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観劇
クライヴの忠告
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レベッカはリラの表情を見るとニヤリッと笑い、これみよがしに自分の胸にクライヴの腕を押し当てた。
「あら。リラ様、ごきげんよう。私たち、これから一等ボックス席で劇の観賞をいたしますの。」
レベッカは顔をクライヴの腕に寄せながら、震えるリラに向かって嫌らしい笑みを浮かべながらそう告げた。
ギリッ。
クライヴは今までにないほどの怒りが込み上げ奥歯を噛み締めた。
「離せ。」
クライヴは、見たこともないリラの悲痛な表情に何時になく焦っていた。
目の前の愛しい女性が自分の失態のせいで、今にも泣き崩れそうなほどに悲痛な表情を浮かべているのだ。
今すぐにでも、この手で愛する女性を抱きしめたい。
クライヴはそう思って仕方がなかったが、このふしだらに身を寄せる令嬢に手を上げることもできなかった。
クライヴは一国の皇子である、大衆の面前で女性に暴力など振るうことはできない。
理想はレベッカ自身から離れるか、父であるユングフラウ侯爵の手で引き剥がされるかのどちらかだった。
しかし、レベッカは全く空気を読まずに全く離れようともせず、ユングフラウ侯爵も謀ったかのように穏やかな表情を浮かべていた。
「痛っ。すみません。クライヴ様。足を挫いてしまったようですわ。」
レベッカは、クライヴの言葉に怯むことなく嫌らしくも猫撫で声で甘えてきた。
「ユングフラウ侯爵、悪ふざけが過ぎるのではないか。この娘に俺から離れるように言ってもらえないだろうか。」
クライヴはレベッカの意を返さない言動に怒りが増し、真っ紅に燃えるような瞳で鋭くユングフラウ侯爵を睨みつけた。
そのあまりの威圧感に、ユングフラウ侯爵は一瞬にして顔が引き攣ったものの、今度はレベッカにも淑女とは到底思えないほどの形相で睨みつけられるのだった。
「クライヴ様。私、足が痛くて一人では歩けそうにございませんわ。」
再びレベッカがクライヴの胸元に手を伸ばしながら嫌らしく擦り寄ってきた。
「すみません、殿下。もしよろしければ、このまま、二階まで娘をエスコートいただけますか。」
ユングフラウ侯爵は全身がぐっしょりするほどに冷や汗を滴らしながらクライヴにそう頼むも、クライヴは一層にユングフラウ侯爵を睨みつけ威圧感が増す一方だった。
「ふざけるのも大概にしろよ。」
クライヴがいつになくドスの効いた声でユングフラウ侯爵にそう忠告した。
「レベッカ、私の腕を貸すから…。」
ユングフラウ侯爵はクライヴの威圧感に耐えらなくなり、慌てて娘を宥めようした。
「あ、いったーい…。」
しかし、レベッカは一歩も退かず、リラに見せつけるようにクライヴに端なく上目遣いで訴えるのだった。
リラは、この状況がクライヴの意図したものでないことは理解していた。
クライヴにその気がなく、レベッカが無理強いしていることは誰の目にも明らかだった。
それでも、自分の目の前で、自分以外の女性がクライヴに抱きついている姿など悍ましくてたまらなかった。
そして、この状況を目の当たりにしているにも関わらず、自分が何の意見をする立場でないことが辛く、悲しく、虚しかった。
リラはただの田舎の伯爵家の令嬢、一方のレベッカはアベリア国で有力な上流貴族であるユングフラウ侯爵家の令嬢だ。
身分の差はあきらかだ。
そして、クライヴとの関係も所詮、『恋人』でしかなかった。
婚姻関係にあるか、婚約者でなければ公的には何の意味もないのだ。
(嫌…。)
リラは心の中でそう叫ぶのが精一杯だった。
「ねえ。リラ様なんて、どうでもいいじゃないですか。どうせ、婚約者でも何でもないんでしょう。」
そんなリラの心を見透かすように、レベッカがそう言うとリラは思わず一雫の涙を零した。
リラが一番よくわかっていた。
自分は婚約者でもない。
ただの恋人であり、子供の飯事のようなものだ。
今日、本当にクライヴがリラに黙ってレベッカと見合いを行っていたからと言って意見ができる権利など何処にもないのだ。
(こんなことなら、早々に婚約してしまえば良かった…。)
そう思うと、リラの青緑色の瞳から止めどもなく涙が溢れ、リラは居ても立ってもいられなくなり、その場を逃げるように走り去っていった。
「何よ。私が悪者みたいじゃない。」
走り去るリラの後ろ姿にレベッカは吐き捨てるようにそう言った。
「離せ。」
クライヴは震えながら、見たこともないほどの悍ましい表情でレベッカを見入った。
レベッカは一瞬その表情に気圧されたが、リラという邪魔者が消えた今、退くことなどできなかった。
ここで引きずってでも、席にクライヴを連れ込めばレベッカの勝利は約束されているのだ。
レベッカはそう思い、一歩も退くことはなかった。
「デイビッド。」
クライヴは、レベッカのその様子を確認するとデイビッドを呼びつけた。
デイビッドはすぐさま駆け寄り、レベッカの両手を取り押さえ、クライヴから剥がした。
「痛い。何するのですか。」
レベッカは慌ててそう訴えた。
「正当防衛ですよ。何度もユングフラウ侯爵令嬢に離れるように忠告したではございませんか。それでも、ユングフラウ侯爵令嬢は離れなかった。殿下は、自分に危害を加えられる身を案じ、私に警護を頼んだだけのことですよ。暫く大人しくしていてください。すいません、どなたか警備員を呼んでいただけますか。」
デイビッドはそう言いながらレベッカの両手を背中に回させ身動きが取れないようにした。
「こんなか弱い女性が、クライヴ様にどんなことをするというのです。」
「はいはい。そう言って殿下に近づくご令嬢は今まで数多く見てきましたので。」
レベッカがデイビッドに抗議するも、デイビッドは慣れた手つきでまったく気にする様子がなかった。
「ありがとう。後は頼んだ。」
クライヴはデイビッドに礼を言うとその場を後にした。
★ ★ ★
時間は少し戻り、リラがひとり玄関ホールに向かった、その頃。
取り残された四人は、リラの今までに見たことのない曇った表情に不安を隠せなかった。
「リラ様、大丈夫かしら…。」
クリスティーヌがそう呟いた。
「私たちも向かいましょう…。」
アビーはそういうと四人はリラの後を追うように玄関ホールに向かった。
ロイドは気づいていた。
(あの声はおそらくアクイラ国皇子だろう。)
(それにしても、あの怒号は一体…?何か揉め事だろうか。)
クライヴは国賓としてアベリア国に滞在している。
もし、その身に何かあれば国際問題に発展するかもしれない。
(なんとか穏便にことを済ませられればいいのだが…。)
ロイドは手に汗を握った。
四人が玄関ホールに着くと、人だかりができていた。
仕方なくロイドが割って入ろうとすると周囲の客はロイドに気づき道を開けていった。
四人が人だかりの最前面に着くと目の当たりにしたのは、嫌がるクライヴにレベッカがしがみついている姿だった。
クライヴは、ものすごい形相で何度も離すように訴えているがレベッカは全く聞き入れようとしなかった。
この場の誰しもが仲裁に入った方がいいのはわかっているが、相手がユングフラウ侯爵家という立場に気後れしているのだろう。
(ここは自分がなんとかしなければ…。)
ロイドはそう思うものの言葉がでなかった。
ロイドは皇子である、ここで最も身分が高く、仲裁に入るには適任なのだろう。
けれど、ロイドもクライヴの険悪な表情に気圧され言葉が出なかった。
