臆病な元令嬢は、前世で自分を処刑した王太子に立ち向かう

絃芭

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第一章 因縁の世界へ転生

009

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   ぞく、と背筋に悪寒がはしる。少ない文字に込められた諦念が、赤の他人のわたしにもひしひしと伝わってくる。

「……明日も学校ですね」

 思わずため息が漏れる。とはいえ休むわけにもいかない。歯磨きを済ませ、わたしは憂鬱な心持ちでベッドに潜り込んだ。

※※※
 学校というだけでも辛いものがあるのに一限目から移動教室となると気分は地底まで落ちる。しかも小難しい化学。一緒に行動する友達もいないので早々に騒がしい教室を抜け出した。

 一番乗りだと思っていたが、化学講義室には先客がいた。茶色がかった色素の薄い髪をひとつに束ね、凛と背筋を伸ばしてノートを開いている。前回の授業の復習だろうか。自主的に勉学に励むとはしっかりしている。

 問題があるとすれば、わたしの席がその女子生徒のすぐ前であることだ。席が近いため、若干の気まづさを覚える。後方にある座席表を見て知ったが、化学では出席番号で席順が決まるらしい。わたしの席のすぐ後ろに座っている彼女の名前は若狭朱音。

 そさくさと自分の席につこうとしたが、彼女の席の横を通りすぎるときに一瞬だけ見えてしまった。若狭さんがノートに何を書いているのか。

 てっきり復習に広げていると思っていたノートには、かわいらしいうさぎのイラストが描かれていた。

「わ……! とてもかわいいですね!」

 思わずあげた感嘆の声に、声を掛けられると思っていたのか若狭さんの肩がびくりと震える。驚いたような様子を見せたのも一瞬で、みるみるうちに顔が朱色に染まっていく。

「――馬鹿にしてるわけ?」

 どこか既視感のある物言いよりも、怒りで顔を真っ赤にしている若狭さんの言葉が予想外すぎて狼狽えてしまう。

「不快にさせてしまったなら申し訳ござい……すみません。純粋に素敵なイラストだと思っ」

 わたしの言葉はばたん!と勢いよくノートを閉じた音で途切れた。機嫌を損ねてしまったようで、おもむろに教科書を開いたっきりこちらに一瞥も寄越さない。

「……申し訳ございません」

 深々と頭を下げ、大人しく自分の席に座る。話しかけないほうがよかったのだろうか。褒めるつもりが逆に怒らせてしまった。自責の念がぐるぐると胸をかき乱す。

 授業が終わる。後ろに座っていた若狭さんが踵を返す気配がしても、わたしはその場から動けなかった。


※※※
 ぼす、とベッドに倒れ込む。やけに長く感じられる一日だった。

「この生活が、この先ずっと続いていくのでしょうか……」

 思わず弱音を吐いた、そのとき。
 


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