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第二章 王太子の登場
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しおりを挟む「……なんだ貴様は。この俺に指図するとはなんと傲慢な」
「それはお前の自己紹介か?ずいぶんと自己分析が的確じゃないか」
「貴様、この俺を誰だと心得ている。成宮家の一人息子、亜蓮だぞ」
今世での名前もアレン。生来の名か改名したかは定かでないが、プライドの高さは健在らしい。
アレン様の尊大な物言いを一条さんは一笑に付した。
「生憎、ここは中世ヨーロッパじゃない。お前が何者であろうとオレには全く関係ないな」
「何だと?」
「お、おふたりとも」
いよいよわたしたちを取り巻く雰囲気が剣呑になってきたとき。
「――おいあれ、一条様と……。隣にいらっしゃるのは成宮家の御子息じゃないか?」
「違いない。関わりがあるようには見受けられなかったが、あんな人気のないところで一体何を?」
元々注目を浴びていた一条さんとアレン様の組み合わせは意外なようで、どんどん視線が集まってきた。
「ちっ、一条千早。貴様ただですむと思うなよ」
悪い意味で目立つのは避けたいのかアレン様が踵を返す。ほっとしたのも束の間、彼は視線だけをわたしに寄越した。
「俺は寛大だからな、今回のミスの仕置きは後にしてやる。自分がどうするべきなのか、もう一度考えてみろ」
アレン様はそう吐き捨てると、今度こそ振り返らずに立ち去った。彼の姿が完全に見えなくなったのを確認すると、急に膝の力が抜けた。
膝をついているというのに、足が震え出す。
怖かった。相手がわたしのトラウマと言っていいアレン様だから尚更。
「大丈夫か?」
一条さんが屈んでわたしに視線を合わせてくれる。その表情はいつになく不安げだったけれど、わたしは首を縦に振ることができなかった。
「よく、抗ったな」
ふっと微かに一条さんが微笑んだ。
(笑っ、た?)
初めて見る表情に、どくんと心臓が大きく跳ねた。慈しむような視線に鼓動が鳴り止まない。
「さて、場所を変えるぞ。立てるか?」
はっと状況を思い出した。そうだ、今の最優先は今後のことだ。アレン様への対処を考えなければならない。最後まで抗うと決めたのだから。
わたしは気を引き締めて立ち上がった。
※※※
「あがってちょうだい」
アパートの自室に招き入れてくれた茜音さんの表情は固い。おそらく、あらかたの事情を一条さんから伝えられたのだろう。
あのあと、一条家本家に戻って着替えを済ませたわたしたちは茜音さんの家に向かった。一条さん曰く、家の者以外が本家の一室を使用する際、使用人の同伴が義務付けられているという。
茜音さんならわたしが異世界からの転生者ということを知っているため落ち着いて話ができるというわけだ。
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