そうこうしていると、リラが大粒の涙を流しながら走り去っていくではないか。
ロイドは一も二もなく慌ててリラを追いかけた。
「あら。リラ様、ごきげんよう。私たち、これから一等ボックス席で劇の観賞をいたしますの。」
レベッカは顔をクライヴの腕に寄せながら、震えるリラに向かって嫌らしい笑みを浮かべながらそう告げた。
ギリッ。
クライヴは今までにないほどの怒りが込み上げ奥歯を噛み締めた。
「離せ。」
クライヴは、見たこともないリラの悲痛な表情に何時になく焦っていた。
目の前の愛しい女性が自分の失態のせいで、今にも泣き崩れそうなほどに悲痛な表情を浮かべているのだ。
今すぐにでも、この手で愛する女性を抱きしめたい。
クライヴはそう思って仕方がなかったが、このふしだらに身を寄せる令嬢に手を上げることもできなかった。
クライヴは一国の皇子である、大衆の面前で女性に暴力など振るうことはできない。
理想はレベッカ自身から離れるか、父であるユングフラウ侯爵の手で引き剥がされるかのどちらかだった。
しかし、レベッカは全く空気を読まずに全く離れようともせず、ユングフラウ侯爵も謀ったかのように穏やかな表情を浮かべていた。
「痛っ。すみません。クライヴ様。足を挫いてしまったようですわ。」
レベッカは、クライヴの言葉に怯むことなく嫌らしくも猫撫で声で甘えてきた。
「ユングフラウ侯爵、悪ふざけが過ぎるのではないか。この娘に俺から離れるように言ってもらえないだろうか。」
クライヴはレベッカの意を返さない言動に怒りが増し、真っ紅に燃えるような瞳で鋭くユングフラウ侯爵を睨みつけた。
そのあまりの威圧感に、ユングフラウ侯爵は一瞬にして顔が引き攣ったものの、今度はレベッカにも淑女とは到底思えないほどの形相で睨みつけられるのだった。
「クライヴ様。私、足が痛くて一人では歩けそうにございませんわ。」
再びレベッカがクライヴの胸元に手を伸ばしながら嫌らしく擦り寄ってきた。
「すみません、殿下。もしよろしければ、このまま、二階まで娘をエスコートいただけますか。」
ユングフラウ侯爵は全身がぐっしょりするほどに冷や汗を滴らしながらクライヴにそう頼むも、クライヴは一層にユングフラウ侯爵を睨みつけ威圧感が増す一方だった。
「ふざけるのも大概にしろよ。」
クライヴがいつになくドスの効いた声でユングフラウ侯爵にそう忠告した。
「レベッカ、私の腕を貸すから…。」
ユングフラウ侯爵はクライヴの威圧感に耐えらなくなり、慌てて娘を宥めようした。
「あ、いったーい…。」
しかし、レベッカは一歩も退かず、リラに見せつけるようにクライヴに端なく上目遣いで訴えるのだった。
リラは、この状況がクライヴの意図したものでないことは理解していた。
クライヴにその気がなく、レベッカが無理強いしていることは誰の目にも明らかだった。
それでも、自分の目の前で、自分以外の女性がクライヴに抱きついている姿など悍ましくてたまらなかった。
そして、この状況を目の当たりにしているにも関わらず、自分が何の意見をする立場でないことが辛く、悲しく、虚しかった。
リラはただの田舎の伯爵家の令嬢、一方のレベッカはアベリア国で有力な上流貴族であるユングフラウ侯爵家の令嬢だ。
身分の差はあきらかだ。
そして、クライヴとの関係も所詮、『恋人』でしかなかった。
婚姻関係にあるか、婚約者でなければ公的には何の意味もないのだ。
(嫌…。)
リラは心の中でそう叫ぶのが精一杯だった。
「ねえ。リラ様なんて、どうでもいいじゃないですか。どうせ、婚約者でも何でもないんでしょう。」
そんなリラの心を見透かすように、レベッカがそう言うとリラは思わず一雫の涙を零した。
リラが一番よくわかっていた。
自分は婚約者でもない。
ただの恋人であり、子供の飯事のようなものだ。
