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第二章 王太子の登場
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「そういえば、あの男が言っていた『今回のミス』とはどういうことだ?」
「あ……。アレン様に、件の聖女様の顔に整形しろと迫られたのです。手術は一ヶ月後で、一生傍にいろと」
ともすれば愛の告白だが、相手はあのアレン様だ。言葉の意味は全く異なる。
「どこまでも不愉快な奴だな。そんな戯言を真に受ける必要はない」
怒気を孕んだ声音で一条さんが吐き捨てる。正義感故かわたしを思ってなのかは判断つかないが、心強いことに変わりなかった。
「どうやらカイラ様が隣国の王太子に心変わりなされたそうなのです。それでアレン様はそのようなことを……」
「そんな自尊心の塊みたいな人なら嫌気が差して当たり前だわ」
「隣国の王太子様は人格も優れていらっしゃいましたし、お顔もアレン様より整っておりました」
茜音さんの辛辣に言葉につられて、つい余計なことまで喋ってしまった。
現代風に例えるなら、アレン様は学校一のイケメンで隣国の王太子は顔面国宝級の俳優だ。加えてカリスマ性と絶対的な権威を持ち合わせていたのだからカイラ様が惹かれた理由も分かる。
「そんなすごい人の心を射止めるなんてよっぽど愛嬌があったのね」
「……たぶん、話を聞いて欲しかったのではないでしょうか」
感心したような茜音さんの言葉に、ぽろりと本音が漏れた。
上位貴族であればあるほど、心は孤独だ。常に両親の意に従い、付き合う人間も損得で決まる。取り巻きからの言葉は上辺だけの賛同のみで、底の見えない笑みを向けられ、精神は摩耗していく。アレン様もよく愚痴を零していた。
そんなときに、自分の言葉ひとつで表情をくるくる変える人に出会ったら。
「些細なことで心から怒り、笑う彼女は文字通り陽だまりのような存在でした。機嫌を損なわないように振る舞うだけのわたしとは違います」
「だから何だ? 命を奪っていい理由にはならない」
即座に切り返された言葉は、こちらが息を呑んでしまうほど鋭かった。
「報いは必ず受けさせる」
いつもと異なる雰囲気に戸惑うわたしたちに、一条さんは静かにそう告げた。
「あ……。アレン様に、件の聖女様の顔に整形しろと迫られたのです。手術は一ヶ月後で、一生傍にいろと」
ともすれば愛の告白だが、相手はあのアレン様だ。言葉の意味は全く異なる。
「どこまでも不愉快な奴だな。そんな戯言を真に受ける必要はない」
怒気を孕んだ声音で一条さんが吐き捨てる。正義感故かわたしを思ってなのかは判断つかないが、心強いことに変わりなかった。
「どうやらカイラ様が隣国の王太子に心変わりなされたそうなのです。それでアレン様はそのようなことを……」
「そんな自尊心の塊みたいな人なら嫌気が差して当たり前だわ」
「隣国の王太子様は人格も優れていらっしゃいましたし、お顔もアレン様より整っておりました」
茜音さんの辛辣に言葉につられて、つい余計なことまで喋ってしまった。
現代風に例えるなら、アレン様は学校一のイケメンで隣国の王太子は顔面国宝級の俳優だ。加えてカリスマ性と絶対的な権威を持ち合わせていたのだからカイラ様が惹かれた理由も分かる。
「そんなすごい人の心を射止めるなんてよっぽど愛嬌があったのね」
「……たぶん、話を聞いて欲しかったのではないでしょうか」
感心したような茜音さんの言葉に、ぽろりと本音が漏れた。
上位貴族であればあるほど、心は孤独だ。常に両親の意に従い、付き合う人間も損得で決まる。取り巻きからの言葉は上辺だけの賛同のみで、底の見えない笑みを向けられ、精神は摩耗していく。アレン様もよく愚痴を零していた。
そんなときに、自分の言葉ひとつで表情をくるくる変える人に出会ったら。
「些細なことで心から怒り、笑う彼女は文字通り陽だまりのような存在でした。機嫌を損なわないように振る舞うだけのわたしとは違います」
「だから何だ? 命を奪っていい理由にはならない」
即座に切り返された言葉は、こちらが息を呑んでしまうほど鋭かった。
「報いは必ず受けさせる」
いつもと異なる雰囲気に戸惑うわたしたちに、一条さんは静かにそう告げた。
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