6 / 61
2009年作品
兄貴
しおりを挟むオイラたちは、この家のガレージで生まれた。そして、今もここに住んでいる。
キジネコの母ちゃん。黒のブチネコの兄貴とキジのオイラ三匹家族。
オイラたちが生まれた頃は、母ちゃんが一人で近所を歩き回って、エサを見つけていたけど、最近、なぜだか、ガレージの入り口にカリカリやミルクの皿なんかが置かれるようになった。
それに、オイラと兄貴は、この家の子供たちと追いかけっこをしたり、ジャンプして飛びついてみたり、時には、裏庭の木によじ登ってみたのはいいけど、高くて怖くて飛び降りられなくなったときに、助けてもらったりするようになった。
結構、たのしいやつら。
母ちゃんは『人間はずるくて悪いやつらばかりだから、気をつけな!』なんていっていたけど、この家の人間は、それほど悪いやつらではないようだ。
オイラたちが、生まれてから、暑い季節と寒い季節を一回ずつ経験した頃、母ちゃんはいなくなった。たぶん、あっちの野原に移動したんだと思う。母ちゃんの大好きなノラの黒ネコおじさんを追いかけて……
はじめのうちは、オイラたち母ちゃんがいなくなったことで、すごくさびしかったけど、でも、すぐに慣れた。母ちゃんがいなくなっても、兄貴がいるし、兄貴にはオイラがいる。それに、この家の子供たちだって、いつも楽しいし。
ところで、兄貴は、かなり意地汚いネコ。
この家は、オイラたちのために、カリカリの皿もミルクの皿も二つずつ用意してくれている。なのに、いつも自分の分をあっという間に、空にすると、オイラの皿にクビを突っ込んで、横取りしようとする。そのたびに、前脚で、兄貴の頭を押しのけて、オイラの皿を確保しようとしなくちゃいけない。結構、面倒だし、疲れちゃう。
そういえば、オイラたちがまだ赤ちゃんだった頃、兄貴のヤツ、オイラがしゃぶりついている乳首を、いつも横から奪おうとしていたっけ。
同じネコとして、弟として、そんな強欲な兄貴が恥ずかしい。
でも、今日は、兄貴の姿が見えない。
朝、ガレージの前、車が急停車する音で目が覚めた。キキキーーーーという、タイヤがものすごい音を立ててきしむ音……
そのときには、もう、隣で寝ているはずの兄貴、いなかった。
どこいったんだろう? トイレかな? トイレだったら、またそのうちもどってくるだろう、ってことで二度寝したんだけど、目が覚めたときにも、やっぱり兄貴、もどっていなかった。
それどころか、滅多に動いているのを見たことがないガレージの車が、この日に限って、いなくなってた。
今日は、兄貴がいなくなって、いつもあるはずの車もなくなるなんて、ヘンな日。
ともかく、目が覚めたので、入り口のカリカリを食べに行ってみると、カリカリとミルクの皿はひとつずつしか用意されてなかった。
今日は兄貴がいないし、横取りされる恐れがないから、ゆっくり食べられるなんて、うれしくなったけど、でも、なんだろう、この感覚。ぽっかりと心の中に空洞ができたというか、体の中に風が吹き抜けていくような感じ……
オイラどうなっちゃったんだろう?
大好物のカリカリを食べても、胸につっかえでもできたみたいで、なかなか飲み込めない。ミルクも水みたいで味もしない。結局、オイラ、いつもの半分も食べられなかった。
オイラが以前のようにお腹いっぱいまでカリカリを食べられるようになったのは、それから十回ほど日が昇って、日が沈んだ頃だった。
あの日以来、久しぶりに車が動いたと思ったら、帰ってきた車のドアが開いて、黒ブチの毛並みが飛び出してきた。
すっかりやせ細って、後ろ足びっこを引いている。
そして、今日も、兄貴、自分の分をとっとと空にして、オイラのカリカリを横取りしようとしている。
ほんと、強欲な兄貴。ネコとして、弟として、恥ずかしい!
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
スカートの中、…見たいの?
サドラ
大衆娯楽
どうしてこうなったのかは、説明を省かせていただきます。文脈とかも適当です。官能の表現に身を委ねました。
「僕」と「彼女」が二人っきりでいる。僕の指は彼女をなぞり始め…
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる