59 / 68
55.社畜サラリーマンと……(ルゼル視点と志鶴視点)
しおりを挟む
ハラハラとアナイスが消えた時、私の中の何かが解放されるのが分かった。
それが、何かははっきりとは分からない。ただ、ひとつ分かるのは私としての意識を保つことが出来るのがもうあとわずかであるということだ。
本来であれば、私はこの目の前の竜帝陛下と番いになり、ずっと抱いていた孤独から解き放たれて幸せに暮らすことができたのかもしれない。しかし、そうはならなかったのでもしかしてあったかもしれない想像をすることはできない。
「竜帝陛下……」
「ルゼル……余の番い」
その口から番いと言われた時、涙が頬を伝うのが分かった。前世では涙を流すことは許されなかったからしらなかったその感覚はとてもあたたかく、言葉にできない感情が胸の中を駆け巡る。
それは後悔でも憾みでもなく、もっと春の日の日だまりの下にいるようなそんな気分だった。
そうして悟る。私は、消えるのではなくきっと今、私の魂を持つシヅルという異世界人に完全に融合するのだろう。
ー今度こそ私は誰にも邪魔をされずに番いと死がふたりをわかつ日まで愛し合うことが出来るのだろう。
「ああ、最期に一度だけ、一度でいい。私を強く抱きしめて欲しい」
両手を広げた私に竜帝陛下が困ったような笑みを浮かべた。
「最期なんていわないでくれ。これからは余はシヅルも其方もずっと愛して、何度だって抱きしめるつもりなのだから……」
そう言うと、あたたかいキスの雨が顔中に降り注いでから、ジャスミンの香りに優しく閉じ込めるように抱きしめられた。
(とてもあたたかい……ずっとこのままでいたい)
とても穏やかな眠気が私を包む。このまま、このぬくもりにとけてしまえれば嬉しいと思って瞳を閉じる。まるで心地よい春の眠りのような感覚に静かに身をゆだねればそのまま意識がゆっくりと失われていった。
*******************************************
私は長い夢を見た。
私が私になるまでの長い長い夢を。沢山の生まれ変わりの中で愛を得ることが出来ずに絶望した幾千の記憶を。それは人間に耐えられないような孤独だった。
暗い冬の海の底にいるような絶望的な世界で、それでも私はその時々で足掻き続ける。それは僅かに光る海面の光に近付くためだったのかもしれない。
『大丈夫、今度は幸せになれるはずだ』
根拠のない自信に近いその言葉を何度も口にしながら最期まで孤独だった生も、全てを諦めて孤独に終わった生も、人々を愛し続けたが裏切られ続けた生も、全てがまるで編み物の網目のように重なり、そして、私は私に、立花志鶴になったのだ。
全てを理解して私は目を覚ますとそこには……、
「シヅル……」
目の周りを赤く腫らしたいとおしい人の顔があった。
それが、何かははっきりとは分からない。ただ、ひとつ分かるのは私としての意識を保つことが出来るのがもうあとわずかであるということだ。
本来であれば、私はこの目の前の竜帝陛下と番いになり、ずっと抱いていた孤独から解き放たれて幸せに暮らすことができたのかもしれない。しかし、そうはならなかったのでもしかしてあったかもしれない想像をすることはできない。
「竜帝陛下……」
「ルゼル……余の番い」
その口から番いと言われた時、涙が頬を伝うのが分かった。前世では涙を流すことは許されなかったからしらなかったその感覚はとてもあたたかく、言葉にできない感情が胸の中を駆け巡る。
それは後悔でも憾みでもなく、もっと春の日の日だまりの下にいるようなそんな気分だった。
そうして悟る。私は、消えるのではなくきっと今、私の魂を持つシヅルという異世界人に完全に融合するのだろう。
ー今度こそ私は誰にも邪魔をされずに番いと死がふたりをわかつ日まで愛し合うことが出来るのだろう。
「ああ、最期に一度だけ、一度でいい。私を強く抱きしめて欲しい」
両手を広げた私に竜帝陛下が困ったような笑みを浮かべた。
「最期なんていわないでくれ。これからは余はシヅルも其方もずっと愛して、何度だって抱きしめるつもりなのだから……」
そう言うと、あたたかいキスの雨が顔中に降り注いでから、ジャスミンの香りに優しく閉じ込めるように抱きしめられた。
(とてもあたたかい……ずっとこのままでいたい)
とても穏やかな眠気が私を包む。このまま、このぬくもりにとけてしまえれば嬉しいと思って瞳を閉じる。まるで心地よい春の眠りのような感覚に静かに身をゆだねればそのまま意識がゆっくりと失われていった。
*******************************************
私は長い夢を見た。
私が私になるまでの長い長い夢を。沢山の生まれ変わりの中で愛を得ることが出来ずに絶望した幾千の記憶を。それは人間に耐えられないような孤独だった。
暗い冬の海の底にいるような絶望的な世界で、それでも私はその時々で足掻き続ける。それは僅かに光る海面の光に近付くためだったのかもしれない。
『大丈夫、今度は幸せになれるはずだ』
根拠のない自信に近いその言葉を何度も口にしながら最期まで孤独だった生も、全てを諦めて孤独に終わった生も、人々を愛し続けたが裏切られ続けた生も、全てがまるで編み物の網目のように重なり、そして、私は私に、立花志鶴になったのだ。
全てを理解して私は目を覚ますとそこには……、
「シヅル……」
目の周りを赤く腫らしたいとおしい人の顔があった。
55
お気に入りに追加
592
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・話の流れが遅い
・作者が話の進行悩み過ぎてる

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます


【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる