僕は君たちが好きではない

あつあつ

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第三話 ルカーチュ視点

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 「っはぁ.....」
 「やめてって言ったのに....」

 「ごめんね。でも、やめろっていう割に、君はもう一度口付けをして欲しそうな顔をしているよ?」

 「そ、そんな顔...してなっ.....!」
 僕がしてないと言おうとした時に、再び彼の口が僕の口を塞いだ。
 
 本当はこんなこと、してはいけない。そう思っていたのに、僕は彼を拒むことができなかった。




 セルと僕は四年前から密かに付き合っていた。
 誰にもいうことはなかった。
 いえるわけがない。
 だって、セルには婚約者がいるから。

 彼の婚約者は、この国でもそれなりに有名な侯爵家の1人娘だ。
 小柄で、薄紫色の天然パーマが大きな硝子玉のような、水色の瞳によく似合う。社交界でも有名なご令嬢。
 そんな彼が、僕のことが好きだと告白したのは五年前のこと。
 



 5年前

 「俺はルカと初めて出会った10年前から、ずっと君のことが恋愛対象として、好きだったんだ!」
 「どうか、俺と付き合ってほしい。」

 「...は?ちょ、ちょっと、待って。何言ってるの?僕のことを好き...だって?それに...付き合ってだって!?君には婚約者がいるだろ!?」
 「じょ、冗談も程々にしてくれよ....あはは...」
 彼の急な告白に、僕は一度思考が停止した後、彼の言ったことは冗談だった。ということで終わらせようと考え、彼を茶化した。

 「...冗談じゃ、ないよ。俺はルカのことが、本気で好きなんだ。」
 彼の真剣な眼差しから、僕は顔をぱっと背ける。

 「いや、だから...セルには婚約者がいて...」

 「だったら、俺は彼女と婚約を破棄するよ。そうすれば、ルカと付き合えるだろ?」

 「はぁ!?そんなこと、許されるわけないだろ!浮気相手と付き合うために婚約を破棄したなんて社交界に知られたら、君のご両親の事業に悪影響が及ぶ!!」
 彼の発言に思わず大きな声を出してしまった。
 「その場しのぎで、変なことを言うもんじゃないよ...僕は、何も聞かなかった。君も、何も言わなかった。これで終わらそうよ...ね?」

 「.......」
 彼は下を向いて黙ってしまった。
 ぽたっ...ぽたっ...
 震える彼の手に、雫が落ちていくのが見える。
 彼は泣いていた。
 声を出さずに、何かを堪えるように手をぎゅと握りしめて、静かに涙を流していた。

 「...セル?」
 「えっ、ど、どうしたの...?大丈夫......?」
 どんなに派手に転んでも、気に入っていた物が壊れても、決して泣かなかった彼が泣いているのをみて、僕はどうすればいいのか分からず、彼の背中をさすりながら尋ねる。

 「...俺は.............すれ...ば....いい..?」
 震えた声で彼がボソボソと何か言った。

 「...え?ごめん。あまり聞こえなかった。もう一度言ってくれる?」

 「...っ俺は...君に振られた挙句、告白を...無かったことにされて....これから俺は、どう君に接すればいい....?」
 言葉につまりながら、彼は顔を上げて僕に尋ねてきた。
 その顔は、ハンサムとご令嬢にもてはやされているとは思えないほど、涙でベシャベシャになっていた。 まるで捨てられた子犬のようで、普通は絶対に見ることのない彼の顔に少し戸惑った。

 「え...そ、それは...今まで通り、友達でいよう。」

 「君は...告白をしてきた相手と友達でいられるの...?」

 「そ、それは...勿論...」
 一瞬、言葉に詰まってしまった。
 だって、告白をしたってことは、僕に対して下心があるわけだから、一緒にいて何も無い訳がない。と、思ったから。

   「俺は、この告白が取り消された後に、気まずい関係が続くのであれば、告白を受け入れてもらい、ルカが俺をフッた後に、縁を切りたいと思う。」
 「...そうすれば、俺は君のことを完全に諦めることができる。」

 「え、そ、それはダメだよ!!」

 「...どうして?」
 赤く腫れ上がった彼の目が僕をみつめる。

 「ど、どうしてって...それは...」
 咄嗟にダメと言ったけれど、なぜ、そういったのかが分からなくて、黙り込む。

 「もしかして...ルカも僕が好きなのかい?」

 「は、はぁ!?そ、そんな訳...ないだろ!!」

 「ははっ。だよね。」
 冗談を言う彼は笑っているけれども、とても悲しそうに見える。
 「じゃあ...何故?」

 「それは...分からない。でも、僕は君と離れたくはない。今まで通りたくさん遊びたい。」

 「...ごめんね。意地悪して。俺が悪かったよ。これまで通り、仲良くしよう。」

 「...うん。わかった。」

 「あぁ...そうだ、俺が手出さない保証はないから、気をつけてね。」
 そう言うと彼は、僕の手をそっと握る。

 びっくりして繋がれた手を勢いよく振り払い、顔を真っ赤にして僕は立ち上がる。
 「うわぁ!な、なんだよいきなり!そんな冗談言ってる余裕があるんだな...」

 「あははっ 余裕なんてないよ。ないから、こうして冗談を言わないとやってられないんだ。」

 「...そっか。」
 彼は冗談のつもりで言ったのだろうけど、2人の間に冷たい空気が通り抜ける。沈黙が気まずい。

 「...だから、気にしなくてもいいよ。」

 「うん....」



微妙な空気の中、お開きとなり僕たちは家に帰った。
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