54 / 61
2010年作品
UFO
しおりを挟む先週の英語のテスト、採点されて、今、返って来た。
なむあみだぶつ……
がっくりと落ち込んでいる俺の後ろで、幼稚園からの親友の祐次のヤツ、なぜか平然としてやがる。
いつも俺とどっこいどっこいの成績のヤツが、すまし顔なんて、信じられるか?
「なんだよ! お前、今回成績よかったのかよ?」
でも、祐次のヤツ、だまって、手元の解答用紙を俺に差し出してくる。
ん? 俺より五点下。 全然いい点数じゃない。
いつもなら、こんな点数を取れば、俺以上に大騒ぎして、嘆き悲しむくせに、今日に限って、なぜコイツは平然としていられるんだ?
「なにかいいことでもあったか? だれかにコクられたとか? それとも家族がみんな旅行中?」
だが、祐次は首を振るばかり。
なんなんだ、一体……
「実は俺な、昨日も見かけたんだ」
休み時間になり、早速問い詰めた。すると、しぶしぶという感じで話し始めた。
「なにをって、ほら、いつも俺が見かけるヤツ」
ハハァ~ンと気がついたのだが、それと祐次がテストの成績に平然としていられるわけとのつながりが……?
俺の困惑をどうとったか、
「ほら、いつものUFO。昨日も近くを飛んでるの見かけた」
そう、子供の頃から、祐次のヤツ、UFOをよく見かけるのだ。俺の周りの何人かの友人たちも、UFOを見たことがあるみたいだが、断然、祐次が見かける確率が高いようだ。ちなみに、俺は生まれてこの方、一度も見かけたことなんてない……
「でな、俺考えたんだ。なんで俺ばっかりUFOみるんだろうって。俺だけ、特別に霊感がつよいのか? それとも、たまたまなのか? 昨日は、風呂入っても、布団にもぐりこんでも考えてた。そして、ハッと気がついたんだ。もしかして、あのUFOは俺のことを監視してるんじゃないかってな」
「はぁ!?」
「宇宙人たち、俺を監視しているから、俺がUFOを見かける機会が多いんじゃないかってな。そうだろ? 俺の周りにしょっちゅう来るから俺が見かけるのであって、それは俺を監視している、観察しているからだって考えれば、つじつまが合うじゃん!」
「……」
なんとなく、つじつまは合ってはいるような気もしないでは、なくもなくて……
っな、話があって、たまるか! でも、ありそうではあるような……
混乱してきた。
「宇宙人が、なんで俺なんか監視しているんだろうな? なにか俺に特別な能力でも……」
うんうん、早食い、すかしっぺ、いろいろお前、得意だよな。
「でも、俺、普通の人間だし、特殊能力なんてもっているはずもないし」
すこし頭痛くなってきた。おいおい、本気か? そんなことで考え込むなよ。
「あっ、でも、UFOに乗っているのって、なにも宇宙人である必要なんてないんじゃないか? もしかしたら、UFOは宇宙を飛び回る宇宙船なんかじゃなくて、未来から来たタイムマシーンであってもいいんじゃないか?」
しかし、今日は秋晴れのいい天気だ。雲ひとつない青空が気持ちよさそうだ。こんな日は公園のベンチで昼寝でもしたい。
俺は教室の窓の外を眺めながら、そんなことを考えていた。
「もし、タイムマシーンだとしたら、中に乗っているのは未来人。未来人が監視・観察する対象といったら…… おい、聞いてるか?」
「あ、もちろん、聞いてる。聞いてる」
窓の外を小鳥が飛んでいった。俺も空を飛べたら。それこそUFOに乗って。
「未来人が監視・観察する対象といったら、歴史にその実情が正確に伝わらなかったけど、なにか歴史を変えるようなことをした偉人ぐらいしかないだろう? な?」
俺は『ああ、そうだな』なんて、曖昧にうなずく。
「ってことは…… 俺をこんな風に執拗に監視しているってことは…… 俺、絶対、将来偉人になるってことだろ?」
「……」
「将来偉人になる人間が、一時のテストの成績ごときで、おたおたなんかしてられるか! な?」
なるほど、なるほど言いたいことは分かった。分かったのだが……
俺は、心底あきれていた。
はいはい、好きなだけ、そういう現実逃避の白昼夢を一人で楽しんでいてくれ。
そして、俺は、ズキズキする頭を抱えて、適当に言い訳して、その場を離れていった。
ひとりバラ色の将来を夢見て、にやけている祐次を残して。
校庭に出た。
しかし、祐次のヤツのどこに偉人の可能性があるっていうのだ!
祐次はもっと自分自身のことを知らなくては。
大体、未来人にしてみれば、観察対象者が将来偉人になるって知ってしまったらまずいんじゃないか?
タイムパラドクスっていうのか? 卵が先か、鶏が先かって話になっちゃうわけだ。ん? なんか違う気もするが……
そうだ、兄貴が言ってた、モラルハザードとかいうのも関わってくるだろうな。将来自分が偉人になるって分かっていたら、安心してしまい、一生懸命には勉強しなくなって、偉人になれるだけの能力が身につかないってことも……
となると、対象者の祐次がUFOが見えるって、すごくまずいことなんじゃ……?
未来人が観察している対象は、UFOなんて見えない方が未来人には好都合?
というか、見えないように未来人の技術でなんとかするんじゃ?
……
……
……!?
そういえば俺……
俺は、雲ひとつない秋晴れの空を振り仰いだ。
宇宙の深淵につながるような深い青空を背景に、透明な何かがキラリと光ったような気がした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる