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58.社畜サラリーマンはいまだ癒えない傷に触れる
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「いやだぁああああ、兄さーん!!」
悲鳴とどこか快楽が混ざり合った声を上げながら志鶯はルアクに無事連れていかれた。
志鶯とは、元の世界では色々ありあまり得意ではなかったが、こちらの世界に来てあの事件以降は少し関係は氷解してきていた。
結局、志鶯も親に振り回された被害者であるということが分かり、以前ほどの拒絶反応はなくなっている。だからといってべったりとした関係を築きたい訳ではないから、丁度今くらい距離感で接していければよいなと考えている。
「志鶯がルアクと結婚するならお祝してあげたいな」
ボソっと呟いた私の体を大きなもの、竜帝陛下が後ろから抱きしめた。
「シヅル、他を祝う前にまずはふたりの結婚式を成功させねばならないだろう??」
後ろを振り向くように首を傾ければ、竜帝陛下が少し拗ねたような顔をしている。その少し子供っぽい仕草が何故かいとおしくて私は少し笑いながら、
「……ええ、もちろん」
と答えれば、すぐにいつもの嬉しそうな顔に変わる。この人はそれこそ私と比べたら途方もない歳月を生きているのにこういう風に素直に愛情を表現してくれるところが愛おしいと最近は感じる。
(私はまだ、素直になれないから……)
「まずは全裸ウェディングを阻止しないと……もっと私好みに……」
「ああ、シヅルが望むなら余は伝統も打ち壊す覚悟があるぞ」
そう言った竜帝陛下が後ろから首を伸ばして私に口づけをしようとしたとき、置物のようにおとなしくしていたヘイズが声を上げた。
「あの……お取込み中に申し訳ございませんが、私の話がまだ途中だったことお忘れではありませんか??」
「ああ、そうだったな。てっきり、先ほどの異世界人の話かと思ったがちがったのか??」
竜帝陛下が私への甘さとは対照的な冷めた態度でそう答えると、ヘイズはそれを慣れた様子で無視しながら言った。
「……リュカ殿下が正気に戻られたそうで、番様と異世界人様のおふたりに謝罪をしたいとおっしゃっているそうなのですが、こちらいかがいたしますか??」
その名前に、体がビクリと震えた。
すっかり忘れたつもりでいたが、無理やり召喚されて痛めつけられた記憶と、ルゼルの時の意味もなく嫌われたまま殺られた記憶がよみがえる。
「……シヅル、無理に謝罪を受ける必要はない。たとえ洗脳されていたとはいえ、シヅルとルゼルが余の愛おしい番が受けた痛みが消えるわけではない」
「……その件についてはすぐに回答が難しいので少し考えさせてください」
悲鳴とどこか快楽が混ざり合った声を上げながら志鶯はルアクに無事連れていかれた。
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結局、志鶯も親に振り回された被害者であるということが分かり、以前ほどの拒絶反応はなくなっている。だからといってべったりとした関係を築きたい訳ではないから、丁度今くらい距離感で接していければよいなと考えている。
「志鶯がルアクと結婚するならお祝してあげたいな」
ボソっと呟いた私の体を大きなもの、竜帝陛下が後ろから抱きしめた。
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後ろを振り向くように首を傾ければ、竜帝陛下が少し拗ねたような顔をしている。その少し子供っぽい仕草が何故かいとおしくて私は少し笑いながら、
「……ええ、もちろん」
と答えれば、すぐにいつもの嬉しそうな顔に変わる。この人はそれこそ私と比べたら途方もない歳月を生きているのにこういう風に素直に愛情を表現してくれるところが愛おしいと最近は感じる。
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「ああ、シヅルが望むなら余は伝統も打ち壊す覚悟があるぞ」
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「あの……お取込み中に申し訳ございませんが、私の話がまだ途中だったことお忘れではありませんか??」
「ああ、そうだったな。てっきり、先ほどの異世界人の話かと思ったがちがったのか??」
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「……リュカ殿下が正気に戻られたそうで、番様と異世界人様のおふたりに謝罪をしたいとおっしゃっているそうなのですが、こちらいかがいたしますか??」
その名前に、体がビクリと震えた。
すっかり忘れたつもりでいたが、無理やり召喚されて痛めつけられた記憶と、ルゼルの時の意味もなく嫌われたまま殺られた記憶がよみがえる。
「……シヅル、無理に謝罪を受ける必要はない。たとえ洗脳されていたとはいえ、シヅルとルゼルが余の愛おしい番が受けた痛みが消えるわけではない」
「……その件についてはすぐに回答が難しいので少し考えさせてください」
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