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2010年作品

席替え

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 新学期最初のロングホームルーム(道徳)の時間、うちの中学では、いつも席替えをする。
 小学校のときから、ずっとそうだったし、私たちとは違う小学校から、進学してきた同級生たちも、今日は席替えだって、騒いでいたから、たぶん、この風習は全市的なものなんだろうな。
 手れたもので、学級委員長と副委員長でさっさとくじを作って、みんなに順に引かせる。
 みんなは神妙な表情で、くじを次々に引いて、その結果に一喜一憂。
 片思いの相手の隣の席だと喜んでいる子がいるかと思えば、教室の一番前の席だと、嘆いている子も。
 私の番。
 私としては、別にどこでもいい。
 特に、気になる男の子がいるわけでもないし、勉強が嫌いではないので、前でもいいし、目はいい方だから、一番後ろでも。
 くじの結果は、一番後ろ、廊下側から二番目の列だった。
 全員がくじを引き終わったところで、机を抱えて移動開始。
 新しい場所に机を置いて、静かに座る。
 廊下側の隣には、吉原君。

「よっ! これからしばらくよろしくな、江上」

 二カッと笑顔。

「う、うん。よろしく……」

 ちょっとドギマギした。

 やがて、新しい座席表を作成するために紙が順番に回されはじめた。
 紙が自分の手元に来れば、そこに自分の名前を書き込んで、次の人へ回す。
 席替えをしたことを忘れて、自分の席が分からなくなったりしないように、壁に貼られるための座席表。もちろん、それだけでなく、教壇の上にも、縮小コピーしたものが貼り付けられて、教師たちが生徒たちの出欠状況を簡単に確認できるように役立てられるのだけど……
 座席表の紙が席から席へ移動している間に、黒板の前では、担任が、学校からの連絡事項の話をしていた。
 と、吉原君が私を呼んだ。

「江上」
「え?」
「はい、座席表」

 座席表の紙を受けとり、鉛筆をとって、私の席のマス目を探し、私の名前を……

『江上かすみ』

 え? 私の名前がすでに書き込まれている。

 驚いて、まじまじと座席表を見つめていると、

「江上、名前かいてよ」

 隣から、吉原君が声をかけてきた。
 そちらを見ると、自分を指差し、ニカッと笑っている。
 もう一度、座席表をよく見ると、私の隣の廊下側の席、空白だった。
 私の席の私の名前、普段の私の字ではなく、男っぽく、ゴツゴツした字。
 見てるだけで、自然と頬が熱くなる。
 ひとつ大きく息を吸って、鉛筆を動かした。

『吉原秀樹』

 その瞬間から、私にとっての特別な四文字。
 いつまでも、心臓がドキドキしていた。
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