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第一章 因縁の世界へ転生
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一条家。日本有数の資産家であり、代々要人を輩出する名家。多岐な分野で頭角を現す一族が各界に及ぼす影響は計り知れず、その躍進から目が離せない。ネットで調べた情報を簡潔にまとめるとこんな感じだ。
だから、彼の口から出た社交パーティーという単語には驚かなかった。由緒正しい名家なのだ、そういう場に参加することもあるだろう。
問題は。
「なぜそれにわたしが……?」
彼と一緒にパーティーに参加する理由だ。貶すつもりはないが、わたしの家はごく普通の一般家庭である。どう考えてもつり合わない。
「本来参加するはずだったオレの姉に急遽出張の予定が入った。パーティーは一週間後。場所は――」
「お義兄さま、お待ちなって。茉衣が固まっているわ」
茜音さんが呆れたように助け舟を出してくれた。友達という存在のありがたみを感じたのも束の間、衝撃的な言葉に思考が止まる。
「あら、本当に固まっているわ。茉衣、大丈夫?」
「だ、大丈夫です。それよりその、おふたりってもしかして」
「義兄妹だ」
横から答えたのは一条さんだった。この人が、兄。
(……あれ、でも)
名字が違う。疑問が喉元まで出かかって、口を噤む。
権力者。同い年の子ども。性別は違えど、多くの人を惹き付ける見目の麗しさ。
点と点が繋がって、二の句が紡げない。どこの世界でも上の人間のすることは変わらないのだ。そのことを思わぬ形で実感し、胸に苦い思いが広がる。
「でもお義兄さま、どうして茉衣なの? あなたと踊りたい御息女はたくさんいると思うけれど」
幸いにもわたしの心境に気づいた様子なく、茜音さんが無邪気に疑問を呈する。
一方、その質問でわたしは何となくの意図を察してしまった。
「オレが他家の女と連れ添えば、お気に入りだの婚約者だの騒ぐ連中が出てくる。それに、継承権を剥奪されたオレでも玉の輿を狙って関わりを持ちたい奴はごまんといるからな。いちいち対応するのが面倒だ」
継承権の剥奪。恐らく契機は、一条さんが髪を金色に染めたことだろう。だがそれでも、彼の目に留まりたい家はたくさんあるという。おこぼれを期待してか、もしくは、とわたしは一条さんを盗み見た。
彼は口にしなかったが、一条さんの顔立ちの良さも年頃の女性から人気を得ている一因だろう。
長い間外に出ていないような白い肌。涼やかな切れ長の黒い瞳に、鼻筋がしっかりと通っている貌立ちは芸術のような美しさだ。
「私が言いたいのは、なぜ普通の家の茉衣を選ぶのかということよ。あんなところに彼女が放り込まれたら辛い思いをするに決まっているわ」
思い出すところがあるのか、茜音さんは形の良い眉をしかめた。
だから、彼の口から出た社交パーティーという単語には驚かなかった。由緒正しい名家なのだ、そういう場に参加することもあるだろう。
問題は。
「なぜそれにわたしが……?」
彼と一緒にパーティーに参加する理由だ。貶すつもりはないが、わたしの家はごく普通の一般家庭である。どう考えてもつり合わない。
「本来参加するはずだったオレの姉に急遽出張の予定が入った。パーティーは一週間後。場所は――」
「お義兄さま、お待ちなって。茉衣が固まっているわ」
茜音さんが呆れたように助け舟を出してくれた。友達という存在のありがたみを感じたのも束の間、衝撃的な言葉に思考が止まる。
「あら、本当に固まっているわ。茉衣、大丈夫?」
「だ、大丈夫です。それよりその、おふたりってもしかして」
「義兄妹だ」
横から答えたのは一条さんだった。この人が、兄。
(……あれ、でも)
名字が違う。疑問が喉元まで出かかって、口を噤む。
権力者。同い年の子ども。性別は違えど、多くの人を惹き付ける見目の麗しさ。
点と点が繋がって、二の句が紡げない。どこの世界でも上の人間のすることは変わらないのだ。そのことを思わぬ形で実感し、胸に苦い思いが広がる。
「でもお義兄さま、どうして茉衣なの? あなたと踊りたい御息女はたくさんいると思うけれど」
幸いにもわたしの心境に気づいた様子なく、茜音さんが無邪気に疑問を呈する。
一方、その質問でわたしは何となくの意図を察してしまった。
「オレが他家の女と連れ添えば、お気に入りだの婚約者だの騒ぐ連中が出てくる。それに、継承権を剥奪されたオレでも玉の輿を狙って関わりを持ちたい奴はごまんといるからな。いちいち対応するのが面倒だ」
継承権の剥奪。恐らく契機は、一条さんが髪を金色に染めたことだろう。だがそれでも、彼の目に留まりたい家はたくさんあるという。おこぼれを期待してか、もしくは、とわたしは一条さんを盗み見た。
彼は口にしなかったが、一条さんの顔立ちの良さも年頃の女性から人気を得ている一因だろう。
長い間外に出ていないような白い肌。涼やかな切れ長の黒い瞳に、鼻筋がしっかりと通っている貌立ちは芸術のような美しさだ。
「私が言いたいのは、なぜ普通の家の茉衣を選ぶのかということよ。あんなところに彼女が放り込まれたら辛い思いをするに決まっているわ」
思い出すところがあるのか、茜音さんは形の良い眉をしかめた。
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