4 / 60
成人の宴
ロイドの嫉妬(前編)
しおりを挟む
ロイドは驚愕し蒼ざめた。
隣にいたロイドの側近であるレナルドもまた唖然とし蒼ざめていた。
ロイドの目の前で、アベリア学園に入学してからの三年間、ずっとずっと心惹かれてきたリラがクライヴに話しかけられて、頬を染めながら楽しそうに話しているではないか。
クライヴは周囲に見せつけるように慣れ慣れしくリラの肩に手を置き、わざと耳元で何やら囁いている。
これでは、誰がどう見ても、恋人同士のような親密さだ。
(あんな人前で肩を振れるなど破廉恥にも程がある!)
ロイドは嫉妬と怒りのあまりに拳を強く握りしめ、唇を振るわせた。
ロイドは異性に対して奥手であることに加えて、リラの前では取り分け誠実な男性であるように努めていたため、あのように軽々しくリラに触れることなど考えられなかった。
本来のロイドは、もっと情欲的でありたいと願っていた。
リラに触れ…。
リラを抱きしめ…。
リラと唇を重ねる…。
幾度そのような妄想をしたことだろうか。
結果、それが拗れ、指先がほんの少し触れただけで、リラにふしだらに思われていないか、そんな不安が押し寄せる反面、リラの温もり感じ興奮が押さえられず、一瞬で赤面してしまうのだった。
そんなロイドでも堂々とリラに触れられることでできるのは、週に一度のダンスの授業だけだった。そんな貴重なダンスの授業もパートナーは毎度入れ替わるため、リラと踊ることは三ヶ月に一度がやっとだった。
つまり、ロイドはたった三ヶ月に一度しか堂々とリラの手を取ることができないのに、目の前のクライヴは最も容易くリラの肩に触れているのだ。
続いて、クライヴはリラが選んだデザートを美味しそうに食べているではないか。
たったそれだけだ。それでも、ロイドはこの三年間で、あんな瞬間が一度たりとあっただろうか。
ロイドは、学園で幾度となくリラを食事に誘ったことか。
「そのようなことをされますと、私とロイド様が親密な仲と勘違いされてご迷惑かかりませんか。」
「他のご令嬢からのお誘いが今まで以上に増えるかもしれませんよ。」
「うーん。ロイド様の婚約者候補に申し訳ないですわ。」
その全てはこんな言葉をもってして断られた。
一つ目の理由としては、一国の皇子であるロイドがひとりの令嬢を贔屓にすることはよくないと言いたいのだろう。
だが、ロイドはもちろん親密と勘違いされても構わないし、むしろ親密になりたいのだ。
リラは気づいていないが、優等生で心優しいリラは男性からとても人気があるのだ。親密という噂でも流れれば、そんな他のライバルたちに多少の牽制はできるというものである。
しかし、ロイドはリラに誠実な男性と思われたいあまり、執拗に誘うことを躊躇わさせた。
二つ目の理由としては、令嬢からの誘いが増えること。
一国の皇子であるロイドは常に様々な令嬢から晩餐はもちろん、昼食に観劇など様々な誘いを受けていた。そんな令嬢たちの誘いをロイドは、何かと理由をつけてやんわり断っていた。
しかし、もし、リラと食事に行ったことが知れ渡っては、他の令嬢からの食事を安易に断ることもできなくなるというものだ。
「なんで、リラ様だけ特別なのですか。」
令嬢たちからそのように問いただされるロイドが容易に目に浮かんだ。
バレなければ良いのだろう。ロイドはそう思うものの、なかなか尻込みさせる言葉ではあった。
三つ目の理由は、ロイドに婚約者候補が存在すること。その令嬢たちを差し置いて、リラがロイドと食事するなど烏滸がましいと思っているのだろう。
特に婚約者候補のひとりであり、同級生でもある、レベッカ・ユングフラウはリラに対してかなり当たりが強かった。もし、レベッカにバレればリラに嫌がらせをすることは目に見えていた。
この言葉を言われるとロイドはリラを想い、無理強いすることが憚られるのだ。
それにしても、ふたりの距離はやたら近く、何やら終始見つめ合っているではないか。
こんな異性に距離を取らずに頬を染め、恥じらう愛らしいリラなどロイドは今まで一度たりとも見たことがなかった。
リラは明るく優しく誰に対しても親切であるが、相手に対しては何処か壁があるように感じられた。
最初はロイドが皇子であるため、身分を重んじるリラの礼儀正しさからきているものかと思っていた。けれど、それは同級生の令息はもちろんのこと令嬢と話しているときもそうだった。
それはリラの癖なのか、令嬢として淑女として一歩下がり適切な距離を置いて相手に接していた。そんなリラがまた一段と上品で気高く感じられ、ロイドの心はくすぐった。
けれど本心では、やはり、このよに愛らしい姿を自分だけに見せてほしいと願っていた。
(羨ましい…。)
ロイドは羨望の眼差しをふたりに向け、胸が締め付けられた。
この三年間どのように過ごせばリラともっと親密になれたのだろうか。
ロイドはリラに相応しい誠実な皇子になるべく振る舞っていたが、もっと強引にでも誘えば、自分にもこのようなロマンチックな展開があったのだろうか。
そんなことを思うも、まさか突然現れた隣国の皇子にリラを一瞬にして奪われるなど誰が想像できただろうか。
(なぜ、このめでたい日に…。)
(なぜ、リラに喜んでもらおうとわざわざ準備したアベリアの間で…。)
(なぜ、リラに求婚しようと思っていた日に…。)
そして、ふたりの甘い雰囲気に追い風を受けるようにワルツが流れ出すではないか。
然も当然のようにクライヴはリラに手を差し出し、その手を見たリラの青緑色の瞳はキラキラと太陽に照らされるような湖面のように輝いているではないか。
(本来であれば、リラとのファーストダンスは、この自分であった筈だ!)
(なぜ、そこにいるのは自分ではないのだ!)
(リラのためにすべて用意したのは自分だと言うのに…。)
ロイドは、声をかける令嬢の声も、隣にいるレナルドの声も何聞こえず、震えながら、血走った目で、怒りに震えながら、ただただふたりを凝視していた。
隣にいたロイドの側近であるレナルドもまた唖然とし蒼ざめていた。
ロイドの目の前で、アベリア学園に入学してからの三年間、ずっとずっと心惹かれてきたリラがクライヴに話しかけられて、頬を染めながら楽しそうに話しているではないか。
クライヴは周囲に見せつけるように慣れ慣れしくリラの肩に手を置き、わざと耳元で何やら囁いている。
これでは、誰がどう見ても、恋人同士のような親密さだ。
(あんな人前で肩を振れるなど破廉恥にも程がある!)
ロイドは嫉妬と怒りのあまりに拳を強く握りしめ、唇を振るわせた。
ロイドは異性に対して奥手であることに加えて、リラの前では取り分け誠実な男性であるように努めていたため、あのように軽々しくリラに触れることなど考えられなかった。
本来のロイドは、もっと情欲的でありたいと願っていた。
リラに触れ…。
リラを抱きしめ…。
リラと唇を重ねる…。
幾度そのような妄想をしたことだろうか。
結果、それが拗れ、指先がほんの少し触れただけで、リラにふしだらに思われていないか、そんな不安が押し寄せる反面、リラの温もり感じ興奮が押さえられず、一瞬で赤面してしまうのだった。
そんなロイドでも堂々とリラに触れられることでできるのは、週に一度のダンスの授業だけだった。そんな貴重なダンスの授業もパートナーは毎度入れ替わるため、リラと踊ることは三ヶ月に一度がやっとだった。
つまり、ロイドはたった三ヶ月に一度しか堂々とリラの手を取ることができないのに、目の前のクライヴは最も容易くリラの肩に触れているのだ。
続いて、クライヴはリラが選んだデザートを美味しそうに食べているではないか。
たったそれだけだ。それでも、ロイドはこの三年間で、あんな瞬間が一度たりとあっただろうか。
ロイドは、学園で幾度となくリラを食事に誘ったことか。
「そのようなことをされますと、私とロイド様が親密な仲と勘違いされてご迷惑かかりませんか。」
「他のご令嬢からのお誘いが今まで以上に増えるかもしれませんよ。」
「うーん。ロイド様の婚約者候補に申し訳ないですわ。」
その全てはこんな言葉をもってして断られた。
一つ目の理由としては、一国の皇子であるロイドがひとりの令嬢を贔屓にすることはよくないと言いたいのだろう。
だが、ロイドはもちろん親密と勘違いされても構わないし、むしろ親密になりたいのだ。
リラは気づいていないが、優等生で心優しいリラは男性からとても人気があるのだ。親密という噂でも流れれば、そんな他のライバルたちに多少の牽制はできるというものである。
しかし、ロイドはリラに誠実な男性と思われたいあまり、執拗に誘うことを躊躇わさせた。
二つ目の理由としては、令嬢からの誘いが増えること。
一国の皇子であるロイドは常に様々な令嬢から晩餐はもちろん、昼食に観劇など様々な誘いを受けていた。そんな令嬢たちの誘いをロイドは、何かと理由をつけてやんわり断っていた。
しかし、もし、リラと食事に行ったことが知れ渡っては、他の令嬢からの食事を安易に断ることもできなくなるというものだ。
「なんで、リラ様だけ特別なのですか。」
令嬢たちからそのように問いただされるロイドが容易に目に浮かんだ。
バレなければ良いのだろう。ロイドはそう思うものの、なかなか尻込みさせる言葉ではあった。
三つ目の理由は、ロイドに婚約者候補が存在すること。その令嬢たちを差し置いて、リラがロイドと食事するなど烏滸がましいと思っているのだろう。
特に婚約者候補のひとりであり、同級生でもある、レベッカ・ユングフラウはリラに対してかなり当たりが強かった。もし、レベッカにバレればリラに嫌がらせをすることは目に見えていた。
この言葉を言われるとロイドはリラを想い、無理強いすることが憚られるのだ。
それにしても、ふたりの距離はやたら近く、何やら終始見つめ合っているではないか。
こんな異性に距離を取らずに頬を染め、恥じらう愛らしいリラなどロイドは今まで一度たりとも見たことがなかった。
リラは明るく優しく誰に対しても親切であるが、相手に対しては何処か壁があるように感じられた。
最初はロイドが皇子であるため、身分を重んじるリラの礼儀正しさからきているものかと思っていた。けれど、それは同級生の令息はもちろんのこと令嬢と話しているときもそうだった。
それはリラの癖なのか、令嬢として淑女として一歩下がり適切な距離を置いて相手に接していた。そんなリラがまた一段と上品で気高く感じられ、ロイドの心はくすぐった。
けれど本心では、やはり、このよに愛らしい姿を自分だけに見せてほしいと願っていた。
(羨ましい…。)
ロイドは羨望の眼差しをふたりに向け、胸が締め付けられた。
この三年間どのように過ごせばリラともっと親密になれたのだろうか。
ロイドはリラに相応しい誠実な皇子になるべく振る舞っていたが、もっと強引にでも誘えば、自分にもこのようなロマンチックな展開があったのだろうか。
そんなことを思うも、まさか突然現れた隣国の皇子にリラを一瞬にして奪われるなど誰が想像できただろうか。
(なぜ、このめでたい日に…。)
(なぜ、リラに喜んでもらおうとわざわざ準備したアベリアの間で…。)
(なぜ、リラに求婚しようと思っていた日に…。)
そして、ふたりの甘い雰囲気に追い風を受けるようにワルツが流れ出すではないか。
然も当然のようにクライヴはリラに手を差し出し、その手を見たリラの青緑色の瞳はキラキラと太陽に照らされるような湖面のように輝いているではないか。
(本来であれば、リラとのファーストダンスは、この自分であった筈だ!)
(なぜ、そこにいるのは自分ではないのだ!)
(リラのためにすべて用意したのは自分だと言うのに…。)
ロイドは、声をかける令嬢の声も、隣にいるレナルドの声も何聞こえず、震えながら、血走った目で、怒りに震えながら、ただただふたりを凝視していた。
0
お気に入りに追加
205
あなたにおすすめの小説

捨てられ聖女の私が本当の幸せに気付くまで
海空里和
恋愛
ラヴァル王国、王太子に婚約破棄されたアデリーナ。
さらに、大聖女として国のために瘴気を浄化してきたのに、見えない功績から偽りだと言われ、国外追放になる。
従者のオーウェンと一緒に隣国、オルレアンを目指すことになったアデリーナ。しかし途中でラヴァルの騎士に追われる妊婦・ミアと出会う。
目の前の困っている人を放っておけないアデリーナは、ミアを連れて隣国へ逃げる。
そのまた途中でフェンリルの呼びかけにより、負傷したイケメン騎士を拾う。その騎士はなんと、隣国オルレアンの皇弟、エクトルで!?
素性を隠そうとオーウェンはミアの夫、アデリーナはオーウェンの愛人、とおかしな状況に。
しかし聖女を求めるオルレアン皇帝の命令でアデリーナはエクトルと契約結婚をすることに。
未来を諦めていたエクトルは、アデリーナに助けられ、彼女との未来を望むようになる。幼い頃からアデリーナの側にいたオーウェンは、それが面白くないようで。
アデリーナの本当に大切なものは何なのか。
捨てられ聖女×拗らせ従者×訳アリ皇弟のトライアングルラブ!
※こちら性描写はございませんが、きわどい表現がございます。ご了承の上お読みくださいませ。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!


気絶した婚約者を置き去りにする男の踏み台になんてならない!
ひづき
恋愛
ヒロインにタックルされて気絶した。しかも婚約者は気絶した私を放置してヒロインと共に去りやがった。
え、コイツらを幸せにする為に私が悪役令嬢!?やってられるか!!
それより気絶した私を運んでくれた恩人は誰だろう?
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる