臆病な元令嬢は、前世で自分を処刑した王太子に立ち向かう

絃芭

文字の大きさ
上 下
3 / 24
第一章 因縁の世界へ転生

003

しおりを挟む
 見渡す限り、黒、黒、黒。

 同じ色の髪を持つ聖女、セイラを恨んではいないが苦手意識がかなり強い。彼女が王太子の周りを引っ付きまわすせいで婚約者であるわたしが社交界で後ろ指をさされたし、愛されているという自信故かマウントをとられたこともあった。聖女のような心優しき人だと称されていたがわたしにとっては苦手そのものだ。

 授業終了時刻を数分過ぎて、教師がチョークを置いた音がした。委員長が号令をかけて教室の空気が緩んだ瞬間、わたしは教室を飛び出した。廊下に出ると他のクラスのドアから黒髪の男子が数人出てきて思わず視線を逸らした。髪が黒いというだけでも怖いのに、複数人いるとなったら逃げるしかない。

 濃い緑色の廊下を駆ける。

 怖い。怖い。周りは知らない人だらけで、スカートは短くて慣れない。すれ違った教師から廊下を走るなと怒鳴られたが足を止められなかった。
一度止まったら恐怖に足が縛り付けられる気がして、わたしはもつれながらも足を動かした。

 渡り廊下へと続く角を曲がる。購買へと目指す生徒でごった返していて、しまったと顔が青ざめた。人が少ない通りを求めたのに逆効果ではないか。しかし、移動の流れに逆らってまで踵を返す勇気はない。どうしよう。黒に溢れる視界の先に光が見えた。

 いや違う。正確にいえば光ではなく髪を金色に染めた頭だ。それでもわたしにとってはやっと見つけた見知った髪色だった。

「ま、まって」

 蚊の鳴くような小さな声で縋るが当然ながら気づかない。だが諦められなかった。空いた距離を縮めるべく少し走る速度をあげる。

 その男子生徒は後ろからついてくるわたしの存在に気づいていないようだった。一度も振り返ることなく、すたすたと歩いていく。その迷いない足取りに次第に不安が心を占めた。

 どこに行くつもりだろう。

 腕時計を確認したところ、あと三分ぐらいで次の授業がはじまる。教室からどんどん離れていく様子に次の授業はさぼるしかないと覚悟を決めた。

 男子生徒は立ち入り禁止と書かれた紙が張ってあるコーンの横を通りすぎた。その先は屋上だったはずだ。立ち入りはもちろん禁止されているが彼は躊躇なく階段を登っていく。音を立てないように気をつけながら、わたしもそれにならった。

 ドアノブが回る音がして扉が開く。目的地はやはり屋上らしい。姿が見えなくなったのを確認し、わたしも屋上の扉の前へ足を運んだ。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

黒公爵と稲妻令嬢

吉華(きっか)
恋愛
ミストラル王国の侯爵家の一つであるフェリシテ家。そこの一人娘として生まれたエクレールは、両親に愛され使用人達にも慕われ、第二王子の婚約者にも内定し幸せに暮らしていた。しかし、エクレールが九歳の時に元々体が弱かった母が逝去してしまい、愛する妻に先立たれた絶望から父は領地に圧政を強いるようになってしまう。 それから一年後。領民の反乱が起こった事をきっかけに、フェリシテ家の爵位と領地は没収されてエクレールは平民となり、王子との婚約も破談になってしまった。修道院に行こうとしていたエクレールに救いの手を差し伸べたのは、母の腹心の侍女であったシトロン。娘のガレットと共に故郷に戻る予定だという彼女の誘いを受け、国境沿いの村で暮らす事に。 村で暮らし始めて七年。エクレールは、あと一週間で十七歳の誕生日を迎えようとしていた。村娘としての生活もすっかり板につき、村に来てから始めたハーブ栽培にのめり込んだ関係で、エクレールの自室には所狭しとハーブの鉢植えが置かれていた。 その日も、いつもと同じように過ごしていた。夕飯の準備をするガレットを手伝いながら、他愛もない話をして。欲しいと言われて自室にハーブを取りに行こうとした矢先、来客を告げるドアノッカーの音がなった。来客の応対をガレットに任せ、自室に戻ったエクレール。しかし、突如ガレットが声を荒げているのが聞こえてくる。 慌てて様子を見に行ったエクレール。そこにいたのは、半泣きのガレットと仕事帰りのシトロン。 そして、もう二度と対面出来ると思っていなかった、元婚約者のミストラル王国第二王子、ノワール・ミストラルが立っていた。

銀鷲と銀の腕章

河原巽
恋愛
生まれ持った髪色のせいで両親に疎まれ屋敷を飛び出した元子爵令嬢カレンは王城の食堂職員に何故か採用されてしまい、修道院で出会ったソフィアと共に働くことに。 仕事を通じて知り合った第二騎士団長カッツェ、副団長レグデンバーとの交流を経るうち、彼らとソフィアの間に微妙な関係が生まれていることに気付いてしまう。カレンは第三者として静観しているつもりだったけれど……実は大きな企みの渦中にしっかりと巻き込まれていた。 意思を持って生きることに不慣れな中、母との確執や初めて抱く感情に揺り動かされながら自分の存在を確立しようとする元令嬢のお話。恋愛の進行はゆっくりめです。 全48話、約18万字。毎日18時に4話ずつ更新。別サイトにも掲載しております。

【短編】ショボい癒やし魔法の使い方

犬野きらり
恋愛
悪役令嬢のその後、それぞれある一つの話 アリスは悪役令嬢として断罪→国外追放  何もできない令嬢だけどショボい地味な癒し魔法は使えます。 平民ならヒロイン扱い? 今更、お願いされても…私、国を出て行けって言われたので、私の物もそちらの国には入れられません。 ごめんなさい、元婚約者に普通の聖女 『頑張って』ください。

冷めたイモフライは本当は誰かに愛されたい

メカ喜楽直人
恋愛
仕事が終わった帰り道。お腹が空き過ぎたオリーは、勤め先である惣菜店で貰って来た売れ残りのイモフライを齧りながら帰ることにした。冷めていて古くなった油でべとべとのそれは当然のことながらオイシイ訳もなく。「まずいまずい」と変なテンションで笑いながら食べていると、そこに誰かから声を掛けられた。 「こんな夜中にどうしたの?」 戦争中に両親を亡くし、継ぐべき家を失った元子爵令嬢が怪しげなおじいさんに拾われて、幸せになるまでの話。

悪役令嬢は楽しいな

kae
恋愛
 気が弱い侯爵令嬢、エディット・アーノンは、第一王子ユリウスの婚約者候補として、教養を学びに王宮に通っていた。  でも大事な時に緊張してしまうエディットは、本当は王子と結婚なんてしてくない。実はユリウス王子には、他に結婚をしたい伯爵令嬢がいて、その子の家が反対勢力に潰されないように、目くらましとして婚約者候補のふりをしているのだ。  ある日いつものいじめっ子たちが、小さな少年をイジメているのを目撃したエディットが勇気を出して注意をすると、「悪役令嬢」と呼ばれるようになってしまった。流行りの小説に出てくる、曲がったことが大嫌いで、誰に批判されようと、自分の好きな事をする悪役の令嬢エリザベス。そのエリザベスに似ていると言われたエディットは、その日から、悪役令嬢になり切って生活するようになる。 「オーッホッホ。私はこの服が着たいから着ているの。流行なんて関係ないわ。あなたにはご自分の好みという物がないのかしら?」  悪役令嬢になり切って言いたいことを言うのは、思った以上に爽快で楽しくて……。

悪役令嬢は王子の溺愛を終わらせない~ヒロイン遭遇で婚約破棄されたくないので、彼と国外に脱出します~

可児 うさこ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。第二王子の婚約者として溺愛されて暮らしていたが、ヒロインが登場。第二王子はヒロインと幼なじみで、シナリオでは真っ先に攻略されてしまう。婚約破棄されて幸せを手放したくない私は、彼に言った。「ハネムーン(国外脱出)したいです」。私の願いなら何でも叶えてくれる彼は、すぐに手際を整えてくれた。幸せなハネムーンを楽しんでいると、ヒロインの影が追ってきて……※ハッピーエンドです※

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完

瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。 夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。 *五話でさくっと読めます。

処理中です...