とても快適な生贄?ライフ

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【ルイside】


目の前で静かに寝息をたてる彼女は、魔法を無意識に使いそうになるくらい怖い夢を見たようだった。

原因はきっと昨日の件だろう。


はじめて彼女と街に出た日に、彼女が変な男に目をつけられたのは気づいていた。
それが王子だと気づいたのは、最近のことだったけれど。

視線に気づいてすぐに彼女自身に保護魔法をかけたし、帰って彼女の部屋にも保護魔法をかけておいた。
王子が彼女の居場所を突き止めてからは、仕方なく家を空ける時は、呼びたくはないがあいつまで呼んで気をつけていた。

王子は彼女を手に入れるために、森に何度も人を送ってきていた。
もし彼女が王子のことを好いているならそのまま見送ろうとも思っていたけれど、その様子もなかったから、何度も処理したし時には言伝を預け送り返した。

そしてやっと、私が面倒な依頼を請け負うことで解決したはずだったのに、あのクソ野郎はあっさりと裏切りやがった。

毎日長い時間家を空けて遠出して、言う通りにしてやったというのに、あの時間はなんだったんだろう。

こんなことなら依頼をこなす時間を、サラに文字を教える時間や、彼女とお茶する時間にあてたかった。


その後城がどうなったかは知らないが、あの時、もっと痛めつけておけばよかったかもしれないな……。


彼女が居なくなったことに気づいた瞬間、考えるより先に体が動いていた。

彼女に渡した指輪があることによって居場所は分かっていたから、迷うこともなかった。

ただ念の為、一度森に戻って状況を伝え、森にも何かあったらいけないと結界をかけ直したりに時間がかかったのが悔やまれる。


彼女が無事に帰ってきたからといって、何もなかった、よかった、なんて思っていない。

私が居るから大丈夫だろうと油断していた自分も、彼女に怖い思いをさせたあいつも許せない。
もっと言えば、彼女に気安く触れたことも、彼女をあいつの視界に入れたことも、彼女の視界にあいつが映ったことさえも気に食わない。

自分のことも、もちろんあのクソ野郎も許すつもりはない。


「ごめんね、サラ」


初めて名前を呼ぶのがあんな場面になるとも思わなかった。
あのときは必死で、咄嗟に呼んでしまったけど、本当は君に許可を貰ってからと思っていたのに。


君が“ルイ様”って呼んでくれる度に、私の心は不思議とあたたかい気持ちになる。

両親が亡くなってからは誰にも呼ばれたことのなかったその名前は、ただ私を苦しめるものでしかなかったのに、不思議と君が呼んでくれるとそんなことを忘れてしまう。

だからこそ君の名前を気軽に呼ぶことが出来なかった。


こんな私の考えは、人間の君からしたら変だろうな。

でもやっぱりまだ名前で呼ぶのは躊躇してしまう。
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