今日、本当にクライヴがリラに黙ってレベッカと見合いを行っていたからと言って意見ができる権利など何処にもないのだ。
(こんなことなら、早々に婚約してしまえば良かった…。)
そう思うと、リラの青緑色の瞳から止めどもなく涙が溢れ、リラは居ても立ってもいられなくなり、その場を逃げるように走り去っていった。
「何よ。私が悪者みたいじゃない。」
走り去るリラの後ろ姿にレベッカは吐き捨てるようにそう言った。
「離せ。」
クライヴは震えながら、見たこともないほどの悍ましい表情でレベッカを見入った。
レベッカは一瞬その表情に気圧されたが、リラという邪魔者が消えた今、退くことなどできなかった。
ここで引きずってでも、席にクライヴを連れ込めばレベッカの勝利は約束されているのだ。
レベッカはそう思い、一歩も退くことはなかった。
「デイビッド。」
クライヴは、レベッカのその様子を確認するとデイビッドを呼びつけた。
デイビッドはすぐさま駆け寄り、レベッカの両手を取り押さえ、クライヴから剥がした。
「痛い。何するのですか。」
レベッカは慌ててそう訴えた。
「正当防衛ですよ。何度もユングフラウ侯爵令嬢に離れるように忠告したではございませんか。それでも、ユングフラウ侯爵令嬢は離れなかった。殿下は、自分に危害を加えられる身を案じ、私に警護を頼んだだけのことですよ。暫く大人しくしていてください。すいません、どなたか警備員を呼んでいただけますか。」
デイビッドはそう言いながらレベッカの両手を背中に回させ身動きが取れないようにした。
「こんなか弱い女性が、クライヴ様にどんなことをするというのです。」
「はいはい。そう言って殿下に近づくご令嬢は今まで数多く見てきましたので。」
レベッカがデイビッドに抗議するも、デイビッドは慣れた手つきでまったく気にする様子がなかった。
「ありがとう。後は頼んだ。」
クライヴはデイビッドに礼を言うとその場を後にした。
★ ★ ★
時間は少し戻り、リラがひとり玄関ホールに向かった、その頃。
取り残された四人は、リラの今までに見たことのない曇った表情に不安を隠せなかった。
「リラ様、大丈夫かしら…。」
クリスティーヌがそう呟いた。
「私たちも向かいましょう…。」
アビーはそういうと四人はリラの後を追うように玄関ホールに向かった。
ロイドは気づいていた。
(あの声はおそらくアクイラ国皇子だろう。)
(それにしても、あの怒号は一体…?何か揉め事だろうか。)
クライヴは国賓としてアベリア国に滞在している。
もし、その身に何かあれば国際問題に発展するかもしれない。
(なんとか穏便にことを済ませられればいいのだが…。)
ロイドは手に汗を握った。
四人が玄関ホールに着くと、人だかりができていた。
仕方なくロイドが割って入ろうとすると周囲の客はロイドに気づき道を開けていった。
四人が人だかりの最前面に着くと目の当たりにしたのは、嫌がるクライヴにレベッカがしがみついている姿だった。
クライヴは、ものすごい形相で何度も離すように訴えているがレベッカは全く聞き入れようとしなかった。
この場の誰しもが仲裁に入った方がいいのはわかっているが、相手がユングフラウ侯爵家という立場に気後れしているのだろう。
(ここは自分がなんとかしなければ…。)
ロイドはそう思うものの言葉がでなかった。
ロイドは皇子である、ここで最も身分が高く、仲裁に入るには適任なのだろう。
けれど、ロイドもクライヴの険悪な表情に気圧され言葉が出なかった。
そうこうしていると、リラが大粒の涙を流しながら走り去っていくではないか。
ロイドは一も二もなく慌ててリラを追いかけた。
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