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2009年作品
トンネル
しおりを挟む思い出せば、高校時代、三年の夏、地方大会二回戦、九回裏、あと一人打ち取れば勝利だというところで、エラーをして以来、俺の人生は長いトンネルに入った気がする。
俺めがけて、転がってきたボール。
いつも練習でやっているように、しっかり腰を落とし、止めればよかった。
ほんのちょっと、腰の落とし方が甘かった。グラブの差し出すタイミングが遅かった。
アッと気づいた頃には、もうボールは俺の脚の間を通り抜けていった。
三塁にいた同点のランナーも、二塁の逆転サヨナラのランナーも、ホームの上で抱き合って喜んでいた。
ゲームセットのサイレンが鳴る中、チームのみんなは自分たちが悔しいのにも関わらず、俺を暖かく慰め、励ましてくれた。
でも、俺は、泣きじゃくるばかりで、みんなに『ごめんごめん』と謝り続けていた。
高校を卒業し、俺は監督のツテを頼って、地元の食品会社に就職した。
野球部OBの上司はことあるごとに、自分たちが県大会ベスト十六に進出したことを自慢した。そして、俺の野球部での最後のプレーをあざ笑うのだった。
俺は、二年間、耐えた。
でも、ついに我慢できなくなり、その上司を殴ってしまった。
そのまま、俺は会社を辞めた。
それ以来、アルバイトをしながら、生活費をかせぐ毎日。
朝から晩まで一生懸命働いても、もらえる給料は、ごくわずかだった。
あの瞬間が何度も何度も、夢の中に出てきては、俺を苦しませ続けた。
あのとき、あのとき、俺が……
チームのみんな、本当すまない。
あのプレーひとつで、みんなの三年間を終わらせてしまって。
あるとき、俺はある情報を耳にした。
中央アジアのある国で少年野球の指導者を求めているらしい。
俺は、早速、その事務所へおもむき、雇ってもらえるように交渉した。
俺のことを知らない世界へ、知らない国へ。
無心に白球を追う少年たちに囲まれて、野球を再び心から楽しみたい。
長いトンネルを抜けた国際長距離バスの窓から振り返ると、背後には、巨大な山塊が黒々とそびえたっていた。
クビを痛めそうなほど高い位置に、万年雪に覆われた頂が望める。
このような巨大な山にのしかかられながらも、今通り過ぎてきたトンネルは、崩れることもなく、ひしゃげることもなく、人々の往来を支えている。
どのように、暗い大きな力といえども、トンネルをつぶすことはできない。トンネル内にあるうちは、一方方向にしか進めなくとも、山の持つ暴力的な圧力によって、押しつぶされるなんてことはないのだ。
トンネルであるかぎり、どんなに暗い世界でも通りぬけることができる。前へ進みさえすれば、最後には広い世界へと飛び出すことができる。
国境の長いトンネルを抜けると、そこは緑の草原の国だった。
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