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2010年作品

星の数ほどの人間たちの中から、あなたに出会えた奇跡

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 昼食をとって、お腹がくちくなり、ぽかぽかとしたうららかな陽射しが差し込む午後の古文の授業。
 すでに教室の三分の一の生徒たちは、居眠りの態勢をとり、夢の世界にいる。
 そんな教室の窓際の一番後ろの席、あすかは、教室の中の男子生徒たちの半そでシャツの背をひとりずつ眺めていた。

――佐藤君。野球部のキャプテン。スポーツ万能で、彫りの深い男らしい顔立ち。クラスの女子たちの憧れ。
――深沢君。軽音部の人気バンドのボーカル。女の子かと見まごうようなルックス。その甘い歌声を耳にするだけで、女の子たちがとろけてしまう……
――井上君。隣のクラスの現生徒会長の双子の弟。優等生の兄に対して、近所でも評判の不良。でも、女の子には優しくて、紳士的。彼のことを好きな女子は数知れず。

 はぁ~ ホント、このクラスの男子って、レベル高いわ。

 他にも、石川君、本田君、三瀬君、鈴木君。どの男子も美形ぞろい。眼の保養になるわぁ~♪
 あら、今村さん、今日も木下君のこと、うっとり眺めちゃって。熱心に見つめちゃっているから、奥手な木下君、耳まで真っ赤になっちゃって。うふ。かわいい。
 そんな風にして、クラス中の男子のことを眺め回したあすかの視線は、最後にただ一人、隣の席の男子の方へ向けられた。

――このクラス、こんなに素敵な男子がいっぱいいるのに、でも、私、心の底から、こう思うのだわ。この人しか、見ていたくはないのって。

 視線の先にいる大野は、あすかの視線に気がついて、優しく微笑みかけた。
 あすかもニコリと微笑みかえす。

――そう、たくさんいる男子の中で、私が選んだのはこの人だけ。私、この人だけしか見ていたくはないの。

 そうして、あすかは、机の上で腕を組み、その中へ顔をうずめた。
 それから、ゆっくりと頭を回し、大野の方へ顔を向ける。

――多くの男の中から、あなたを選んだの。私、あなただけを選んだの。だから、あなたは私に選ばれたことを誇りにおもって、私を大切にしなくちゃいけないのだわ。

 やがて、あすかの席からは、スースーとリズミカルな寝息が聞こえてきた。





 大野は、隣でのんきに居眠りしているあすかを見た。
 かわいらしい寝息を立てている。長い髪が寝顔を縁取って、白い肌を際立たせ、美しかった。
 この寝顔を自分だけのものにしたい、だれにも見せたくないと心から思った。

――あすかって、ホント、かわいいな。でも、藤田さんや、喜多さん、水本さんなんかも、それぞれに色気だとか、萌え要素とかあって、すごくいいよな。

 このクラスの女子の水準、すんげぇ高い!

 まるで学校中の美少女をわざわざ選んで集めたみたいだ! ホント、いいよなぁ~ 俺、このクラスでホントよかった。
 大野は、クラスの美少女たちの後姿を一人ひとり眺めた。
 でも、すぐに眉をひそめ、小さく口の中で舌打ちした。

――チェッ! 木下のヤツ、今日も今村さんに見つめられやがって! いい加減、お前らやめろよ! とっとと分かれちまえ! そしたら、俺が今村さんのこと慰めてやるのに!

 しばらく、頭の中で失恋した今村さんとのことをあれこれ妄想していたが、ふっと我に返って隣のあすかの寝顔に見入る。

――ふふ。ホントかわいいなぁ~ このクラスの美少女たちの中で彼氏持ちでなかったのはこいつだけだったけど、残り物に福ありって本当だよなぁ~ 絶対、こいつのことは大切にしたいよなぁ~



 ふっと、大野の視線の先で、あすかの唇が小さく動いているのが見えた。

『ス・キ』

 そう動いているように見えた。でも、相変わらず規則正しい軽やかな寝息も聞こえている。

――寝言か?

 大野は目を細め、それでも、つぶやいていた。

『ああ、俺もだ』

 あたたかな陽射しがふりそそぎ、クラスの半数が居眠りしている午後の古文の授業時間だった。
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