日、婚約を承諾したこともあり以前より心は晴れやかだった。
クライヴの着替えが終わると、ふたりは執務室のソファに腰掛けた。
「クライヴ様。正式な婚約に向けて今後の予定についてご相談したいのですが…。」
リラは膝に手を置き、姿勢を正してクライヴに向き直った。
クライヴは余程疲れたのか、足を組みタイを少し緩めながらリラの話を聞いていた。
「それなら問題ない。証書は既に発行されている。あとは各人のサインを貰えば証書のできあがりだ。」
リラは呆気に取られた。
まだ、アクイラ国皇にも挨拶は愚か、人生で一度も目にしたことさえもないのに、婚約証書が既に発行されているなんて夢にも思わなかった。
「父とは以前からリラとしか結婚はしないと話していてね。既に承諾を得ている。」
「そ、そうなんですか…。」
リラはそう言われても未だに信じられず目を丸くしていた。
「帰国は三日後だ。」
そんなリラの顔を他所にクライヴは続けた。
「み、三日後!?」
リラは我に帰り目を丸くしていると、クライヴはリラの手を取り言葉を続けた。
「アリエス伯爵家に寄りつつ、アクイラ国に帰国しようと思う。リラ、一緒にアクイラ国に来て欲しい。」
リラは思考を巡らせた。
学園への休暇の連絡に、父への帰宅の書状、それに長期外泊の荷造りなどやることは盛りだくさんだ。
本来なら一週間前には話してほしいものだが、自分が婚約の承諾を渋ったことが大きく影響しているだろうから文句など言えなかった。
また、この機会を逃すと正式な婚約は大きく遠のくだろう。
「わかりました…。」
「ありがとう…。」
クライヴは安堵したように優しく微笑み、リラの額に口付けを落とした。
「ところで、なぜ、婚約指輪つけてない?」
クライヴはにっこり笑いながらリラの左手を優しく撫でた。
この笑顔ではあるが、どこか威圧的な感じには覚えがあった。(※第32話『クライヴの提案』参照。)
(怒ってます…?)
「えっと正式な婚約はまだですので、学園ではちょっと、は、恥ずかしくて…。それに、あんな大切なもの無くしたり、壊したらと恐ろしくて…。」
「ふーん…。」
リラは恐る恐る正直にそう答えたものの、クライヴは納得いかないようにリラの薬指を撫で回した。
リラは努めて笑顔でその様子を見守っていると、クライヴはニヤリッと笑い、途端に薬指に強く吸い付いた。
リラに、今までの痣を付けられた首筋よりも鋭い痛みが走った。
「いっ…。」
リラから思わず言葉が漏れた。
クライヴは暫く吸い付くと、できあがった紅痣を満足そうに見つめ、舌先で舐めあげた。
☆ ☆ ☆
三日後。
予定通り、アリエス領に向かう馬車の中でクライヴはリラを膝に乗せ肩に顔を埋めていた。
先日、ふたりで作った香水の香りを確かめているのだろう。
「良い香り。唆るね…。」
甘く耳元で囁きながら、クライヴは終始そんな調子であった。
一方のリラはというと、クライヴの猛攻を必死で無視しながら、アクイラ国の歴史や法律などの書籍を読み漁っていたのだった。
「クライヴ様、集中できません…。」
リラとしては突然の婚約だ。
それも、皇族と。
そして、異国のだ。
アクイラ国皇の御前でみっともない姿を少しでも晒したら、クライヴにも恥をかかせるどころか婚約が破談になるやもしれない。
そう思うと少しでも知識をつけずにはいられず、車内で書籍を読み漁っていたのだった。
けれど、クライヴはリラの言葉など全く聞き入れる気もなく、リラの首元に口付けを何度も落とした。
「向こうについたら忙しくリラとこうしている時間などないんだ…。」
確かにクライヴの言うことも一理あった。
クライヴは久々の帰国なのだ。
やるべき仕事が山積みだろう。
加えて、婚約発表の準備などもあるのだ。
忙しいことは目に見えていた。
それにリラもアクイラ国へ向かうことを承諾したものの、一時的な滞在だ。
自領での引き継ぎの書類をまとめたり、相談をしたりとやるべきことは沢山あった。
それに、アベリア学園の卒業式には出席するためにも帰国は免れなかった。
そのため、アクイラ国皇に挨拶を済ませたら蜻蛉返りするつもりだった。
そんなクライヴはリラの気持ちを見透かし、今から名残惜しいのか。
それともただ単に愛しいリラに甘えたいだけなのだろうか。
まだ昼間にもなっていないのに、アクセル全開でリラにべったりしていた。
「わ、わかりました。それなら、お話しましょう。」
クライヴの猛攻に根負けしたリラは、手元の書籍を閉じた。
「お話?」
クライヴは納得いかないように訝しげな表情を浮かべた。
「そうです。クライヴ様が私とどうして逢ったのか、教えていただけませんか。」
リラはは、頬を染めながらクライヴにそう告げた。
まだ昼前だ、このままクライヴの思惑通りにいちゃいちゃしていては、堕落した人間になってしまう。
真面目なリラはそう思い、会話することを選んだのだ。
クライヴは少し考え込んだ表情を浮かべた。
「アリエス領に行けばわかると思うが…。」
その言葉を受けてリラの頭に疑問符が浮かんだ。
(それなら、なんで、今までクライヴ様のことを知らなかったのだろう。)
リラは領民とはとても仲が良く、誰と誰が恋仲だなどという小さな噂話でさえ気軽に教えてくれるのだ。
それなのに、この美貌の皇子の話は一度も聞いたことがなかった。
「明日の夕刻には、アリエス領に着くだろう。それまでのお楽しみにしておこう。」
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